第33話 番外編 ヒロインとして悪役令嬢ざまぁしたけど、失敗したので異世界で聖女になります

 私はキャサリン・ハイザマーレン。公爵令嬢よ。意地悪なイザベラお姉様の処刑を見物しながら、これで私が王太子妃ねって喜んでいたのに、突然、お姉様の体が消えちゃった。


「冤罪で処刑される令嬢を神が救った」とか言い出す人がいて、私が悪者にされたの。


 なによ、みんなだって、あんな嫌味ったらしくて、厳しいお姉様が王太子妃になったら大変だって言ってたじゃない。だから、追い出してあげたのに。私は悪くないわ。


 でも、アルフォンソ様との婚約はなくなった。領地でおとなしくしていても、いつまでたってもみんなに責められるから、家族でこっそり隣国に引っ越すことにしたの。


 険しい山道を馬車で走っている時に、大雨が降って崖から落ちたみたい。

 その瞬間に「ヤダ。死にたくない」って思ったわ。そしたら、異世界に召喚されてた。


 氏名 キャサリン・ハイザマーレン

 レベル 16

 職業 聖女(見習い)

 住所 なし(後宮予定)

 HP 180

 MP  90

 契約精霊 なし


 聖力 A

 精霊共感力 A

 精霊抵抗力 D


 私は、聖女ランクが高いから特別なんだって。他の女の人達とは違う部屋に案内されたの。私とあと3人だけ。でも、一番可愛いのは私よね。


 召使いをたくさんつけてもらって、いい部屋で過ごせたわ。この世界のことも教えてもらった。もうすぐ、精霊界ってところに行って、王族に会うんですって。王子様は3人。私ったら異世界でも王族と結婚する運命なのね。でも、この世界の王子様ってかっこいいのかしら。悪いけど、顔がいい人しかお断りよ。って思っていたら、素敵な男性がいたの。


 精霊の王宮ってすごく豪華だったの。

 だって、壁や柱やそこら中に、大きなキラキラのダイアモンドがはめられているのよ。すごいわ、私にピッタリ。私のための世界ね。


 私たち特別な聖女の4人を王様は歓迎してくれたわ。

 真っ黒な長い髪の優しそうな王様。王子様が3人もいるからおじさんかと思ったけど、とても若いの。王子と血は繋がってないんだって。


「よく来てくれたね、聖女たち。精霊界はそなたたちを歓迎する。ここでの生活は保証しよう。第一王子か我か、どちらの後宮に入るか選ぶと良い」


 王様はダイアモンドの玉座の上から、優しい声で、わたしたちの顔を見ながら言ったわ。王様の声って素敵なの。優しくて、安心できて、ずっと聞いていたい。

 何も怖いことがないって言ってくれてるみたい。

 それとは逆に、第一王子はちょっと冷たい感じの、怖いくらいの美形ね。


「陛下の後宮には11人の聖女が住んでいる。私の後宮は、今回初めて立ち上げたので、まだ誰もいない。どちらに行っても、人間界よりも良い暮らしを与えよう。」


 銀色の長髪に銀色の瞳で氷の王子様って感じ。すごくきれいな顔をしてるけど、人を寄せ付けない感を出してるの。こういう人を落とすと楽しいのよね。

 あと、もう1人、


「オレは後宮なんて必要ない」


 って言って、さっさと部屋を出ていった赤い髪と目の第三王子もいたわ。こっちは、男らしい野性的な感じ。


 ああ、もう、全員びっくりするぐらい美形だわ。どうしましょう。王様の方が好みだけど、ライバルが少ない第一王子の後宮がいいかな。他の聖女3人もまあまあ美人だけど、私のほうが絶対可愛いから、一番になってやるわ。

 だけど、


「遅いぞ。シャルトリュー」


「悪かったね。でも、僕には関係ないから好きに決めてくれていいよ」


 金色の王子様が現れたの。キラキラした金の髪を耳にかけて、物憂げな微笑みで、はちみつみたいに甘い声でしゃべったの! 黄金の瞳を見たとたん、私は一目で恋に落ちてた。

 見た瞬間に分かったわ。この王子様が私の運命だって。



「おまえの部下から聞いたぞ。人間界にいる召喚聖女と契約したとか。犯罪者との契約は外聞が悪い。聖女が欲しいなら、おまえも後宮を作れ」


「彼女は犯罪者じゃないよ。後宮はいらないから、クロムに全員あげるよ」


「人間界に残ったAランク聖女は、元の世界では犯罪者だ。まあ、罪の程は知らぬが、法を守れないものを側に置くのは王族としてふさわしくない」


「だから、そんなんじゃないよ。まあ、後で説明するから、はやく聖女を全員引き取ってよ」


 私がこんなに愛を込めて見つめているのに、金の王子様は氷の王子様と話をしていて、全然こっちを見てくれないの。だから、気づいてほしくて、近くにいったわ。抱きつこうとしたけど、恥ずかしがって避けられちゃった。


「私があなたの聖女になりますわ。金の王子様。犯罪者の女より私のほうが、あなたにふさわしいもの」


 胸の前で手を組んで目を大きく開いて、金の王子様を見つめたの。こうしたら男は簡単に落ちるわ。でも、王子様はこっちを見てくれない。


「この聖女にしておけ。勝手に魅了にかかっているから、扱いやすそうだ」


「お断りだよ、面倒くさい。そんな人間はうっとうしくて仕方ないね」


「お前の契約聖女は違うのか」


「まあね。手放すつもりはないよ」


 どうして、私の手を取ってもらえないのよ。私を見て!こっちを向いて!


「わたしのこと、キャシーって呼んでください。愛してます! あなたのためならどんなことだってしますわ。私の王子様。他の女なんて殺してやる! 私だけの王子様!」


 泣き叫んで、愛を誓ったのに。

 兵士が無理やり私を別の部屋に連れて行ってしまった。

 ああ、金の王子様。



 どうしても金の王子様に会いたいの。だから、スケベそうな獣耳をつけた男にお願いして、王子様の寝室にこっそり連れて行ってもらったわ。なかなか聞いてもらえなかったけど、他の獣頭男と何か話をした後で、やっと案内してもらえたわ。王子様の寝室で服を脱いで待っていたの。かわいい私の誘惑には逆らえないはず。素敵な夜をごちそうするわ。


 でも、来たのは金の王子様じゃなくて、ちょっと怖そうな男の人。全身ヒョウ柄の服で獣耳としっぽをつけてるの。趣味悪い。顔は、まあかっこいいんだけど、王子様とは比べ物にならないわ。

 その男が、いきなり腕を掴んでベッドから引きずりおろしたの。レディに失礼だわ。文句を言おうと思ったら、体から力がぬけちゃった。力が無理やり引きずり出されたみたいで、ふらふらして、気を失ってしまったの。


 次に目が冷めたのは、狭い部屋の安っぽいベッドの上。粗末なワンピースを着せられてた。こんなの私にはふさわしくない。召使いを怒鳴ってやったんだけど、獣耳をつけたおじさんがやってきて、腕を掴まれて、力を抜かれて気を失ったの。


 毎日、それの繰り返し。もう、自分で起き上がることもできない。誰も手入れしてくれないから、自慢の紫の髪は、色が抜けてパサパサになったし、なんだか手のシワも増えたわ。鏡がないから、姿は見られないけど。


 目が覚めたら、獣耳男がやってきて、気を失って、また、違う獣耳が来ることの繰り返し。中には力をとるだけじゃなくて、ひどいことをする男もいるわ。もう、疲れちゃった。ねえ、何が悪かったの。お願い、助けて……。金色の王子様……。

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