第20話 参観日は憂鬱

 周りの精霊にペコペコされながらやってきたのは、あごのとがった浅黒い顔に、大きな鼻と丸い目をした男性。黒いマントで体を覆っている。と、思ったら、体がヒトじゃなかった。マントじゃなくて、コウモリの羽根みたいなもので体を包んでいる。体は動物で頭の部分だけがヒト。新しいパターンだ。

 精霊貴族って美形ばかりかと思ってたけど、そうでもないんだなって失礼なことを思ってしまった。

 でも、できれば体は羽で隠しておいてほしい。首から下がちょっと怖いよ。


「ようこそおいでくださいました。準男爵様。担任のバンリ・バトラールです」


 バトラール先生が敬礼した。

 イザベラが急いで前に来て、


「ごきげんよう。オーギュスト様」


 と、カーテシーで優雅に挨拶した。


 イザベラが得意げに教えてくれたことによると、オーギュストという精霊は、準男爵のコウモリ精霊だそうだ。準男爵になると、男爵への挑戦権が与えられるらしい。決闘を挑んで勝利すれば、男爵になりかわれるとか。結構な弱肉強食だ。


 精霊辞典には、貴族については詳しく載っていないので、クラスメイトたちも興味深げにイザベラの説明を聞いていた。


 その後、続々と参観精霊たちがやって来て、皆それぞれの生徒の横に立って魔石に魔力を充填している。参観精霊の多くは上級精霊。カピパラ、ウサギ、モルモットの頭が見える。……ふれあい動物園みたい。かわいい、癒やされそう。


 シャルは、まだ来ない。


「全員そろったか。」


 バトラール先生が教室を見回した後、真ん前の私と目が合って、気の毒そうな顔をした。


「ああ、おまえか。なにか、魔力をこめた魔石とか持ってないか?」


 先生の言葉に、ヒョウ柄精霊にもらった石をポケットから取り出して見せる。


「これは!……すごいな。ああ、これで充分だ」


 よかった。授業に参加できるみたい。


「では、今から黒板に書く呪文を覚えろ。いいか、完全に覚えて、目を閉じて唱えないと効果は発動しないぞ。これくらいの呪文も覚えられないようなら、この先は厳しいと思え」


 先生は、黒板に向って大きな字で呪文を書いた。


 112101090101651031548104


 数字だと!?

 まあ、幸いなことに、私は数字に強い。

 心の中でやった!とつぶやいて、周りを見る。

 他の生徒は、顔色を悪くして、必死に数字を唱えながら覚えている。


 呪文は覚えたけれど、なんの武器にするか悩んでいると、一番に手が上がったのはイザベラだ。さすが優等生。


 イザベラはお辞儀をして、前に出てくると、目をつぶって数字を唱えた。手に持った黒い石から煙が出てきて、おどろおどろしい装飾のついた黒い剣に変わった。


「ふっ、また、おまえに会えるとはね。………封印をとかれし冥府の剣よ! 敵を滅ぼせ! パニッシュメントー!!」


 叫び声とともに、剣でトルソーを滅多切りにした。


 !…………。


 その後、イザベラに続いて、みんなも真似をしたのか、

「う……。ジャッジメント……」とか「……ファントムペイン」と恥ずかしそうに小声で言いながら、弓や剣で攻撃していた。


 それ、言わないといけないの? 恥ずかしいのなら言わなきゃいいのに。聞いてる方が恥かしいよ。


 様子を見ているうちに、そろそろ、残っている人が少なくなって来たので、手を挙げて前に出る。

 みんなのバカにしたような視線を感じる。精霊が来ていないのは私だけだもんね。仕方ないか。


 気にしないようにして、目を閉じて呪文に集中する。

 縞模様の黄色い石が変わったのは、小さな果物ナイフ。

 平和な日本人は、ナイフや包丁ぐらいしか武器の経験がないのだ。

 包丁は痛そうだから、よく料理に使っていた小さいナイフで。

 嘲笑が聞こえる中、ナイフを両手でつかんで、こわごわとトルソーに突き刺した。ごめんねってつぶやきながら。


 ただの果物ナイフだったのに。


 突き刺さったところが、ジュッと燃えて、トルソーは一瞬で跡形もなく燃え尽きた。


 なんで? ただの果物ナイフだよ???



 後で、思い出したのは、契約指輪につけられた「炎属性付加」だった。


 カナデ は 炎のナイフ を 手に入れた。

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