2年生編

第19話 2年生の始まり

「どうかな?」

 金色のツノを生やした精霊が、何度も鏡を覗き込みながら、同じことを聞いてくる。

「この格好おかしくないかい? やっぱり、ツノをもう少し大きくした方がいいかな。ツノは男らしさと強さの象徴だっていうから、こんなに小さいと弱く見られない? 見下されたらいやだなぁ」

 金色の精霊は、今日もとても眩しく美しい。紺色のスーツも似合っている。この精霊を見下せる人なんている?


 一緒に寮の部屋から出ようとする精霊を押しとどめる。


「ちゃんと、校門から入って来て。2年生の教室で待ってるから」


 今日は精霊授業参観日。シャルが初めて、契約精霊としてお披露目される。今まで諸事情があって隠してきたけど、男爵精霊として参観日に出席するのだ。かなり、無理のある設定だけど。特にドラゴンのツノ設定。おそらく、学校の関係者は不自然さに目をつぶり、知らないふりをしてくれるだろう。怖いから。


 寮の玄関で管理人さんに挨拶する。新学期だから早く来てたみたい。

「おはようございます。ググルさん」


 今日はローブの下には、制服のワンピースではなく、薄手のセーターとロングスカートを着てみた。どうせ長いローブで見えないからね。2年生になると、みんな校則を軽く破っておしゃれするのだ。着ている服は、シャルが聖力の代金として、金貨をたくさん置いていくので、もう、おさがりをもらう必要はなくなった。

 どうもシャルは、自分で買い物をしたことがないらしく、金貨の価値が分からないようだ。


「おはよう。進級おめでとう」


 ググルさんは書類からちらっと顔を上げて、挨拶を返してきた。今度、娘さんに今までの服のお礼にお菓子を買って贈ろう。頭の中で、やることリストをチェックする。


 2年生への進級テストはなんとか合格。

 ローブの胸元につけた出席番号は「2-18」。2年生の18番だ。25番からだいぶ順位が上がった。でも、クラスメイトのうち5人も退学した。

 試験結果が悪かった者は、留年ではなく、すぐに退学になるらしい。退学した後は、軍隊での仕事があるそうだ。なんだか不穏な情報。軍隊があるってことは、精霊の力で戦争するの?誰と戦うの?


 教室のドアを開ける。今日は遅かったので、ほとんどのクラスメイトが来ていた。中心にいるのはイザベラ。2年になってもクラスの1番だ。ただ、イザベラの取り巻きのメンバーが違う。赤い髪の女性がいなくなっていた。目が合ったけど、知らぬふりをして、1番前の中央の席に座る。1年の時と同じ、私のやる気アップ席。


「カナデさん。あなたは進級できたのね。ものすごくがんばったのね、えらいわ。良かったわね」


 座ったとたん、さっそくイザベラがやってきた。

 なんで、いつもいつもいつも、わざわざ来るんだろう。


「悲しいことに、バーナはいなくなってしまったのよ。」


 いつもより、声に元気がないのは取り巻きが、一人退学したから?


「だから、サークルに空きができたの。あなた、入りなさい」


 また、勧誘。うんざりする。


「いいこと? 2年生のサークル活動は本当に重要なのよ。2年の進級試験には、サークル活動の実績が加算されるの。あなたこのままじゃ、1年後に消されるわ。ううん、中間考査もあるから早くて半年……。絶対入るべきよ。あなたが入れるサークルは、他にないんだから」


 進級試験が終わった直後に、次の試験の心配をしなきゃいけないなんて。でも、サークルには、入るしかないのかな。退学して、シャルと一緒に軍隊で働くなんて、怖すぎる。


 チャイムが鳴って、ようやくイザベラから解放された後も、頭の中では嫌な考えが残っていた。


 2年の担任は大柄な中年の男性。くたびれた灰色のスーツを着ている。

 バトラール先生は各席に、透明のガラスみたいな石を配った。


「今日の参観授業で使う。この魔石に精霊から魔力をもらって行う魔術実践だ」


 石を手に取ると冷たくて、軽かった。以前、ヒョウ柄精霊のロイにもらった魔石は、もう少し暖かくて、ずっしり重い。


 契約精霊が来る前に、手順を説明された。

 まず、契約精霊が魔石に魔力を入れる。そしてその魔力を使って、武器を作って、的を攻撃する。それだけだ。


 うん……。武器。


 日本の学校では持ったこともないし、教わったこともない。こわいな。

 っていうか、聖女の仕事って、治療とか結界を張ったりするんじゃないの? 戦闘聖女なの?


 退学したクラスメイトが、軍隊でどんな仕事をしているのか気になる中、職員が教室に20体の的を運び込んだ。洋裁屋さんに置いてあるトルソーみたいなもの。頭と手足のない胴体だけの模型。……戦う敵は人間ですか?

 異世界こわい。やっていけるかな。


 周囲のクラスメイトは、どんな武器を出そうか話し合っている。

 武器、武器。ライフルとか手りゅう弾とかロケットランチャーとか思い浮かんだけど、もちろん使ったことはない。どうしたらいいのか悩んでいると、廊下が騒がしくなってきた。参観者が来たようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る