第13話 精霊感謝祭準備
精霊感謝祭では各クラス、各サークルごとに出し物をする。サークルには加入してないから、私が準備するのはクラスの分だけ。1年生は毎年、聖力を込めた飴玉サイズのシャーベットを作って売る。
この聖力玉は賞味期限が短く、しかも保管に聖力を込めた聖氷器が必要なので、この時期に、ここでしか販売されない激レア商品だ。高価格設定でも飛ぶように売れるらしい。売上の1割は制作者のもの。俄然やる気がでる。前日は、徹夜してでも作らなきゃ。
その後も、シャルは寮の部屋に不法侵入してきた。
友達がいない私の、唯一の話相手だから、ドアを開けた時にベッドに座っているシャルを見つけて、すこし嬉しくなるのは秘密だけど。
「来週かな。感謝祭は?」
「うん、私はクラスの出し物の聖力玉しか作らないけど」
受け答えしながら、ローブを脱ぐ私の様子を、シャルは面白そうにずっと見つめている。
寒くなってきたから、カーディガンをロッカーから取り出す。
シャルがおいでと自分の横をぽんとたたいた。
素直に隣に座って、差し出された手を取る。
すっと聖力が抜き取られる感覚がして、ちょっと背筋が震える。聖力譲渡のせいだよね。美形の精霊のせいじゃない。軽い酩酊感。シャルはうつむく私の顔を覗き込んで、くすっと微笑った。譲渡は終わったのに、手は繋いだまま。
「カナデの聖力玉も、カナデみたいに、こんなに甘いのかな」
食べてみたいな。
かすれた声が耳に届く。
ビクッとして、無理やり手を離すそうとしたのに、シャルは両手でつかんでくる。そのまま手の甲をゆっくりと愛撫された。
「シャルの分は取り除いておくから」
涙目で言ったけど、なかなか手を放してもらえなかった。
明日は精霊感謝祭。寮の食堂を借りて、聖力玉を作る。
果汁液にジャムを混ぜて聖力抽出器に入れてよく振る。そして、それを丸い容器に入れて聖氷器で固めるのだ。
私の入学番号の25という数字が書かれた器具を借りてきた。壊したら、一生かかっても弁償できないぐらい貴重な魔導具だそうだ。クラスの子は一緒に仲良く作ってるけど、私はひとり。
レシピカードを見ながら材料を聖力抽出器に注ぐ。そして聖力を込めてよく振る。
「おいしくなりますように」
たくさん聖力が入るように、がんばっていっぱい振った。
満足する量が作れたので、いい気分で着替えを持ってシャワールームに向かった。3人の女子が廊下で立ち話していた。こっちをじろじろ見てくる。すれ違った時に、陰口が聞こえた。
「劣等生なだけじゃなくて、貴族を怒らせたんだって」
「いい加減にしてほしいよね。学校の恥さらし」
「やっと契約できた精霊にも相手にされないんだってね、スズ」
「うん、手紙もプレゼントも、一度も配達がなかったよ」
スズさんが一緒になって笑う声が響いた。
仲間ができて良かったね。
心の中でスズさんに告げる。
着替えの入ったポーチをギュッと握って、早足でシャワールームに向かった。
大丈夫。私は、強い。
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