第49話 金色に輝く熊

049 金色に輝く熊


ウキウキを隠そうともせず、影野が帰ってきた。

嫌な予感がいや増す、SOG隊員たち。


「弟子たちよ、よく頑張ったな」

「・・・・」彼が何を言い始めたか理解に苦しむ。

「お前たちは立派になった。最後の修行に赴くときがきたのだ」

「どういう意味ですか」


「儂は、山頂近くで魔物を見た。恐ろしく巨大な白熊だった」

「まさか」

「白熊は、魔力にあふれて金色に燃えていた」

「ええと」

「奴を仕留めて修行の締めくくりとしようと思う」


「おそらく、砕心掌では倒すことはできないだろう」

体からあふれる魔力が砕心掌を打ち消すであろう。なぜこんなことを言うかというと、下手に懐に飛び込んで、放てば、弟子は一瞬で真っ二つに分断されることが予見されたからである。


「では、魔刃で」

「そうだな、通じれば魔刃で倒せるであろう」

だが、いま彼らが使っているような術では、無理であろうとは考えていた。

「どういう意味でしょうか」

「はっきり言って、お前たちはよくやっているとは思うが、足りないのだ」

「何がでしょうか」

「ギリギリに追い詰められても、決してあきらめない精神、魔刃に対する飽くなき追求」

それは仕方がないこともある。

生死の境を何度も乗り越える経験などそう簡単にできるものではない。

だが、それが足りなければ、術や技も進化しないのもまた事実であった。

彼らの武術はそういった類のものであった。


「今から5日後、そいつと死合う。皆、本気で用意せよ、死にたくなければな」


影野はそれだけ言って、部屋に引っ込んでしまった。

彼は、自ら確保した白霊の魔石の純度を上げるため、錬成を行うためであった。

鑑定した魔石は純度が低いとでた。

不純物を排除し、合成して、より良い白霊魔石にせねばならない。

影野にとっては、当然の理論的帰結であった。

使い方は不明でも、純度の高いものの方が役に立つことは、どこの世界でも同じであるからだ。


一方のSOG隊員たちは、事の重大性を理解し、震撼していた。

ついに、影野が俺たちを殺しに来たと感じたのも仕方がない。

無理筋の魔獣をぶつけて、修行と称して、抹殺を目論んでいるのではないか?


「かもしれん、だが、よく考えろ、殺すならとっくの昔に殺されてもおかしくない」

将に、それはそうなのだが。

「取りあえず、明日、偵察にでる、場所は聞いたから、浅井、北畠、頼むぞ」

彼らは、スカウトスナイパーである。

「残りの者たちは、全開まで力を高めよう」

もはや、寒いだの無理だの言っている場合ではなかった。


そして、偵察の結果は恐るべきものだった。

体長5mはある金色に輝く熊だった。

気力充溢ということばがあるが、熊は魔力充溢していた。

そして、気配察知能力もずば抜けていた。


「あれは、見ただけでヤバい奴だとわかりました、影野は我々を抹殺しようとしているに違いありません」

「だからといって、師父を殺す訳にも行くまい。起請文の魔力は抗うことはできないらしい」

「・・・・」北畠はその恐ろしさを伝えていたのだ。


影野をなんらかの方法で暗殺したところで自分たちも確実に死ぬだろう。

しかし、熊と影野では、熊の暗殺の方がまだ目はあるだろう。


「明日からは、自らの限界を目指すぞ」上杉は、そう結論した。


影野もまた、彼らに必死の足掻きを求めていたのである。

死中に活を求めることこそ、剣の道なのだ。

たとえ、目的が別なところにあるにしても。


決闘の日はきた。

山頂はうすい靄が掛かっていた。

既に、彼らは、積もっている雪などものともしない。


「この一戦に掛ける、我等は生き残る、絶対にだ、皆生きて日本に帰るぞ」上杉の声には、様々な戦意高揚効果が宿っている。

ギフトのお蔭である。


熊がその力の発動をキャッチする。

彼に近づいてくるすべての存在が彼の獲物である。


「GAAAAAAAAA~~~~!」恐るべき咆哮が人々の心の平衡を打ち砕く。

「うおおおおおおお~~~!」上杉が負けじと叫ぶ。


浅井の対物ライフルが轟音と共に発射される。

もっている武器すべてが使用可能とされていた。

熊の心臓付近に着弾する弾丸。

だが、周囲の毛を飛び散らせ、皮の一部に食い込んで止まる。

皮と脂肪、筋肉は魔力を編みこまれて、手が付けられないほど硬くなっていたのであった。

熊はすぐに4足歩行に切り替える。

心臓が狙われていることを悟ったからである。


第2弾が眉間に撃ち込まれるが、今度は頭骨が弾の侵攻を阻止する。

武田、北畠、上杉が雪を蹴散らしながら三方から疾走する。


「GAAAAAAAAA~~~~!」

しかし、今度は、迫力が足りない。上杉のバフが効いているのだ。

その時、熊の周囲が大爆発した。

毛利のスキル、状態変化を駆使した、水素爆発である。

雪を水に、水を水素と酸素に分解して着火する。

恐るべき火球が発生し、周囲の酸素を焼き尽くす。


突進を企図していた熊は、その爆発で立ち上がっていた。

浅井はさらに射撃する。熊の心臓周辺から血が飛び散る。

だが、致命傷には程遠い。


武田の剣が熊を襲う。

熊の手がそれを払う。

熊の充溢した魔力が、魔刃を阻む。

北畠の剣が腹部を狙うが、それをも払う。

上杉の剣が背中に直撃するが、毛を弾き飛ばして、流れていく。


浅井の射撃が、さらに心臓を穿つ。

しかし、傷が深くなった程度である。

恐るべき強靱性。対物ライフルの射撃なのである。


熊の爪が光り、腕を振るえば、光りになった爪が飛ぶ。

『飛刃』が、浅井を狙う。

熊は、魔術すら使っている。


『飛刃』という技は、実は、かの剣法にも同じようなものが存在していた。

金鵄鳥王魔刃剣の金鵄鳥王剣の部分は『飛刃』の技そのものであったのだ。

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