第47話 白霊
047 白霊
「退魔剣をお持ちなのですか」
「そんなに驚くほどの事なのか」
「はい、非常に希少な金属を使っているといわれております」
「ひょっとしたら、間違っているかもしれない」
さすがに、村長の大きな驚きに、影野は焦った。
自分のもっている剣では通じないかもしれないと感じたのである。
前の異世界では、アンデッド、悪霊系には、ミスリル銀の武器を使えば効果があったのである。
しかし、この世界では効かないのかもしれない。そう考えたのである。
「因みに、希少な金属とはなんだ」
「はい、神銀と呼ばれております」
「神銀、ミスリルのことでいいのか」
「私は、田舎の者なのでそこまではわかりませんが、そのような別名を聞いたことがあるようなないような」
どっちやねん!
「まあ、試せば問題ない。効かなければ逃げるとする」
「はい、白霊は大変危険な魔物です。ですから、村人の死体を一体もって行ってください」
「何!」今度は影野が驚かされる番だった。
何という冒涜的な発言をするのか。
「勘違いなさらないでください、白霊のゾンビ自体は人間ですから、それほど難しくはございません。しかし、抜け出た白霊は別の寄生主を探し始めます。それが雪熊などになれば、この村は全滅します。ですから、村人の死体を置いておけば、それに寄生するのです」
「それでよいのか」
「本当はしてほしくはありませんが、皆さまには大変お世話になりました。本当は、食糧難で、毎年餓死者が出るのです」村長の苦衷は察して余りあるものだ。
お世話になっているので死体を提供するというのである。
「わかった、心遣いに感謝する」
「いえ、こちらこそ村を救ってくださりありがとうございます」
しかし、影野の腹のうちでは、これは使えるな!としかとらえていない。
さすがに、剣が効くかどうかは試す必要があるが、効くならば、白熊の死体をばら撒こうと考えを巡らしていたのである。
今までの、白熊はすべてが心臓を砕かれて死んでいる。
しかし、アンデッドではどうすればよいのか。
弟子たちにとって、良い修行になるであろう。
彼は本当に弟子想いの師匠となったのであろうか。
恐らく、単なる嫌がらせだとしか考えられない。
この男には、そういうところが多々ある。
そして、退魔剣の成分のミスリル銀なのだが、九十九刀のすべては、魔刃を発生するためにこそ、混ぜられている主成分ともいえるものであった。故に、すべての九十九刀には、ミスリル銀が入っている。魔法銀ともよばれるミスリル銀こそ、魔刃を発生させる基本であり製造秘密なのであった。
その日、影野は、その薬草の野原(山腹)に行き、雪の下にある雪見草の群生地を発見し、それを掘り出す。そして、白霊に取り憑かれた、ゾンビを切り捨てる。
何と、白霊ごと破壊したようであった。
「これでは、白霊が役立たずだな」影野は薬草を採集して帰ってきた。
そして、その晩、熊鍋にそれを混入する。
得も言われぬ、うまみが引き出された鍋となった。
薬草にも勿論、魔力が含まれており、この世界の人間はうまみを感じることになる。
しかし、雪見草の根の部分は、朝鮮人参のような形をしていた。
それを見た、影野はこれこそ、本体と人参部分をもってきて、料理に入れてみたのだ。
史上最高の熊鍋に人々は改めて、彼らが神の使徒であるとその念を強めた。
因みに、味付けには、みそやうま味調味料、昆布なども入っており、我々でも十分ウマイものに仕上がっている。
もともと、薄い塩味しかしらぬ、村民には、過ぎたる贅沢の味であったことは間違いない。
次の朝。
「弟子たちよ、滝修行に拳法の修行は充分に積めたことであろう。しかし、我等が祖師が授けてくれたものには、勿論剣法が存在する。弟子たる我らは、当然に祖師の剣法を引き継ぎ高めていく義務をもっているのだ。今日からは、剣法の修行とする」
影野は、宣言する。
それは、白熊の白霊との闘いになるとは、この時彼らは知らなかった。
彼らは、ハンマー(武器として流通している)をもっている。
明らかに、剣法の修行ではないような・・・。
悪い予感を感じる程度には、彼らは、成長していた。
「さあ、今日は白霊との闘いだ、皆、準備をせよ、儂は、必死に皆のために、雪見草を掘るぞ、これが、最強熊鍋の秘密だ。これを加えることで、あの芳醇なうま味が膨らむのだ。うまかったろう」確かに、最強にうまかった。
しかし、なぜか周囲には、白熊の死体が並べられていた。
非常に不気味な光景である。
ギャップがひどいといえるだろう。
「師父、この白熊たちは、以前私たちが狩ったものですか」
「うむ、そうだ。よくわかったな」
誰が見てもわかるわ!
「近ごろは、めっきり熊が減った、我等が乱獲したからだ。これでは、修行にならないことを儂は憂慮したのだ」
因みに、雪豹は、乱獲どころか絶滅したかもしれない。
その毛皮はとにかく高く売れるらしいので、ありったけ狩り倒したのである。
肉は、まずいので、村人に下げ渡している。
彼らは、その不味い肉でも喜んで、保存食にしている。
その代わり、毛皮をなめしてくれている。
彼らの砕心掌は、毛皮に傷がつかない。まさに、毛皮狩りのための拳法であった。
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