異世界帰りの『自称大魔導師』は惰眠を貪りたい。
九十九@月光の提督・連載中
第1話 特殊誘拐対策班(SACT)
001 特殊誘拐対策班(SACT)
特殊誘拐対策班(SACT)スペシャル・アブダクト・カウンターメジャー・チーム
内閣府情報調査室に設置された特殊誘拐を解決するために、日本政府が新たに創設した部署である。
現在の日本国では、特殊誘拐が多発している。
特殊誘拐とは何か?
それは、いわゆる「異世界召喚」の事をいう。
此方の意志に関係なく、召喚されるそれは、日本国側から見ると日本人誘拐事件に過ぎない。
だが、その特殊性ゆえに解決は非常に困難である。
簡単にいうと異世界へと誘拐された人間を保護することは非常に困難(不可能ともいう)であった。
だが、一人の男がその常識を覆したのである。
男の名は、影野 真央(かげの まさひろ)かつて異世界召喚の被害にあいながらも、自らの力で日本に帰ってきたという、知る人ぞ知る人物である。
彼は、異世界へと勇者召喚の儀式により召喚されたが、自らの力によってこの世界に復帰した数少ない人間である。
因みに、公式に確認されている「異世界帰り」は彼ただ一人である。
影野は、その魔術知識により、異世界からの道を切り開き、自ら地球に帰還し、さらにはその知識と技術で誘拐被害者奪還への道を切り開いたのである。
科学と魔術の融合により、異世界への道の端緒を切り開いた魔術の達人である。
自らは、魔導師、あるいは賢者を自称している。
そして、日本国は多発する特殊誘拐に対して解決する手段をとるために、特殊誘拐対策班(SACT)を創設したのである。
影野は、特別公務員としてSACTの班長に就任し自ら問題の解決を目指すことになったのである。
日本国首相は、世間に対してSACTを大々的に宣伝した。
勿論政治的意図のためであったが。
影野について説明すると、彼は高校生3年生の時に異世界召喚に巻き込まれる。
異世界召喚は、基本的に勇者の確保を期待して行われるものだが、彼の場合は、勇者候補のすぐ近くにいたために巻き込まれたものであったという。いわゆる巻き込まれ召喚というやつである。
だが、勇者にこそならなかったが、彼には魔術のスキルが付与(ギフト)され、魔導士として類まれな才能を発揮し、魔術と術具を駆使して、日本へと帰り着くことに成功したのである。
とは、本人談である。
そして、その彼が技術主任となり、科学者(主に軍事技術関連)と連携し技術開発を行い異世界への転移を可能とする機器を開発していったのである。
この技術の開発の成功により異世界へアブダクトされた被害者、アブダクティッドを日本に連れ帰ることが技術的には可能になったということなる。(あくまでも技術的に)
・・・・・
都内某所
内閣府情報調査室特殊誘拐対策班の所在するビル。
勿論、東京都千代田区永田町の官庁街ではない。
場所は、国家機密のため隠匿されているので記すことはできない。
「特殊誘拐事件が発生、場所は長野県××市、内閣官房からの出動命令がありました」
電話番の女性が、俺に向かって声をかけてくる。
非常に珍しい事もあるものだ。
「では、車を回してくれ」
「わかりました」
対策班の部屋には、俺とこの電話番の女性しかいない。
しかも、出動命令はほぼないのだ。簡単に説明すると、日本ではちょくちょく、この手の事件は発生している。しかし、出動命令が出ることは稀であるということだ。
政府は大々的に特殊誘拐対策への解決の道のりを開いた事を喧伝したが、実際に解決した事件は今のところない。
解決するための方法の一つができたに過ぎないということであるが、使われる事がない、いわゆる伝家の宝刀のような存在なのである。
そして、俺の仕事は一日中、新聞を読み、コーヒーを飲み、ネットサーフィンをするのが仕事になっている。日本は平和なのだ。たとえ人々が誘拐されていたとしても。
ビルのエントランスには、自衛官が数名おり、敬礼してくれる。
機材は特殊であり、ほぼ軍事技術を転用したものであるため、操作するのは自衛隊員である。黒のハイエースに乗ると、前後に迷彩の多目的自動車がつく、其れなら、ハイエースも迷彩に塗ればいいのでは?と思ってしまう俺がそこにいた。
俺は、陸上自衛隊にも身分を持っており、階級は三佐となる。いわゆる「少佐」のことだ。
目的地などは、すでに知らされているので俺は、ただハイエースに乗るだけの人間である。
運転手は、自衛官である。
数時間かけて現場に到着。
俺は、寝ていただけだ、現場はサーチライトが点灯し照らし出されている。
地元の警察も一生懸命に事件の証拠を探している。
この事件に俺が駆り出されたのは、調査室参事からの電話で中身を了解した。
調査室参事は、俺の直属の上司に当たるらしい。年に数回しか合わないのであまり顔は覚えていない。
勿論、俺のいる場所には彼が来ないからだ。そして、俺は彼のいる場所に行くこともない。
彼は、市ヶ谷の住人だ。
電話の中身で珍しく何故、出る事になったのかを聞いた所。
「アブダクティッドの中に、衆議院議員の子息が混じっている」らしく、断れなかったとのことだった。
日本は平和だ。アブダクトはおそらくもっと高い頻度で発生しているが俺が出動することはないのだ。
事件現場では、バスが、雪の側壁に激突している。
「見せて貰っていいかな」と地元警察のえらいさんに声をかける。
「どうぞ、よろしくお願いします」話は通っており、俺がその道のプロであることは承知されているようだ。
「バスは、修学旅行生を乗せて、スキー場に向かう途中でした」と刑事が説明してくれる。
「その際に、何らかの事故に巻き込まれ、バスは側壁に激突したのだと思われます」
前方部分が側壁に激突し激しく損傷している。
「運転手とバスガイドが病院に運ばれましたが、すでに心肺停止状態でした」
「生徒は?」
「はい、生徒だけが忽然と消えています」
「なるほど、それで内に掛かって来たのですね」
「まさか、SACTさんが来ていただけるなんて思っても見ませんでした」存在だけ宣伝されている部署だからな。本当にまさかだ。俺も出動命令を聞いて、まさか!と思ったのだから、彼と同じだ。
そう、俺は仕事をしないのだ。いや、させてもらえないのだが。
「なるほどですね」
しかし、異世界あるあるの修学旅行バス転移ってやつですか。
いつも気になっていたのだが、バスごと、谷に落ちるとかあるやつだが、なぜかバスの運転手が転移したというのは、あまりきいたことがない。
つまり、なぜか運転手とガイドは排除されたのだという事で間違いないのだろう。
俺のように、勇者の近くにいただけで巻き込まれ召喚するのに、何故運転手とガイドは巻き込まれないのか俺は、考えをめぐらしていた。答えは勿論でない。(きっとその方が都合がよいのだろう)
だが、現実は巻き込まれを起こさなかったために、彼らは死んでしまったのである。何ともやりきれないものがある。
彼らの賠償金も分捕って来なくてはならないな!と俺は心の中で決意した。
自衛隊員が痕跡調査を行っている。
彼らが手に持っているのは、魔術濃度測定器(マギテスター)と呼ばれる道具である。
日本に復帰した俺が、金を稼ぐために、武器メーカーとタッグを組んで開発したものだ。
武器メーカーといっても有名な大手電気メーカーである。
但し、秘匿技術であるため、一般には公開されていないし買う事も出来ない。
彼らは、事件現場周辺をマギテスターをもってくまなく調査していく。
これが、観測調査と呼ばれるものである。
最も、濃度の高い場所を確定すると、今度は術式の調査に入る。
どのような魔術により召喚されたのかを検証するのだ。
召喚サークル周辺では、すでに眼に見えないが何らかの召喚魔術、おそらく召喚サークルが発生していたであろう場所を特殊な撮影装置で撮影していく。
現場での仕事はそれで終了となる。
後は、撮影された映像から、術式の解析を始めるのである。
俺?何もしていない?いや、班長だからね!
こうして、俺たちは、都内某所へと戻っていくのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます