第三十三話 共依存
様子のおかしい長谷部を見送った優斗は昼食を取るために部屋を出た。すると頭上が騒がしく、バタバタと足音が響いている。会議室は防音が施されていて今まで気付かなかった。何事かと思ったが自分にはなんの報告も無いのだから関係ないのだろう。そう捉えてエレベーターへ向かう。
しかし、上の騒動は昨夜の襲撃から帰還した隊員達への対応のために奔走する情報部だ。四階には司令部があり治療の済んだ隊員がそこに集められて事情聴取が行われていた。突如現れた
向かうのは律に教えて貰った定食屋「亭八」だ。美味しかったのも勿論あるが少しでも律の存在を感じたかった優斗の足は自然と亭八へと向いていた。暖簾を
食事が運ばれてくるしばしの時間、優斗は自分の手を見る。そこには
午後からは武術訓練に参加する事になっていた。座学とは違い、他の特務部隊員と一緒だ。故郷では剣術の鍛錬は祖父と二人だけだったから手合わせするのが楽しみでもある。人の数だけその癖も変わるのだから実戦では経験がものを言う。優斗は実家の手伝いのために部活にも入っていなかった。体育の授業で剣道はあったが優斗が
人は誰しも特別に憧れる。物語のヒーローやヒロイン、一攫千金のアメリカンドリーム。そういった物にだ。だが実際その立場に立たされると怖気付いてしまう。それに相応しく在る事を求められるからだ。ヒーローなら高潔さや公正さを。ヒロインなら清廉さやひたむきさを。一攫千金を夢見る者には強い野心か。だが優斗にはそんなものは無い。ただ流されるままに辿り着いた地で醜い虚栄心で身を固めているだけだ。律や父を非難する資格など持ち合わせてはいない。共切という拠り所が無ければ
求められるならば応えてみせよう。それが例え修羅の道でも。虚栄心と欺瞞に
だがそれでも、律の笑顔が脳裏に浮かべば幸福感に満たされる。こんな自分でも幸せにできる人がいるのだ。一方的であってもいい。律にはいつでも笑顔でいてほしかった。心が壊れていようとも、自分を通り越して共切を見ていようとも、優斗にとって律は既に特別な存在になっていた。それは一種の共依存。お互いがお互いを生きる支えとしている。どちらかが死ねば後を追いかけ兼ねない危険性を孕んだもの。優斗はそれでもいいと思ってしまう。死ぬ時は律と共に手を取り合って。その時まで死んでなるものか。例え手足が
そのためにも共切を使い熟さなければ。運ばれてきた唐揚げ定食を前に優斗は鼻息も荒く自分を鼓舞した。山盛りの唐揚げを次々と頬張り味噌汁で飲み下す。体も育ち盛りだ。身長だってきっとまだまだ伸びる。律と並び戦う日はそう遠くない。そのためにも残り五日と半日をしっかり肥やしにしなければならないだろう。泣き言を言っている暇なんて無いのだ。律の足手まといにだけはなりたくなかった。律の望む自分になるためにも、優斗は元気にご飯をおかわりする。午後からは体力勝負だ。相対するのは実戦経験豊富な特務部隊員達だが負けてなるものか。自分は特級の名を背負うのだからそれに見合った努力をしなければならない。小さいからと侮られるのも癪だった。
共切が優斗と共にあるのでは無い。優斗が共切を従えるのだ。
そう意気込んで、腹を満たした優斗は会計を済ませ陰陽寮地下の道場を目指した。そこにいるのは手練の
律と共に生きるため。
律の願いを叶えるために、優斗は鬼切りの刀を手に覇道を突き進む。
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