勇者とは人々に誤解される者だ……

しょうわな人

第1話 爆誕! 勇者ダイチ

 ここは太陽系第三惑星地球の筈だ……


 一体なにが起こっているんだ……


 俺は自分の目を疑っていた……


 

 俺の目の前には大破した俺の車があった。そしてその横には一本の木刀を手にした男がいる。どうやらその男が俺の車を木刀で大破させたようだ。

 俺は男に向かって叫んだ。


「何してくれとんじゃーっ!! ワレーッ!?」


 しかし俺の叫びを聞いた男はにこやかに笑顔でこう言った。


「あなたがこの車の持ち主か? 良かったな、異世界の神による悪巧みに加担しなくて良くなって」


「なーに、トチ狂った事を抜かしとんじゃーっ! 俺の車をこんなにしやがってっ! ローンの支払いもまだ始まったばかりなのに、どうしてくれるんじゃーっ!?」


 俺の怒りは治まらない。俺が男に向かって殴りかかろうとした時に男は手にした木刀を俺の喉元に突きつけた。


「分からないか? あなたはこの後この車で高校生の集団を轢き殺してしまうんだ。そして、その高校生たちは異世界の神に言いくるめられ、異世界に勇者として転生させられる。そして、こちらに残ったあなたは高校生を轢き殺した事により、無期懲役刑を受ける事になるんだ。俺はそんな事は許されないと思い、事前にあなたの車を破壊して、異世界の神の思惑通りにならないようにしたのだ。感謝されこそすれ、殴り掛かられる謂れは無い」


 いや、ちょっ、待て! 何をイミフな事を抜かしてやがる! 


「俺の名か? 俺は勇者ダイチだっ!! 異世界の神の企みを事前に察知して尽く潰す勇気ある者だっ!! では、さらばだ!」


 言うだけ言って男は走り去った…… いや、犯罪者だからな、お前。スマホでさっきの会話も録音したからな。今から警察に行ってスマホを証拠として提出して逮捕してもらうからな。それで俺の車もちゃんと弁償してもらうからな!


 俺がそう考えて警察に向けて動こうとした時に、ちょうど制服を着たお巡りさんとスーツを着た男性が俺に近寄ってきた。そして……


「失礼、あなたがこの車の持ち主ですか?」


 スーツを着た男性がそう聞いてくる。俺は素直にそうだと答えた。


「私は内閣特務機関の勇者支援室の者です。良かったですね、異世界の神の企みに加担せずに済んで。あ、車はこちらで弁償致しますので、二日ほどお待ちいただけますか?」


 男の言葉に呆気に取られる俺。何だ? 勇者支援室って? 俺の顔を見て理解してない事を理解したのだろう男は言葉を続けた。


「極秘事項なのですが、実際に被害者になりかけたであろうあなたには真実をお伝えしておきましょう。昨今、日本の年若い人たちが異世界の神の企みによって転生させられているのです。それを察知した日本の神様が勇者としてダイチを目覚めさせました。そして、異世界の神の企みを事前に察知する能力を与えたのです。あ、そんな顔をしないで下さい、私はマトモですよ。真実を話してます」


 それでも俺の疑念は晴れない……

 

「まだお疑いのようですね…… 仕方がない、あなたの職場に電話して下さい。今日はあなたは休み扱いになっております。内閣官房長官からの電話によってね……」


 俺は言われた通りに会社に電話をしてみた。何故か事務のミヤコちゃんが慌てて社長に繋ぎますなんて言って、ホントに社長に繋いでしまった。


「おい! ちゃんと勇者支援室の方の指示に従ったのか?」


 開口一番の社長の言葉に俺は耳を疑う。


「社長、ボケましたか?」


「馬鹿野郎! 誰がボケるか!! お前は黙って勇者支援室の方の指示に従っていればいいんだよ!」


 俺はスマホの通話を切った。


「で、本当に俺の車は二日後には届くのか? 嘘じゃなく?」


「はい、こちらの廃車処理も私たちで行いますのでご安心を。出勤されるのは二日後からで大丈夫なように手配しておきますね」


 俺はまだ疑いながらもその言葉に従った。そして、二日後の朝、駐車場には破壊される前と同じ車種だがグレードが最高級のものが停まっていた。そばには勇者支援室の者だといった男もいる。


「おまたせしました。こちらがあなたの車になります。ローンは前の車と同じですのでご安心を。それでは私どもはこれで失礼します」


 車のキーを俺に渡して立ち去ろうとした男に俺は聞いた。


「俺が勇者の話をしてまわっても大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ、あなたが周りから頭のおかしい人だと思われる屈辱に耐えられるならば……」


 俺は話をしない事を心に誓った…… 

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