審問官、怖い

『ええ。何も起こらなかったので、そういう事で構いません。』

輝く剣が彼女の言葉と共に溶けるように消えた。

消えたとはいえ先ほどの様に、一瞬で剣が振り抜かれるため回避が出来ない以上、警戒してしまう。


『…どうして、私たちがここにいる事を知っているの?』

警戒をしているためか、少し声が硬いルキナ。


『どうやってとは言えませんが、見ていましたから。ギルドマスターからの要請があったのでね。』

『は?え、見ていましたってどこからだよ。』

どうやってとは言えないらしいのでどこからと聞いてみたものの

『それも言えません。ただ、この街のどこにいたとしても捕捉可能であるという事だけ言っておきますね。』

何となく分かっていたが、どこからも教えてはくれないようだ。それと、またも表情一つ変えずにとんでもない事を言ってくる。

『そ、そうすっか…』

(え、こわいわ。見ているのは今も別の人物がこの場所をマークしており、この街にいる以上、常に監視されてるという事なのだろうか。)

監視社会、怖いです。

『何となく予想が出来るわ。その剣に切られても何とも無かったし、もうその力による監視みたいなものは外れてるんじゃ無いかしら。』

先ほどまで黙っていたノワルが言うと、彼女はこちらに背を向けながら答えた。


『ええ。剣に反応があれば話させるつもりでしたが、先ほども言った様に何も無いので、これで失礼しますね。お互いに2度と会う事が無いように願っております。』


こちらに背を向け溶ける様スゥーと消えた審問官。


『…そうだね。…こちらとしてもそう願うよ。…っと聞こえてないよね?』

『大丈夫だろ。大丈夫だよな?』

『そこは自信持ちなさいよ…消えたんだし、用さえ済めばすぐ出てってくれるわよ。』

『…だよね。』

はあ…と全員の口から同時にため息が漏れてしまう。

その場に満ちていた不穏な空気が霧散した事で一気に疲れが襲ってきた。

『はあ…どっと疲れた。ゼースさんが言ってたのってあの人の事だったのかな。』

『そうよ。ギルドからの要請を受けたって言っていたしもう大丈夫よ。きっと。』

『…とりあえず、一息つきたい。』

ルキナの一言でそれぞれ部屋に戻った。


とそんな事があってから、数日が経ったある日。

TANAKAからの護衛依頼がクエストボードに張り出させれているのを見つけた。

どうやらコスモス連邦に行く際の護衛のようだ。

コスモス連邦

空に浮かぶ大小さまざまな島が集まる空域で、島には統治者が存在している。

その中でも特に大きな島を統治する3人の者を代表とした連邦国である。

地上とは定期的に地上とその空域を往復する浮遊島が世界各地に存在しており、そこから行き来きすることが出来る。


依頼書には

[大規模な店になるため、多くの人や人員が動く。食料なども多いためそれを嗅ぎつけたモンスターや金品を狙う盗賊などの対処をする。


行き、行き帰り、帰りの3つの枠で募集を行う。

帰りに関しては向こうで募集を改めて行う。

行きのみの場合、向こうで報酬の支払い完了次第契約終了。

行きと帰りのみよりも往復を選択してくれた者には報酬を追加する。

一部を除き、商品は対価を払えば購入可能である。]


『暇だし、時期的に空のモンスターハウスに出くわすだろうから、そこで一稼ぎさせてもらいましょう。世の中金よ?』


ニヤリと子悪党の様に笑うノワルにルキナが乗っかっていく。


『…空のモンスターは地上における希少価値が高い。…そして、結構美味い。…ジュルリ。』


『おい…美味いってまさか食材としてって事か!?あ、そういやモンスターを食べる事は普通にあるな…というか昨日の晩飯コカトリスの唐揚げだったな。』

よだれを拭うルキナに、昨日大型鳥系モンスターの唐揚げを食べた事を思い出したタカシだった。


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