05アルブス国立学校入学前日

 ――アルブス国立学校。


 入学時の年齢、身分ともに規定なし。試験に合格し、身元調査で問題なければ入学を認められる。

 単位制を採用し、卒業資格を有すれば最短一年で卒業可能。

 研究職を極めれば試験免除で最高学府に進学できる。

 クラス編成は入学年度とおおよその年齢で振り分けされる。一部の授業は習熟度別に集められる。

 夜学もあり、大人の学びなおしや、子育てを終えた親にも開かれている学びだ。


 領地に戻る学生は十二歳前後で入学し、三年後をめどに卒業する。学生時代に築いた友好関係や学びをいかし、領地の運営に尽力する。


 貴族の場合、上位貴族と入学を合わせることもある。今年は第一王子に合わせ、年の近い側近候補たちはこぞって入学した。


 私、オリーブ・オーカーを含め、側近候補たちはそれぞれの専門に合わせ、課外授業を受けたり、一足先に卒業したりして実地経験を積む予定となっている。

 同年代の子どもたちと、幼少期から競ってきた。いまさら側近候補から外され、道を閉ざすつもりはないので身の引き締まる思いだ。


 ちなみに私は二年後の卒業とともに宮廷魔導師を拝命する。

 その後一年間研鑽けんさんを重ね、ナイル殿下が卒業する頃には一人前の宮廷魔導師を名乗れるようにしたい。

 今は見習い魔導師なので、登城とじょうする際は見習いのローブを着ている。


 学校へは王都にあるタウンハウスから通う予定である。引越も早々にすませた。領地にいる家族とはしばらく離れることになるが、側近候補の授業のために王宮の一室に宿泊したこともあるので寂しくはない。

 入学式の日まで地方の有力貴族たちと交流を深めながら、推しの観察記録を忘れないそんな日々。


 入学式前日も王宮に来ていたら、研究所からの帰り道で推しを発見した。一本道なので隠れるわけにもいかず、立ち止まって推しがすれ違ってくれるのを待った。

 成長期なのだろうか、しばらく見ない間にティリアン様はだいぶ身長が伸びた。見習い騎士の服も似合っている。少年から青年に変わる貴重な時期を許す限りまぶたに焼き付けておいた。


「……オーカー嬢、俺のどこかがおかしいか? 視線がむずがゆいんだが」

「あの……背が伸びたなあと思いまして」


 熱い視線を向けたせいか、推しに気付かれてしまった。

 目の前に立たれると、私は彼を見上げないといけない。つま先立ちになっても私の身長はたりなかった。


「ククっ……そうだな。昔は目線が同じだった」

「同じ大きさの背中で庇ってくれましたね。新鮮でした」

「ガーデンパーティーのことか。俺も貴方の魔術には感心した」


 昔を思い出して、ほほ笑みあう。

 春情しゅんじょうを背景に、彼の赤い瞳が細められた貴重すぎて心にしまった。何度も掘り起こして、忘れないようにしよう。永久保存だ。

 夢の中で、学校入学時は今と似たような姿だっただろうか。雰囲気も表情も同じだっただろうか。


「この後、時間はあるか?」

「ありますっ! 今日の用事は終わりました!」

「騎士団の訓練に参加する予定なんだが、見ていくか?」

「いいんですか? ありがとうございます。すみっこで応援します!」

「別に、すみっこでなくてもいいんだが」

「はわ、推しの雄姿ゆうしで目がつぶれそう……」

「――聞いてないな」


 すみっこでいいと言ったのに、騎士団の方々の圧力に負け、自己紹介し、一緒に訓練することになってしまった。

 この国には『守護神』がいるらしく、騎士団の方があさっての方向へ拝んでいた。

 守護神という神様はいなかったはずなので、恐らく暗喩あんゆだろう。

 近寄ってきた騎士団員は推しが蹴散らしてくれた。そのときの推しの笑顔がまばゆかったので、よしとしよう。




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◆称号を入手しました。

  守護神:(入手条件・テラコッタ王国の防衛事業に関し、功績を残す)

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 そろそろゲームの内容を再確認したい。

 身分が平民か貴族かで、ゲームの進行は異なる。

 前者ならば学校進学は自由なので、進学しない選択肢もある。

 後者にとって学校進学は必須だ。社交界を学び、次世代を担う若者たちと縁を結べば、選べる未来が広がる。ときには王国に忍び寄る怪しい影に気付くこともあるだろう。


 ケルメス・ティリアン様に会えるまでの道のりに例えるならば、平民で学校に進学しなかった場合、領地で名を挙げ、指名依頼を受けてから貴族との関わりが増えるようになる。貴族の伝手つてを頼りにして、ようやくティリアン様とのご対面だ。

 学校に入学すると、同学年なので顔を覚えられやすい。季節の催しなどに真剣に取り組めば評価され、あちらから声をかけてもらえる。


 この二つの道、ティリアン様と過ごせる時間を一分一秒でも長くする場合、どちらを選ぶべきかはわかりきっている。

 私が貴族に生まれたのも、前世の私の執念に違いない。


 プレイ時間の冗長を防ぐためか、学生時代の進行は自由パートとイベントパートに区切られていた。

 自由パートは卒業後にシナリオを発生させる目的で交友関係の構築に努めた。自由度が高いとはいえ、物事に首を突っ込むにはある程度の信頼関係が必要になるからだ。

 イベントパートではこれまでの行いが評価される。友好度の高い相手がいればお茶会等の誘いを受けたり、大会で優秀な成績を残せば知名度が上がり、思いもよらぬ相手から声をかけられたりする。

 婚約者がいなければ、打診されることもあるだろう。

 学生時代の儚い夢を求めてくる相手にはこぶしをぶちかませ。このイベント戦闘で勝利すると、女性キャラクターとの友好度が上昇する。言葉でわかりあえない相手には行動で示すしかない、という良いお手本だ。




 さて、私はどうだったか。




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