婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
こまの ととと
第1話
とりあえず気付いた事が一つある、私はぶたれたらしい。
「サラタ・ラタサ! 貴様ァッ! どこまでも目障りにルーインの前をうろつく、煩わしい魔女めが!」
私の視点では当然見えないが、この頬は赤く腫れあがっているだろう。
顔についた猿の尻。そう思えばまだ笑えるのだろうか。
その日、定例会のように開かれるパーティーはいつもと様相が違う。
何故かと言えば単純明快に、パーティー会場である王宮、その主人のお子たるラーテン・ロゥ・レスタ・パラセコルト王子の国民が記念すべきお生まれの日であるからだが。しかし、その主役とくれば品も無く声を荒げ、ある女性の盾となる姿勢だ。
己で崩した私の見目など眼中に無いのは、間違いのない。
「俺の! この俺の腕が守る価値のあるこのルーインのッ! その麗しい体は貴様が汚染したのだろうが!! 貴様が如き女の浅はかさが見ぬけん俺なものか、魔女の悪癖など失せ絶えて、その
その様の一体どこに王子たる品性があるものか。
だが、彼は演じている。本気で自身程がこの世の最もあるべき王の子の姿、次期国王である品格と。
酔いしれる様は見るに堪えるが、私以外にはまさしく彼が英雄であり、その後ろにおわす麗しきが
非常に出来の良い演目に、思わず血が冷える。いや、彼にとっては生まれながらの冷血の私か。
殿下の背後に震える少女、その可憐さの名はルーイン・ミレータ男爵令嬢。
評判は近頃によく聞こえる。特段、特定の殿方とは
パッチリとした眼、庇護欲と劣情の肌色の良さ。その容姿を褒めるに枚挙に
まるで爪先の蜘蛛のような愛らしさ。巣に
成程に成程。ある種納得の同情だ。
私が父に母に叔母に伯父に、極めつけは長年の使用人にまで訴えられた。
願いは一つ、王子との婚礼。
間者だろう? ドレス姿の灰かぶれ。
所詮に蝶よ花よと育てられた小僧様のお心なぞ、掴んで見せろとお達しが下ったのだ。
が、その実として手にしたものは一人前の無様のみ。
化粧はお嫌い? だから、頬に紅葉も咲かせてくれたか。これも成程。
しかし上辺の化粧に囚われ、己の全てに白を纏った女の正体は見抜けないようだ。
「その目障りの極まる所も見えん女の処遇に、寛大にも俺の聖女は永久の退場を願って終わりにすると。わかるか? その目に雫を滾らせ心を崩した少女の頼み!!」
わからない。
「貴様に相応しきを与えると言った!
この俺の慈悲を以って魔女には緑が似合うとなッ!!」
傍らに聖女様を抱き寄せた。
集められた観客がグランドフィナーレに喝采を上げる。
ああ、なんと素晴らしい芝居だか。思わず喉の奥まで熱いものがこみ上げてくる。
そのご尊顔にブチまけてしまうのも惜しいくらいだ。
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