第46話 遅いからつい
「「「ギョギョギョギョッ」」」
新たに掘った小さな横穴に身を潜め、敵の魔物の通過を待っていると、そんな声を発しながら二足歩行の集団が横切っていった。
「半魚人の魔物みたいだな」
全部で五体。
あまり強そうには見えないな。
「戦ってみるか」
俺は横穴から飛び出すと、前方にしか注意していない連中の背中へ、遠隔掘り攻撃を放つ。
「「ギョッ!?」」
二体同時に胸に風穴を開けてやる。
そろって地面に倒れる仲間たちに、一体何が起こったのかと慌てている残りの半魚人へ、すかさず追撃を放った。
「「ギョギョッ!?」」
さらに二体を仕留めるが、残りの一体がこちらに躍りかかってくる。
「遅い」
「ギョエ!?」
半魚人の接近は間に合わず、その前に頭の半分が消失していた。
「うーん、大して強くなかったな」
そこへようやくアズが追いついてきた。
「勝手に先に行かないでよ!」
「遅いからつい」
「って、もしかして倒したの?」
「ああ。半魚人の魔物だった。ただの偵察用の捨て駒かもしれないが、かなり弱かったぞ」
「……なんか気持ち悪い魔物ね」
そうして俺はアズと共にダンジョンの連結部までやってきた。
新手が侵入してくる様子は今のところない。
「こっちも偵察してみるか。相手のダンジョンマスターには侵入がバレるんだっけ?」
「分からないわ。ダンジョンによってどんな性質を持っているかは異なるもの」
「なるほど。まぁ、位置まで把握されると考えておいた方がいいな」
俺は敵ダンジョンへと足を踏み入れる。
アズも問題なくこちら側へとやってきた。
「地上に出ることはできなくても、他のダンジョンになら行けるんだな」
「そうみたいね!」
それに俺の身体も、地上に出たときと違って、強化が失われた感じはなかった。
変わらず穴の中だからだろう。
先に進むと、早速とばかりに魔物に遭遇した。
「「「ギョギョギョギョ!」」」
やはり半魚人の魔物である。
サハギンというらしい。
「あたしに任せなさい」
アズが放った炎が、三体のサハギンを纏めて燃やしてしまう。
「ふん、雑魚ね」
「このレベルの魔物ばかりなら楽なんだがな」
さらに奥へと進んでいく。
「冷たっ?」
「さっきからずっと天井から水が垂れてきてるな」
落ちてきた水が地面を打つ、ぴちゃんぴちゃん、という音が鳴り、時々それが顔にきてひんやりさせられる。
さらに途中から道に沿う形で川が流れ始めた。
水中から何かが出てきそうだなと警戒しつつ進むと、やがて広大な空間に出る。
しかしその大部分が水没していた。
「……地底湖ってやつか」
「あの半魚人の魔物といい、これがこのダンジョンの特徴かもしれないわね」
どうやら迂回はできないようで、先に行こうとしたらこの地底湖を突っ切っていく必要がありそうだ。
一応、足場になりそうな岩がぽつぽつと水面に顔を出しているので、それを伝っていけば水中を泳がなくても済みそうである。
「「「ギョギョギョギョ!」」」
しかし当然のように大量の半魚人が待ち構えていた。
水面に顔を出している奴らだけでなく、よく見ると水中に幾つもの影が見える。
「さすがに水の中でやり合いたくはないな。落ちないようにしないと……よっ」
俺は一番近くにあった岩の足場に飛び移る。
すかさずサハギンどもが近づいてきたが、すぐに次の足場へ。
「今度は置いてかないでよっ!?」
アズも慌てて後ろをついてくる。
そして届く範囲のサハギンを遠隔掘りで始末しつつ、足場から足場を移動しているときだった。
水中で巨大な影が近づいてきたかと思うと、盛大な飛沫と共に何かが飛び出してくる。
「サメの魔物かっ!」
体長三メートルを超えるサメが、宙を舞ってこちらに躍りかかってきたのだ。
咄嗟に遠隔掘りで頭の一部を抉り取ってやったが、勢いそのままに空から降ってくる。
俺はサメの横っ面に蹴りを叩き込んだ。
どおおおおおおおおんっ!
吹き飛んだ巨体が湖に落下し、大きな水飛沫が上がる。
「……普通に接近戦でも戦えそうだな」
――【穴掘士】がレベル31になりました。
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