外れ勇者だった俺が、世界最強のダンジョンを造ってしまったんだが?

九頭七尾(くずしちお)

第1話 ダンジョンマスターとして登録しました

「マルオ様のジョブは【穴堀士】でございました。残念ながら勇者ランクは判定外となります」


 憐みの目をしながら告げられる女鑑定士の言葉。

 俺、穴井丸夫は、思わず聞き返した。


「え? 判定外? 聞いていた話だと、勇者ランクはドラゴン級、グリフォン級、ユニコーン級の三種類あるとのことだったが……。あ、もしかして、そうした規格には収まらないほどの存在ってこと?」

「いえ、判定外というのは、ユニコーン級にも至らないということ。すなわち、勇者としての活躍はまったく期待できないと判断せざるを得ません」

「マジか」

「ちなみにゴブリン級と揶揄されることもありますね。ぷげら」

「別に今それ言わなくてもよくない? しかも笑っただろ?」


 容赦ない鑑定士に、俺は思わずツッコミを入れた。


 ――今から遡ること、数時間前。

 教室で授業を受けていた俺たち、都立立山高校二年B組の生徒三十名および、その担任と副担任の計三十二名は、突如としてバルステ王国という国の王宮に召喚された。


 もちろんそんな国、地球には存在しない。

 そこは異世界だった。


 困惑する高校生たち(+アルファ)に、異世界人いわく。

 俺たちは、危険な魔物の脅威に晒されているこの世界を救う勇者なのだという。


 勇者の多くは強力で希少なジョブを授かっており、そのため普通の異世界人よりも様々な分野で大きな活躍ができるらしい。

 そこで一人ずつ、鑑定士からジョブの鑑定を受けることになったのだ。


 俺は至って平々凡々な人間だ。

 せっかく異世界とやらに来たのだから、ぜひ有能なジョブをと期待していたのだが、蓋を開けてみれば【穴掘士】などという使えないやつだった。


 ちなみに勇者ランクはそれぞれ。


 ドラゴン級……勇者として間違いなく活躍できる逸材。世界レベルの英雄になれる可能性あり。

 グリフォン級……勇者として大いに活躍が期待される人材。国家レベルの英雄になれる可能性あり。

 ユニコーン級……成長次第では勇者として十分な活躍が期待できる存在。


 という感じで、ランク分けされるらしい。

 もっとも、これはあくまで召喚直後の期待値である。


 ドラゴン級と評価されても、あまり活躍できない勇者もいるし、逆にユニコーン級でも世界的な英雄になるようなケースもあるという。


 うちのクラスからは、ドラゴン級が八人、グリフォン級が十人、そしてユニコーン級が十三人だった。

 判定外のゴブリン級、すなわち「外れ勇者」は俺だけである。


「その外れ勇者が、実は大当たりだった、みたいな展開は? 【穴掘士】だけに、大穴的なさ?」

「よく聞かれるのですが、生憎とそんなケースは過去に一度もございません」

「よく聞かれるんだ……」


 勇者召喚は世界各国で実施され、この国でも過去に一度、行ったことがあるという。

 つまりこの世界には、勇者が結構な数いるらしい。


「もちろん、元の世界に帰還いただくことも可能でございます。ただ、それも年に一度でして……次回の勇者送還までは、こちらの世界でお待ちいただく必要がございます」


 どうやら帰れるタイプの勇者召喚のようだ。

 しかもそれまでの期間は、ちゃんと国が面倒を見てくれるという。






 帰還までの間、国が生活を保障してくれるとのことだったが、俺はそれを断って、一人王宮を出ることにした。

 せっかくなので異世界を見て回ろうと思ったのだ。


「危険の多い世界みたいだけど、勇者は死んでも死なないって話だし」


 どうやら俺たち勇者の最大の特徴は、たとえ死んだとしても、召喚された場所で何度でも復活できるということらしい。

 まるでゲームである。


 強力なジョブのお陰もあるが、それこそが勇者が大いに活躍できる一番の理由なのだろう。


 幸いそれなりの軍資金をいただいたので、しばらくは生活に困ることはない。

 勇者送還のときが近づいてくれば、また王宮に戻ればいいだけだ。


「とはいえ、怖いからあまり死にたくはないな」


 街を出た俺は、周囲を見渡しながらぶるりと身体を震わせる。

 恐ろしい魔物が出没する場所にわざわざ出てきたのは、他でもない。


「穴を掘ってみよう」


 俺のジョブは【穴堀士】。

 これが実は大当たりだった……なんてことはあり得ないと断言されたが、やっぱり自分の手で確かめてみないとな。


 さすがに街の中で勝手に穴を掘っていたら怒られかねないが、城壁の外であれば大丈夫だろう。

 軍資金でシャベルを購入したので、それを足元の地面に突き刺した。


「それなりに硬いな……まぁ時間は幾らでもあるし、地道にやっていくか」


 ――スキル〈穴掘り〉を獲得しました。


「今、何か声が聞こえたような……気のせいか? あれ? なんか急にシャベルが刺さりやすくなったぞ……?」


 それから俺は、ただひたすら穴を掘り続けた。

 シャベルで叩いて壁を固めたり、溜まってきた土を外に運び出したりしつつ、穴をどんどん深くしていく。


 ――スキル〈土運び〉を獲得しました。

 ――スキル〈土固め〉を獲得しました。


 こういう単純作業は結構、好きな方なのだ。


 ――スキル〈無心作業〉を獲得しました。


 ちなみに土を運び出しやすいよう、ほんの僅かだが斜めに掘っている。

 地上から遠くなるにつれて、段々と光が入らなくなっていった。


 ――スキル〈暗視〉を獲得しました。

 ――スキル〈暗所耐性〉を獲得しました。

 ――スキル〈閉所耐性〉を獲得しました。


 果たしてどれだけ掘り続けただろうか。

 振り返っても、掘り始めた場所が見えなくなった頃だった。


「ん、何だ? 何かが光っている……? っ、これは……」


 掘り進めた先に、俺は巨大な水晶めいた物体を発見する。

 自然にできたとは思えない見事な正八面体で、それ自体が淡く発光し、何か神秘的なものを感じてしまう。


「……綺麗だな」


 あまりの美しさに、俺は吸い寄せられるように近づいていき、それに触れようと右手を伸ばした。

 と、そのとき。


「それに触っちゃダメえええええええええええっ!」

「え?」


 どこからともなく聞こえてきた悲鳴じみた声。

 しかしそのときには、すでに俺はその物体に指先を触れてしまっていた。


『知的生命体との接触を確認。ダンジョンマスターとして登録しました』

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