賭けジェンガという名の・・・・。
蒼い緑
第1話
ガシャン!!!
積み重ねていったジェンガが崩れた。
頑張って、頑張って、積み重ねてきたのに。
盛大な音を立てて崩れた。
しかーし!その瞬間に悲しくなる人が果たして参加者の中にいるのだろうか?
周りの人は、自分の順番が回ってくる前に倒れてくれて、ホッとしている。
倒した本人は、「やっちゃったか~!」と悔しがりながらも笑う。
それを見てほかの参加者も笑う。
みんなで挑戦し、同じ高みを目指し、成功を繰り返していく。
いつかは崩れるが、それもまた一興。
みんな笑顔になるのだ。
それがジェンガだ。
唐突だが!!
ここに賭けジェンガを開催することにした!!
説明しよう!
賭けジェンガとは、ジェンガに手を付ける前に、倒してしまった場合のペナルティを自分に課して挑むゲームである。
ペナルティのルールとして、自分にできる範囲内で、内容にはユーモアが含まれていなければならない。
そしてぺナルティの実行は、自分にとって少しハードルが高いものにしなければならない。
今回の参加者は3名!
幸福の達人、オネエさんの~「ケン」
笑いこそが人生の糧、男性の~「たかし」
向上心の塊、女性の~「ミカ」
さあさあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
賭けジェンガの始まりだよ~~~~!!!!
丸いテーブルの真ん中には、スポットライトを当てられた18段のジェンガがある。
それを囲むのは3人の人間。
ケン、たかし、ミカだ。
「「「最初はぐー、じゃ~んけ~んぽん!!」」」
じゃんけんによって、ジェンガの順番はミカ、ケン、たかしの順番になった。
三人の表情は真剣だ。
なぜなら、賭けジェンガには真剣に挑むべし!という鉄の掟があるからだ。
馬鹿にしたり、ふざけていたり、不真面目な態度の人間は、ここには居なかった。
ケン「さあ、始めましょうか。」
ミカ、たかし「OK!!」
ミカ「私からね。ペナルティを決めなくちゃ。」
そう、賭けジェンガには崩した者にペナルティが課せられる。
自分のペナルティは自分で決めて良い。
だが、それにはいくつかのルールがあるのだ。
ミカは考えた。
これは賭けジェンガという名のチャンスだ。
まず前提条件として、ペナルティは自分をより幸せにするものでなければならない。
そう三人で決めた。
つまり、ジェンガを倒したからといって、決してマイナスにはならない。
ただし、ペナルティの実行は、自分にとって少しハードルが高いものにしなければならない。とも、三人で決めた。そこがペナルティたる理由だ。
つまり、倒したからといって、不幸にはならない。むしろ幸せになる可能性が高い。
実行するにはハードルが少し高いというのがミソだ。頭を使う。
そして最後のルールとして、ペナルティには少しのユーモアがなければならない。
それは、本人がユーモアがあると感じていればそれでよい。
これが賭けジェンガだ。
ミカは思った。
賭けジェンガは、今の自分が抱える問題、挑戦したい目標に真剣に向き合う良い機会にすることができる。
今の自分がしたいことは何だろうか?
目を瞑り、10秒間考えた。
最初のペナルティだ。
そのハードルは低めにした方がよい。
何故ならば、これからどんどんジェンガは積み上がっていき、難しいゲームになって行くのだ。
そして、難しければ難しいほど、成功した時の喜びは大きい。
その時のペナルティが重いほど、成功した時の快感が倍増するものなのだ。
でも折角の自分を磨くチャンス。
まずは小手調べ。
少しは難しいペナルティにしなくては勿体ない。
そうミカは考えた。
ミカ「いくよ~。」
「ペナルティは・・・・。」
「今度、会社で嫌いな上司に会ったら、上司の良いところ探して徹底的に褒める!」
ミカはそう言って、ジェンガを1つ抜き取った。
ミカ(わたしって、嫌いな相手には最低限の愛想を使うので精一杯なのよね。相手の悪いところばかりに目が行っちゃうの。それって良くないことだと思うわ。)
ミカは自分を振り返りそう思った。
ミカはOLである。
今日は親しい友人二人との、楽しい時間を過ごすつもりだ。
このゲームでは、自分と向き合いたいとも思っている。
手に持ったジェンガを見つめる。
軽いが、少し重い。
自分のコンプレックスが詰まっているからだ。
これをてっぺんに乗せるのに失敗したら、明日は上司を褒めちぎらなければいけない。
だがしかし、それが実現することはないだろう。
何故ならば、一つ目のジェンガだからだ。
倒れることは、まず無い。
そう考えると少し気持ちが軽くなった。
だが、果たして本当に今のままの自分でいてよいのだろうか?
相手の嫌なところばかり見ていて、自分は幸せだろうか?
ミカはジェンガのてっぺんに、無事に一つ目のピースを乗せた。
ペナルティは発生しない。
だが、決めた。
明日嫌いな上司に会ったら、少しで良いから相手の良いところに目を向けようと。
この日からミカは、少しずつ自然な愛想を身に付けていったのだった・・・。
ケン「取り敢えずは最初だものね。気楽にいきましょう。」
たかし「そうだな。最初から崩れては面白くないからな。」
他の二人もまた真剣である。
だが、楽しんでもいる。
お忘れかもしれないが、ペナルティにはユーモアが少しでもいいから含まれていなければならない。
ユーモアには、その人の価値観が如実に現れる。
その人らしさが伝わってくるのだ。
二人とも、ミカとは長い付き合いだ。
ミカが強い向上心を持っていることも、対人関係にコンプレックスを持っていることも知っている。
実にミカらしいペナルティだった。
ミカは言った。「次はケンの番よ。」と。
その顔には、賭けジェンガの1回目に成功したほんの少しの誇らしさと、なんだかスッキリしたような様子が見て取れたのだった。
ケン「次はアタシの番ね。」
「ペナルティはなにがいいかしら?」
最初、ケンはなんにも思いつかなかった。
今よりも幸せになって、ユーモアがあって、実行には少しハードルが高いペナルティ。
こうして条件を並べると、結構難しく思えた。
いま、自分は幸せである。
性的に多数派ではない側に生まれ、これまで様々なことを乗り越えて、ここまで生きてきた。今ではこうして、それぞれ性別の違う親しい友人達と一緒に楽しく過ごせている。
確かに人生、紆余曲折あったが、だからこそこれ以上、何を望むのだろうか?
ケンは、幸せを感じる為のハードルが低い、とても豊かな人間だった。
ケンは真剣に悩んだ。
そうだわ。
何も自分自身の幸せだけが自分の幸せというわけではないわ。
自分の関係者、さらには社会の人々の幸せも、自分の幸せの一つよ。
ケンは知っていた。
幸福学という、科学的に人間はどうすれば幸福感を得られるのかを研究し、実践していく学問を。
幸福学では、幸せは伝播するということが分かっている。
つまり、幸福な人と関わると、その幸せは少し以上に自分と関わった人にも良い影響を与える。
逆に、不幸な人と関わると、その不幸は本人と関わった人にも悪い影響として反映されるということである。
それなら、アタシは自分の周りの人を幸せにするわ。
だって、自分の幸せは十分持っているものね。
じゃあ、何がいいかしら?
ケン「決めたわ。」
「ペナルティは、自宅周辺のゴミ拾いをすることよ。」
ケンは、身近な社会の人々の幸せに貢献することで、幸せを感じることにしたのだった。
そう言ってケンは、ジェンガを一つ抜き取った。
慎重な手つきでてっぺんに乗せていく。
無事に乗った。
序盤なのでジェンガは安定している。
ケンは思った。
ペナルティではないけれども、ごみ拾いは良い案だわ。
自宅周辺だと少し範囲が広くて厳しいけれども、自宅入り口付近のごみ拾いはしてもいいわね。
誰かに褒められるわけではないけれども、きっと家の前を通った人は少しだけ幸せになれるわ。
アタシはそう感じるし、そう信じる。
それで十分よ。
ケンは明日の朝にでも、取り敢えず自宅の入り口周辺のゴミを拾うことにした。
ケン「次は、たかしの番ね。」
そう言ったケンの表情は、相変わらず幸福感に満ちていた。
たかし「よし、俺の番だな。序盤だから余裕だぜ。ガハハハハハ。」
たかしは、一見するとガサツな男かもしれない。
話し方も少しぶっきらぼうだし、ガサツだ。
だが、実はユーモアと笑いが大好きな人間なのだった。
賭けジェンガを考案した人物こそ、たかしである。
ミカとケンは、たかしがどんなペナルティを言うのか少し楽しみだった。
たかし「ペナルティを何にするかだなあ?」
「そうだなあ。何にするか・・・。」
たかしの職業は忙しい。
こうやって、たまの休日に親しい友人達と集まりワイワイするのが、たかしにとっては大切なイベントだった。
だがしかし、それだけが趣味というわけではない。
いくつかある趣味の中から、一つ目標を決めた。
それをペナルティにしよう。
たかし「二人とも、「ボケて」というアプリは知っているか?」
ケン「知っているわ。たかしが好きなアプリでしょう?」
ミカ「そうね。前に教えてくれたじゃない。」
そうだった。
この二人には、前に伝えたのだった。
「ボケて」というアプリは、たかしの趣味の一つである。
いわゆる大喜利である。
基本無料のアプリで、利用者はお題になる画像の投稿をしたり、誰かが投稿した写真にコメントをすることができる。
そのコメントがメインなのだ。
面白ければ面白いほどに、評価されていくシステムとなっている。
コメントには星0~3個という形で、他の利用者が評価を付けられる。
一人につき星3個までしかつけられない。
その星の合計が多いほど、アプリ内で注目され、多くの人の目に触れやすくなっているのだ。
「ボケて」
その名前の通り、お題の写真をより面白いものへと変える遊びなのだ。
たかし「そうだった。前に説明したっけな。ガハハ。」
「それでだ。俺は星40個以上を貰えるようなボケを作るぞ。
それが俺のペナルティだ。」
たかしの顔は真剣だった。
星を40個貰うためには、少なくとも満点である星3を14人に付けて貰わなければならない。
それは難しいことなのだ。
人の面白いという感性は、十人十色だ。
自分が面白いと思っていても、他の人がどう感じるかは分からない。
それでも2、3人程度になら、星を付けて貰えたりもする。
利用者は結構多いから、自分と気が合う人も何人かはいるものだ。
だが、それを14人以上集めるということは簡単ではない。
5人に評価して貰えただけで上出来な世界なのだ。十分満足である。
だが、14人以上となると、ちょっと難しい。
もし、一人につき星2個だったら、最低でも20人に星を付けて貰わなければならない。
それに加えて、星1つだけ付けて貰えるということもまた、よくあることなのだ。
星1つでも、付けて貰えただけで感謝である。
そして、本当に面白いコメントというものもあり、多くの人に支持されるものなのだ。
数百の星、数千の星が付く名作もある。
それは最早、職人の技とも言える代物だ。
奥が深い世界なのだ。
自分はまだまだ、その域には居ない。
たかしは「ボケて」について、より詳しく二人に説明した。
二人はペナルティに納得したようだった。
たかし「俺の最高記録は星24個だからな。40まではまだ遠い。
それでも当時は嬉しかったなあ。」
そう言って、たかしはジェンガを抜き取り、てっぺんに乗せた。
たかし(まあ、序盤だし倒れないよな。)
たかしは決意した。
星40個は、厳しい。
だが、自分の最高記録は塗り替えてみせよう。
ひとまずハードルを下げて、星25個が目標だ。
24個取ったのはだいぶ前の話だが、またあれを超えるような大喜利を作るのだ。
たかし「これで一巡したな。次はまたミカだ。」
こうしてジェンガは、一段と高くなった。
これを倒れるまで続けていくのだ。
後半になればなるほどに、ジェンガは難しくなってゆく。
それに伴い、プレイヤー達の熱気も上がっていくだろう。
一手一手への想いと集中力が上がっていくのだ。
その熱気に当てられて、きっとより難しく、そしてユーモアのあるペナルティが生まれていくことだろう。
こうして三人の夜は更けていった。
結局だれがジェンガを倒し、どんなペナルティが課されたのだろうか?
その答えはあなたの中にある。
この小説にはオチはない。
結末はあなたの好きにしてよいのだ。
願わくば、三人がこの夜を通してより良い人生を歩んでいったと思いたい。
だが、そうはならない世界観もまたあってよいのである。
自分の好きな理想像を作る力が、あなたの中には眠っている。
これを機に、それを発揮させてみて欲しい。
三人はこの後、どのような夜を過ごし、家に帰り、次の日からどう行動したのか。
その答えは、あなたの中に。
賭けジェンガという名の・・・・。 蒼い緑 @dachi4
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