女剣士なら負けんし!

@rin-mi

1. 死ってあっけない


 大雨、強風。揺れる木々の葉、打ち付ける雨、吹き抜けていく風、全てが視覚、聴覚の邪魔をしてくる。

 早川亮は、男の友人と共に4人で、キャンプに来ていた。

 

 全員学生で、山の専門家などいなかったわけだが、少し普段よりは険しい山へと登り、結果このような命の危険にさらされている。


 亮自身、一人では絶対に山になど登らないような人間だ。元来引っ込み思案で、こうして外に出かけることだって滅多にあることでもない。


 雨風は体力を奪って行く。


 亮もそろそろ限界だった。少なくとも木々の下であれば、多少は雨風をしのげる。4人はそこに座り込んで、ただただ耐えてきた。


「ここにいたってジリ貧だよ。動こうぜ」


 友人の一人の、直哉が言う。直哉は4人の中でも明るい性格で、今回のキャンプの発案者でもある。亮たちはみんな、基本的には直哉に引っ張られて集まった仲間といってもいい。


 しかしその提案は亮にはいいものには思えなかった。今までしばらく歩いてはどちらが山を下る道なのかさえわからず、体力ばかりが浪費されてきた。もう全員、限界に近い。


「あっちの方は、道が下っているように見えるだろ?まだ行ってないし、絶対あっちでいいはずだ」


「でも……もう限界だろ。助けを待とうよ。俺たちがここに来ることは、家族だって知ってるんだし」

 亮が口を開いた。


「だからって、このままただ助けを待ってたって見つけてもらえるとは限らないだろ?それもこんな、目立たないところで!」


 他の2人も反論せずに見守っている。亮はそれを見て、反論を諦めた。何を言っても無駄なのだろう。寒さに震えながら、もはや頭もろくに働かない。


 そうして直哉が歩いて行った方へと、しぶしぶ全員がついて進む。確かに、なだらかに下り坂にはなっているが、道と言えるような道ではなかった。


「おわっ」

 そう声が聞こえると、直哉が視界から消えた。


「うん……?」


 すこしずつそちらへと進むと、傍にいた一人がバランスを崩した。


「うわぁ?!」


 そしてそいつに脚を掴まれ、亮もバランスを崩した。右側は、急な坂、崖と言ってもいいくらいになっていたが、木々や雨風で視界が悪く、誰も気づかなかったのだ。


「っ……?!」


 声も出せぬ間に転がり落ちながら、亮は身体のそこら中、腰、肩、頭と、立てつづけに殴られるように、岩にぶつかり、その度に目もくらむような痛みを感じた。


「がっ…は…」


 血と土の味を口の中に感じながら、亮は先ほどまでうるさかった風の音が、どんどん無音になっていくのに気付いた。視界もだんだんぼやけていく。


 そうか。ついさっきが分かれ道だったんだ。


 あそこでもっと強く、反論して、もう少しでも視界が開けるのを待っていれば。


 考えを巡らすほど頭もまわらなくなってきて、亮はただ恐怖だけを感じた。


 自分が何も、感じられなくなっていく、消えていく恐怖を。

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