9th stage インタビューという名の尋問
明後日、那須は警察署に向かった。コラボ企画のためだ。
ファンの人がまわりにいるかもしれないので、一応見つからないようにサングラスをつけてきた。しかし、まわりに似たような人がいなかったので逆に目立ってしまっている。
署に足を踏み入れると、自首しに来たような感覚になり不快な気分になった。
広報の餅田が駆け寄る。
「お待ちしていました! 那須さん!」
「あんまり大声で名前をいわないでください」
那須は迷惑そうにした。
「さあ、こちらへ!」
餅田についていくと、広めの会議室に案内された。机は片付けられていて、撮影用のブースができあがっていた。ビデオカメラが三脚の上にのっている。
部屋の奥に目をやると、黒コートのシュッとした男が壁に寄りかかっていた。橘刑事だ。
「あなたもいるんですか?」
那須は明らかに嫌そうな顔をした。
「同席させていただきます」
刑事は目を合わせようとしなかった。
刑事の隣にはダンボールが一個と、筋トレ用の運動器具がずらりと並べられていた。その中には、畠山を死に至らしめた円盤状のおもりも置かれていた。
「あれは何ですか?」
餅田に尋ねたつもりだったが、遠くから橘刑事が声を張って答えた。
「これ? 畠山さんの事件の証拠品です。保管するスペースがなかったので、こちらに置かせていただいてます」
餅田が驚く。
「知らなかった~ てっきり署員がいつでもトレーニングできるように設置したのかと」
無論、那須はその筋トレ器具たちが、畠山の企業案件用のものだとすぐにわかった。しかし、あえて知らないふりをして餅田に同調する。
「俺もそう思ったわー」
橘刑事がいう。
「まあ、畠山さんの指紋しか採取されなかったので、もはや証拠品とは呼べないんですがね」
「それなら早く持ち主に返してあげてください。企業もいい迷惑だろうから」
那須は嫌味をいった。
「さあ~ こちらへ!」
餅田は興奮気味に、那須をカメラの前の席に案内した。
「もう準備はできてますよ~!」
「あのう、インタビューの前に二三確認してもよろしいですか」
部屋の奥から橘刑事が声をかけると、那須は溜息交じりに答えた。
「はあ、仕事の邪魔をしないでほしいな」
橘刑事はダンボールを持って、撮影用ブースに迫ってくる。
「これをご覧になっていただきたい」
ダンボールから出てきたのは、「ナスバタケチャンネル」の金の盾だった。オークションで落札されたはずの盾がここに回ってきている。那須は驚いた。
「これって、畠山の?」
「オークションで落札されたものです。購入者のところへ行って回収してきました」
「それで?」
「指紋が検出されました」
当たり前だ。実際には畠山の家から盗まれた盾ではなく、うちのショーケースにあったものを出品しただけだ。指紋がついていて当然である。
しかし刑事は、畠山の家から盗まれた盾だと思い込んでいる。指紋について、どうにか辻褄を合わせなければいけない。
「そりゃ俺だって、あいつの家には何度も足を運んだ。盾を触ることもあったさ。何が問題なんだ?」
那須がドヤ顔で答えると、刑事はキョトンとした。
「はい?」
「畠山の盾から俺の指紋が出てきて当然だっていってるの」
「あなたの指紋? 検出されたのは餅田くんの指紋ですよ」
「ぼくぅ?」
広報の餅田は目をまん丸くした。
「は? 意味がよくわからない」
那須が首をかしげると、橘刑事は説明し始めた。
「『ナスバタケチャンネル』と書かれた金の盾を持っていたのは、この世に二人しかいません。畠山さんとあなただけです」
「それで?」
「餅田くんが金の盾に触る機会があったのは、一度だけです。あなたの家で一緒にゲームをしたときだけ」
勝手に盾を触っていた餅田の姿が脳裏に焼き付いている。
那須が一瞬動揺を見せると、刑事はその隙を逃すことなく攻め込む。
「つまり、あなたの盾がオークションに出品されたことになります。どう説明されますか」
那須は黙り込んでしまった。刑事は続ける。
「あなたが送ったんですね? 畠山さんの家から盾が盗まれたよう偽装するために」
絶体絶命だ。ここで「そうです」といえば負けてしまう――
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