アポとアッポー


 秋はいろんな植物が採れる季節だ。そのなかでも、木の実系は様々な種類のものが採取できる。この時期ばかりは、常設依頼ではなく納品依頼として採集関連の仕事が数多く掲示板に張られている。


 とはいえ、そういった木の実を狙う動物や魔物なんかも沢山いるんで、全体的に森が活性化する季節ではあるんだがな。

 特に、動物系の魔物は冬眠するタイプの奴等がいる。そんな奴等は必死になって蓄えようと活動するんでね。かなしきかな、こういう魔物は基本的に討伐依頼が組まれるんだわ。

 冬に向けて、商人たちも最後の仕入れ等で頻繁に街を行き来するようになるんで、護衛依頼の張りだしも増える。

 

 つまり、秋は魔物や植物に次いで、冒険者らも活発になる季節ってことだな。


 そして、俺もその例に漏れず今日も森に入ってるわけで……唯一普段と違う点を挙げれば、常設用ではなく、納品依頼として指定された採取物を確保していることだろうな。理由は簡単、この季節ならそっちの方が稼げるからだ。



「アポの実を20、アッポーの実を15個……ねぇ」



 アポの実とは、木になっている手のひらサイズの赤い果実で、皮を剥くと白っぽいみずみずしい果肉が拝める。噛むとシャクッと音をたてて口の中にさっぱりとした甘さが広がる………まぁ、リンゴだわな。

 

 アッポーの実とは、手のひらよりかはわずかに大きく、表面は赤いもののてっぺんや底の方にかけて緑が強くなっている木の実だ。皮を剥くと白色の果肉が見え、歯をたてるとサ、クッと少し固い食感のあとに酸味の強い微かな甘さが口に広がる………これも見た目はリンゴだ。

 別に早生だからというわけでもない。そもそも、果実の見た目は同じであっても、それが成る木の特徴がまず違う。しっかりと、種類の異なった植物なんだよなぁ…。



「ややこしいわっ!……名前も寄せる必要なかったろ……いっそのことアポモドキとかにしろよ……この依頼、報酬は良いのに人気がないのはそういうところだからな?」



 木の特徴が違うといえども、明確に判別できるのは葉っぱの形くらいであって……普段から採集に慣れていて、植物を見分ける目が養われてないと難しい依頼になる。

 そんな苦労するなら討伐依頼の方が楽だ!って感じで毎度この依頼が残ってしまうのよ。アポの実そのものは老若男女問わず人気なんだがな………ちなみにアッポーは子供達からたいそう嫌われている。


 というよりかは、そもそもの需要が異なっている。アポの果実は食用として、アッポーの実は薬用として取り扱われているんだわ。二日酔い、胸のムカつきや咳に効く薬としてな。

 だから、アッポーの実は冒険者連中からしたら馴染みのあるものらしいぞ。



「まぁ……アッポーの実もジャムにしたらかなり美味いんだけどな…」



 それなのに薬用としての意識が強いのか、どこの店に行ってもアッポーのジャムは売ってなかった。ジャム自体はこの世界にもあるんだがな。

 なもんで、俺はアッポーのジャムをリオと孤児院の子らにしか教えてない。これがアッポーだって知ったときの反応が面白くってな。ついつい子供達にはドッキリを仕掛けたくなるのよ。



「ちゃっちゃと指定分を集めて、帰りに孤児院へ寄って行きますかね……両方を十個ほど余分に採らないと、だな」





―――◇◆◇―――


[アポの実]

アポの木になっている果実。秋口に実が熟す。

どの森でも簡単に収穫でき、実の甘く柔らかい食感はいつの時代も幅広い年齢層を魅了する。


Tips:いつかの時代の世界のどこかには黄金に輝くアポの実が存在した。



[アッポーの実]

アッポーの木になっている果実。秋口に実が熟す。

どの森でも簡単に収穫でき、昔から二日酔いに効く薬として用いられてきた。腹下しを緩和する効果もある。


Tips:名の知れた採集者が仲間を連れて発見した際、『これは、ア…ポぉ…か?』と呟いたのが名前の由来である。


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