夏の足音がすぐそこまで
「あ"ぁぁぁ………あっちぃ……」
ここ数日にして一気に気温が上がってきた。28度は越えてそうだ。
まっ!地球温暖化だなんだと騒がれる時代の日本で生きてきた俺からすれば、この程度の気温で音を上げるほどヤワじゃないけどな?
――はい、嘘つきました。ごめんなさい。めっちゃ暑いっす。今にも溶けそうっす……冷房が恋しいぜ…ぴえん。
「あ"ぁぁぁ………溶けるぅ……」
だが冷房はなくとも、扇風機のようなものはある。“送風具”って名前の魔道具なんだけどよ、これがギルドに設置されてるんだわ。
といってもまぁ、居酒屋の壁に掛かってる扇風機並みに頼りないもんではあるが……人の多い時間帯じゃ、まさに焼け石に水レベルだな。
「あ"ぁぁぁぁ………やる気出ねぇ……」
―――ブゥン………
「あ"ぁぁ………あ?…風がこねぇ……おのれソフィア嬢め。なぜ消した……その道はお主にとってもイバラとなるぞ…?」
「はいはい、暑さで遂に頭までやられましたか?もともと、空気を循環させるための魔道具です。冷涼を求めて付けたわけではないので問題ないですね」
「くっ……レオンは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の嬢を除かねばならぬと決意した……」
「バカ言ってないで仕事してください。今何時だと思ってるんですか…」
「あー……だいたい、お昼?」
「とっくに過ぎましたね……仕事するしないは個人の勝手にしても、ただここでだらだらしてるだけなら、さすがに口うるさくなりますよ?」
「既になってるんで、大丈夫だぜ……ソフィア嬢の不器用な優しさだってことも分かってるからな、俺」
「熱で思考がおかしくなったようですね。必要なら頭から水でもぶっかけてあげましょうか?
はぁ………私相手にこんなやり取りを4日も続けてて楽しいですか?」
「そこそこ、楽しいぜ?」
「そうですか。私からすれば、貴方のそれは立派な業務の妨害ですけどね」
ふっ、知ってるぜ。受付担当は表に出ている間は、受け付け以外にやることがないってな……夜勤のコンビニバイトの、レジ並みにすることがないってなぁ!
まぁ本来ならこの時間帯まで、冒険者がギルドでたむろしてる筈がないんだけどよ……お仕事お疲れさまっす。マジで偉いっす。尊敬してるっす。
「いや、依頼を受けても良いんだが……俺好みの依頼がないんだよなぁ」
「夏場は獣系と植物系統の魔物が活性化する時期ですし、討伐依頼や常設にある素材の買い取りなどと依頼内容には事欠かないと思いますが?」
「けど、結局魔物の討伐が金になるよって話でしょ?獣系の魔物は解体も持ち運びもソロじゃだるいし……植物系の魔物は倒すのに厄介な魔法持ちばっかりじゃん……ラカスブルーメちゃんが恋しいよ…」
「ソロへのこだわりは相変わらずですね。荷物持ちを雇う手だってあるでしょうに……それこそ、リオさんが豊穣の灯りに所属したのですから……いえ、これはさすがに無粋な提案でした。すみません」
「いいよいいよ。最後まで口にしなきゃセーフってもんよ。
しっかしなぁ、この季節の採集もなぁ……狙い目はこの時期に生える薬草数種類と聖緑草だろ?水に入れて祝福することで、なんでか魔物が近寄らなくなるって言う」
「はい、聖水の原材料として有名な植物ですね」
「けどなぁ……どっちも王都で栽培方法が確立されてるんだよな。十年前はまだ自生に頼ってたというのによ……おかげさまで売価が低くなっちまった」
「そうですね……自生の良い点は運搬にかかる時間と費用の削減ですので。多少は高く買い取られますが、他の自生頼みの植物と比べるとかなり違いますね」
そうなんだよなぁ……最近では、他の植物とかも栽培できるようにする研究が進んでいると聞く。
なんなら薬草と聖緑草に関しては、年がら年中栽培可能にして国の名産品にしよう!なんてプロジェクトが王都を中心に始まっているそうだし。
「夏場はなぁ……でもそろそろ一稼ぎしときたい感はあるんだよ。なんか、一発でドカンと儲けられる討伐依頼とかない?あれだったら夜行性の魔物でも良いぜ……ってか、夜の森の中の方が涼しいんで、できればそっちでお願いっ」
「常識では夜の森の方が危険なんですけどね……涼しいという理由だけで、そちらを選ぶのがレオンさんらしいといえばそうですが。
どうやら、そんな常識外れな事をなさるのは現段階で貴方だけのようですね。該当する依頼がいくつもありますよ。受注可能な依頼書をこちらに持ってきますので、少々お待ちください」
ま、そうだろうな。夜になると門も閉まっちまうから、必然的に野宿しなきゃだし。それも獣系魔物が活性化してる森の中で、だ。そこで一晩明かすだけでもかなり危険だってのは素人でもわかる。
そんな状況下で目的の魔物を討伐しなきゃなんないわけだ。不利な条件がいくつも重なってるのを、好き好んでやる奴はそういないわな。
だからこそ、俺にとっての穴場な依頼になるんだよなぁ!これがよぉ……ぐへへ。
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