楽しいお茶会 後編
「しっかしまぁ、俺が豊穣の灯りのリーダーからお茶に誘われる日が来るなんてな」
「どの口がそんなことを言うのかしらね。意図的に避けていたのはそっちでしょうに」
「ありゃま……ばれてーら」
「ずっと疑問だったのだけれど、どうしてそんなに逃げてたの?今はただの冒険者よ、私」
あー、どう説明したことか……まず、こいつは辺境伯の次女なんて噂されてるが、辺境伯の子供においては長男と長女しか存在しない。まぁ、次女っつう噂は意図的に流されたものだな。
んでもって、俺は一度だけ、柄にもなく人助けにチートを使ったことがある。さすがに、目の前で頭からバリボリ食われる可愛らしい幼女の姿は見たくないだろ?
助けた子は綺麗なホワイトブロンドの髪に金眼の、いかにもお偉い様の娘のような格好をしていてね。噂に聞く辺境伯の長女の容姿と重なるんだわ、これが。
ちなみに次女の噂とは異なって、長女は深窓の御令嬢なんて言われてら……髪色を変える魔道具は魔法の使える貴族社会においてポピュラーらしいぜ。
というわけで、なるべく俺は穏やかに生きたいんだ。そのためにも、能力を追求されるのはちと面倒なんよな。
「今は、な……有用なギフト持ちは囲うのが貴族なんだろ?」
「まぁ……否定はできないわね。事実、エマだって孤児だったのをギフト判明後に囲いこんだ訳だし」
「だよなぁ……」
「でも、貴方はギフトを貰ってないでしょう?」
「それは…そうだが……でも、辺境伯の長女様は見てるはずだぜ?」
「あら、何の話かしら。天稟のスキルを調べるには王都の教会じゃないとできないのよ?貴方は王都に行ったことはないでしょ?」
「…あぁ。そうだな……」
「どちらにしろ、教会から貴方のスキル証が発行されてないのなら、公的な証明は出来ないわ。スキル無しを囲う利がないわね」
ん?んー?何がしたいんだ、この他称次女の長女さんは??
ギルドを挟んだとはいえ、長女さんが家を贈ってきたのは、お礼という名文のもとで俺をこの街に縛るためのはずだ。あのときは、よくぞ俺の現代っ子さ加減を見抜いたなと感心したくらいだぜ。
ふかふかのベッドと広い浴室。頼めば髪の手入れや全身オイルマッサージ等と、日本にいた頃でもやらなかったようなサービスが気楽に受けられる環境っ!
こんなものを一度体験してしまえば、なかなか手放せないよなぁ……。
そこまでしてもなお、噂を流し変装してまで冒険者になって追いかけて来たんだ……てっきり辺境伯直々の頼みか何かで、俺を合法的に飼い殺すために接触を試みていたのかと思っていたんだが。
この国には一応奴隷制度がある。人身売買ではなくて雇用形態の一つとしての制度ではあるんだが……犯罪奴隷はそうではないし、裏では売買が行われているところもあると聞く。特に珍しい種族やギフト持ち、人として扱われない存在などはな……。
そういうのを防ぐための、教会から発行されるスキル証だったりするわけで。現代日本で言うところの、戸籍にあたるものといってもいい代物だ。
成人の祝福の場には、司教位を持つ人と教会のある街を治める貴族、もしくはその代理人が同席する。そして、発行されたスキル証は当人はもちろん、教会と国の2つの組織にも納められて管理することとなっている。
まっ、担当貴族と教会がグルになってたら、黒ってこった。
そんな世界で俺はスキル証を持たず、珍しいスキルを持っていることが相手にバレてて、なおかつ黒髪黒目……思いっきり警戒するでしょ、そりゃあ。
はぁ……分かんないときは直接聞くのが一番手っ取り早いか。最悪、一人くらい連れてようがこっから逃げるくらいならできそうだし。
「なぁ――辺境伯様の長女、アリスさんや……一体、何が目的だ?」
「っ!……わ、私と……と、とと……」
「頑張ってくださいっ!お嬢様!」
「と……友達になってくりぇっ!――くれないかしら?」
「お、おう……って、え?」
も、もしかして……そのためだけに数年間も冒険者やってたの?この長女さんは・・・
―――んなもんっ、予想できてたまるかっ!まぎらわしいわぁっ!!
―――◇◆◇―――
レイラ「ねぇねぇっ、この花摘むでしょ?」
リオ「うん」
レイラ「でね~、ここの根本のちょっと白っぽくなってるところあるじゃん?」
リオ「このピンクっぽくなってるところでしょうか?」
レイラ「そうそう!そこをねっ、こうやって…ちゅちゅう、って吸うとね……あはっ、あっま~い!」
リオ「え!ほんとですか?!」
レイラ「魔喰草の蜜ってすっごく美味しいの!あんまり量とれないし、隣国からの輸入品だからそもそも買える機会も少ないんだよ~!……んっは~、甘くって幸せだよぉ…」
リオ「……んっほんとだ!……えへへ~、あっま~い……」
ルーナ「・・・」
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