V-Raether

上野世介

1-ON-STAGE:ネット




 アメリカで最大のインターネット掲示板。そこには生き方を間違えたような人間が集い、日々、駄弁に駄弁を重ねていた。

 今日も今日とて実りのない話をしよう。


 この掲示板に限った話ではないが、特にこの掲示板においては、ある話題が白熱していた。


ファイブRaetherラーテルのキュウはAIである』


 1週間前からこの話題で持ちきりだ。



 *



 5年前にサービス開始したフルダイブVR型MMORPG『VOXボックス』。現在、ユーザー数世界一を誇るこのゲームは、AIによる仮想世界構築システムを土台とした自由度の高さが売りである。マップの広さは無限とも言われ、仮想宇宙が再現された世界では、一つとして同じものはない。全ての惑星、全ての生物は唯一無二であり、それらは全てAIによる管理・生成がなされている。

 このゲームを現す言葉は『やりすぎ』である。発売当初はとやかく言われたこのゲームだが、今では多くの問題を解消し、世界一を我が物としている。


 そんなVOXに3年前、彗星の如く現れたギルドがあった。その名も『ファイブRaetherラーテル』。最初は3人のみのギルドであったが、現在は9人。しかも9人全員がゲーム内においてトップランカーの、奇跡としか言いようのないチームである。

 それも全て、『キュウ』というプレイヤーの功績。

キュウはギルド発足からスカウトまでのほとんどを一人で担った、まさにギルドの創造神である。


 そんなキュウに昨今、がかけられている。


『あいつスゴすぎね?機械AIだろ』


 そんなちょっとした書き込みを発端として、AI疑惑を裏付ける証拠は次々と集められた

 何せVOXは世界一かつ『もう一つの人生』とも言われるゲームだ。誰もがログインし、プレイし、視聴している。

 そして少数精鋭はカッコいい。だからこそV-Reatherは世界で一番の注目を集め、AI疑惑は雷鳴のように広がったのだ。



 *



『VOX本社へのご来訪のお願い』


 そんな題名のメールがV-Raetherのメンバー9人に送信された。

 中身は脅迫ともとれるような内容で、本社へ直接顔見せすることを命じていた。


 尋常ではない炎上具合についに本社まで動いた。


 あるメンバーは自分の影響力に惚れ惚れし、あるメンバーは本社の怒りに恐怖し、あるメンバーはオフ会もどきに緊張し、あるメンバーは交通費全額負担の文字に喜んだ。


 そしてきたる12月某日。

 日本にギルドメンバーが集結する。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る