植物学者

「え~と、詳細は?」


 あーしの目の前にドアが現れた。"扉"かな? この質感……、物質じゃないな、魔法だな~。


『欲しい人材を思い浮かべて、そのドアノブを回せば、その願いに見合う人が現れます。より詳細に……、今は何の植物に詳しく、どんな対策がひつ……』


「う~ん。食料を増産してくれる人!」


 ――ガチャ


『ザックリし過ぎ!』


 女神様から突っ込みが来たけど、もうドアノブは、回したのだ。

 "扉"が開いて、光の中から誰かが出て来た……。


「あれ? ここは何処かな?」


「良く来てくれました~。あーし、嬉しいよ~。食料の増産よろしくね~」


 領民は、頭を抱えていた。


 詳細を話す。今困っているのは、麦の不作だ。


「うん? 麦が枯れて育たないの?」


「そうなんよ~。何とかなんないかな~? 植物に詳しんっしょ?」


「OKよ~。私に任せておいて!」


 扉から現れた人は、胸をドンと叩いた。

 どうやら、頼もしい人が来たみたいだな~。





「うん? 私? 西暦1800年くらいから来た……、異世界人っぽいね。うん、ここは私にとっての異世界だな」


 異世界人?

 こんな人なんだ? あーしたちと外見は変わらないな~。

 それと、勇者とは名乗んないんだ?


 名前は、牧野富〇郎ま〇のとみたろうさんだそうだ。植物学者らしい。


「ふむふむ。『赤かび病』だね。別な作物を育てればいいだけだよ」


「種もみが、ないんっすけど……」


「ふむふむ……。ここは……、西洋に近そうだね。『ジャガイモ』なんかどうかな?」


「芋ですか……。ですが、種が……」


 ――ピ、ピ、ポン


「「「え?」」」「おお!?」


「異世界人が持つ技能スキルの一つ、"ストア"だよ。でも、誰もが持っている訳じゃないからね?」


 牧野富〇郎さんが、抱えきれないほどのジャガイモを空中から取り出した。

 異世界人って、便利な人なんだな~。



「まだ、夏の季節だから、今からでも育つと思うよ。それと、麦は蒔かないでね。来年もジャガイモを育ててね。再来年には、麦を蒔いてもいいかもしれないけど……、隣接する他領次第かな~」


「あり~す。牧野富〇郎さん!」


 私は、深々と頭を下げた。

 その私の頭を、ポンポンする、牧野富〇郎さん。


「リナさんは、若いのに領主代理か……。苦しい時期かもしれないけど、頑張ってね」


 母は、若くして亡くなり、父は病気で臥せっている。兄は、徴兵で戦場だ。

 領地経営をするのは、あーししかいない。


「それと、これを……」


 ん? なんだろう? 見た事もない植物だな?


「米という植物だ。私みたいな、黒目黒髪が訪れたら、まかないに出すといい。沼地に種を蒔けば、まあ、それなりに育つ」


 黒目黒髪?


『異世界召喚者のことですよ~。異世界の勇者と言ったじゃないですか~』


「あれ? 女神様?」


『異世界召喚者に働いて貰ったら、帰してあげて下さいね~。長居させると、迷惑がかかるので~』


「え~、牧野富〇郎さん、帰っちゃうの? 領地経営にこれからも力を貸して欲しいのに~」


「ははは、私も暇じゃないからね~。そうそう長くはいられないよ」


「ぶ~」


 こうして、牧野富〇郎さんは、元の世界に戻って行った。

 お土産を残して……。

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