第8話、お嬢様は、巨大杭打機を装備なさるご様子でございます。

 相打ちでお嬢様は、”ホーンラビット・サウザンドレギオン”に倒されてしまったのでございます。

 始まりの場所で呆然と立ち尽くされております。

 そろそろ、姿を現したほうがよろしいでしょうか。

 しかし、お館様黒須の父にはなるべく手を出すなと言われているのでございまます。



 櫻子さくらこが始まりの場所に立っている。


「…………」

 ああ、またですわ。

 どうしても隣の町までたどりつけませんの。

 こんなにいい天気なのに。

 空を見上げた。


 ポツポツ

 ザアアアアアアア


 ゲリラ豪雨が降り出した。


「どうしてですのおおお」

 ”鈍竜”のバイザーが自動で下りる。

 ”鈍竜”は重厚なフルカバードの機体だ。

 体は濡れないが心は濡れた。


 しょんぼり。


 櫻子さくらこは見事なしょんぼりを見せながら、”シズク”の店に入って行った。


「えーと、また駄目だったのか?」

 シズクから心配そうに声を掛けられる。


「……はいですわ」

 気落ちした声で言う。 


「一つ聞いていいか?」


「はい?」


「なぜ、武装しないんだ?」


「……わたくしはこう見えても箱入りのお嬢様なのです……」


「いや、確かにな」

 仕草一つとってもお上品である。


「……敵が怖いのです……」


「今までどうしてたんだ? 敵も出ただろう」


「目をつぶって、その場でじっとしておりました」


「あ~、”鈍竜”の防御力のなせる技か~」

 実は、ホーンラビットは敵対状態でいる距離が狭い。

 少し離れるとすぐに敵の状態でなくなるのだ。


 つまり、ホーンラビットからは簡単に逃げられる。


「”鈍竜”を着ていては走れないかあ」

「原動機付き動甲冑MAを脱いで走ればいいんだけど」

 普段着でも隣町までたどりつけるといわれる理由だ。


「話は聞かせていただきましたっっ」

 突然背後から大きな声がした。

 振り向くと、クノイチ型のMAを着た金髪の女性が立っていた。

 160センチくらいの身長。

 見た目を変えているのか、耳がエルフのようにとがっている。

 頭にはホワイトプリム。

 口元はマフラーで隠されている。

「私の名前は、マリア―……”マリア”と申します」

さくら…、こほん、可憐で瀟洒で清楚なお嬢様」

「通りすがりの、お助け金髪クノイチメイドでございます」

 胸を張った。


 ポヨヨン


 厳つい胸部装甲がゆれる。


「は、はい」

 どこかで見たことがあるような?

 わたくしは首をかしげる。


「店主、目をつぶっていても当てられる武器があるではありませんかっ」

 金髪メイドが身を乗り出して言う。


「あ、いや、だから、MAを脱いで走ればだなあ」


「あるんですのっっ、マリアさん」

 

巨大杭打機パイルバンカーを出してくださいっ」

 キリッ。

 マリアージュがきめ顔で言った。



 ”巨大杭打機”


 通称、”パイルバンカー”

 直径、十センチ、長さ一メートルの杭を前方に打ち出す装置。

 杭の破壊力と、打ち出した時の衝撃波が強力である。

 なおその重量から重MAにしか装備できない。



「ほんとにいいのかい?」

 シズクだ。

 

「ふふふ、黒くて硬くて太くて長いでしょう」

 マリアージュが頷きながら言う。


「い、言い方あ」

 シズクである。


「はいっ、これを下さいましっ」

 わたくしは、”巨大杭打機パイルバンカー”を見て思わず叫んだ。



 櫻子さくらこお嬢様が、巨大杭打機パイルバンカーを装備されました。

 巨大杭打機パイルバンカーは、浪漫ろうまんでございます。

 お嬢様がさらにりりしくかっこよくなられたのでございます。

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