第3話、お嬢様は、空腹でお倒れになられたご様子でございます。

 ズシュン

 ズシュン

 櫻子さくらこお嬢さまは街道を歩いておられます。


[チュートリアル、隣の町まで行ってみよう] 


 を進行中のご様子。

 目的地を示すマーカーに従って歩いておられました。



 青い空。

 白い雲。

 いい天気ですわ。


 チチチ


 街道沿いは林が続き、鳥の鳴き声が聞こえる。


「気持ちいいですわねえ」 


 ズシュン

 ズシュン 


 隣の町まで半分くらい歩いた。


「あらっ」

 櫻子さくらこお嬢様のまとう重原動機付き動甲冑MA、”鈍竜どんりゅう”に警告灯が光る。

 自動で、ステータス画面が立ち上がった。

 状態異常?

「……空腹……?」 

 いわれてみれば、お腹がすいたような。


 VRゲーム内で、空腹や痛みはかなり少なく設定されている。

 例え巨大なハンマーで吹き飛ばされても、”マッサージチェア”レベルの痛さである。

 [空腹]も警告されるまで気づかなかった。


「……食料……」

 最初の街で食べた肉の串を思い出した。 

「確か……」

 空中に指先で操作する。

 インベントリを開いた。

「まあ、当り前ですわね」

 空っぽだ。

「帰りますわ」

 Uターンして歩き出した。


 空腹値の設定は、きっかりHPと同じに設定されている。

 隣の町まで”半分”歩いて空腹値が零になった。

 あとは、HPがじわじわと減っていく仕様だ。

 進んでも帰っても、HPは零になるのだ。


「門が見えましたわああ」

 辺りが光に包まれた。



 櫻子さくらこお嬢様が[空腹]により、HPが0になりました。

 櫻子さくらこお嬢様は、光の粒子となって消えてしまいました。



[チュートリアル、食料の重要性]が終了しました。

 ディスカバリーポイント《DP》を50,000入手しました。

[初めての死亡ロスト

 ディスカバリーポイント(DP)を10,000入手しました。

 

 わたくしは始まりの場所に帰って来た。


「肉の串はいらんかね?」

 屋台の人が声を掛けてくる。


「…………」

 わたくしは何とも言えない表情でそれを聞いた。



 櫻子さくらこお嬢様はこの世界で初めて死亡ロストされたのでございます。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る