第16話 鶏なのかな?

 サリーとアリエル師匠は、キラービーの巣を浮かべたままアルカディアに戻る。


「さて、私達は薬草を採ろう!」

 今のうち見つけたのは、下級薬草だけだ。それに、果物や花やハーブを採取したい。


「あのキラービーの巣をどうするのですか?」

 質問しながら、下級薬草を探す。

「ああ、結界を二重にして、朝は、外の結界を外してキラービーに蜜を集めさせるのさ。夜になったら結界を張るんだ」


 あっ、寒い地方の玄関みたいな感じかな? 外の扉と、中の扉。

「でも、いちいち結界を外したり、掛けたりするのは面倒なのでは?」

 ははは……とオリビィエ師匠が笑う。


「だから、アリエルは養蜂をやめたのさ。毎朝、結界を開けてやらないといけないし、夜には閉じないといけないからね。朝起きるのが苦手だからな」

 まぁ、いつもの生活態度を見ていたら、朝は無理そうだと思う。


「でも、サリーは結界魔法を使えるかしら?」

 師匠が立ち止まって、指差す。

「あっ、そこに上級薬草があるぞ!」

 これも植えてみたいと言うと、笑って「やってみな!」と許可をくれた。


「ミクは、あの柵の守護魔法を感じなかったんだよな。サリーは感じていた。つまり、あの柵を動かして、元に戻すだけだよ」

「サリーは、守護魔法を掛けられるのですか?」

 私の質問にオリビィエ師匠は笑う。

「さっき、空気のボールを作っていただろう。あれも一種の結界魔法なのさ。守護魔法を掛けられるかは、知らないけど、アリエルが教えるさ」

 サリーはぐんぐん先に進んでいる。頑張ろう!


「先ずは、薬草採取を覚えよう!」

 根っこから採取した上級薬草を小袋に包んで、籠に入れる。

 目に魔法を集中させて、視力をよくする方法は学舎で習った。

 薬草を見つけるのに使ってみよう。


 あっ何だかゲームの赤外線スコープみたいな感じ。草、土、小石がはっきり見える。

「あれは下級薬草、あちらには上級薬草が!」

 今度からは、上の葉っぱだけナイフで切る。

 どんどん見つかる! 楽しい!


「ミク、視力補強を上手く使っているな」

 オリビィエ師匠も歩きながら、薬草を摘んでいる。

「どのくらい摘んだら、良いのですか?」

「籠にいっぱいだよ。それと、アルカディアから離れると魔物に遭うから、首に笛をつけておけ」

 あっ、ヨハン爺さんと同じだ。

「魔物に出逢ったら、木に登って笛をきつく吹きなさい。私や狩人が討伐しに来るまで隠れているのだ。もし、魔物が木を倒そうとしたら、他の木に飛び乗るのだよ」

 それは知っている。ヨハン爺さんがやっていたから。


「飛び移っても笛は吹くの?」

 オリビィエ師匠は、その場の状況によるなと、例をあげる。

「近くに私や狩人がいる場合は、大人しく隠れていた方が良い。遠い場合は、飛び移りながら笛を吹いて待つ方が良いかな?」

 それは、そうだよね。


「まぁ、竜とかはアルカディアに近寄せないのが狩人の勤めだ。まぁ、この前みたいに翼竜とかはやってくるけどさ」

 これも狩人の村と一緒だね。

「ラング村、そして西のルミネ村の近くには竜を行かせないようにもしている」


 そう、狩人の村、バンズ村があるのはアルカディアの東側だったんだ。

 巻1はアルカディアの中の事、巻2はアルカディアの周りの森、巻3で魔の森の中の地理で、狩人の村が載っていた。

 バンズ村がある東地区には8個村があると書かれていたけど、ニューエバー村は載っていなかった。


「メンター・マグス! ニューエバー村が載っていません」

 私が指摘すると、メンター・マグスがやって来て「新しい村か? 何処だ?」と言うので、サリーと「この辺だと思う」と指さしたら、そこにペンで書き加えた。

「他の3の巻の本にも書き加えておかなければ!」

 巻き4からアルカディアの外の人間の国が載っている。早く習いたいな。


 色々な食材になる植物も狩人の村の周りの森よりも多い気がする。

 アルカディアの狩人は、あまり植物採取は熱心にしないのかも?

「師匠、あの木を育てたいです!」

 さくらんぼ、りんご、レモン、栗、梨、胡桃の木を見つけたよ。

「秋に実を採りにくるだけでも良いのでは? まぁ、枝を挿し木するぐらいは良いけど、この実を取っている奴がいるかもしれないから木ごとは駄目だぞ」

 いや、こんな大きな木を引っこ抜くのは無理だよ。


 枝を切って持って帰ることにする。私の背負い籠から、何本も枝が突き出していて、少し格好が悪い。

「花が咲く木だから、巣箱の横に植えたら良い。キラービーが受粉してくれるぞ」

 だよね! 受粉作業って地味にしんどいんだ。


 少し森の奥に入った時、オリビィエ師匠が大きな木のかなり前で立ち止まる。

「ミク、これがトレントだよ! お前は近づかない方が良い」

 えっ、普通の木と見分けがつかないよ。

「師匠、これが石鹸の元になるのですか?」

 師匠は笑って首を振る。

「これは油を搾るトレントではないよ。でも、もう少ししたらシロップが取れるのさ」

 へぇ、楓糖みたいなのかな?


「木に傷をつけて、バケツを掛けて樹液を集めるのですか?」

 オリビィエ師匠がぎょっとした顔をした。

「トレントを傷つけたりしたら、暴れて大変だぞ。トレントは一気に討伐しないと厄介なのだ」

 そうなんだ……近寄らないようにしよう。

「冬は冬眠状態になるから、春になって栄養を汲み上げている途中だから、トレントは狩らないよ。夏の終わりから秋に狩るんだ」

 

 なら、今は用事はないね。ソッと側を離れる。

 ハーブもあれこれ見つけたよ。木の家アビエスビラの台所にも乾燥ハーブはあったけど、いつのかわからない感じだもん。

 これらは、小さいのは根から持って帰るし、大きな木になっているのは挿し木用に枝を切る。


「さて、そろそろ帰ろうか?」

 オリビィエ師匠の背負い籠には薬草がいっぱいだ。

 私のは、枝が多いかもね。

「これを洗って干すのですね!」

 オリビィエ師匠と話しながら帰る。

「ああ、この下級薬草と上級薬草は乾燥させても、効能が落ちないからな。でも、中には乾燥させない方が良い物もあるんだよ」

 へぇ! メモしたいけど、今は持っていない。木の家アビエスビラに戻ったら、忘れないでメモしよう。


「ミク!」

 小さな声で鋭くオリビィエ師匠が注意した。

「あそこに火食い鳥カセウェアリーの群れがいる。捕まえよう!」

 えっ、すごく大きいよ! 5羽いるけど、頭から頸にかけての羽毛がなく、鮮やかな青色をしている。あごには長い赤色のトサカがあって、なんか怖い。

 まるで恐竜みたいに見える。


「ミク、よく見ておくんだよ! 蔦の鞭アイビーウィスパー!」

 蔦が火食い鳥カセウェアリー5羽をぐるぐる巻きにする。


「グエィ! グエィ!」

 物凄く怒っている。

「師匠、火を吐いて蔦を焼き切ろうとしています」

 ボッと火が蔦を焼く。

「おおっと、逃がさないよ! ミクも手伝ってくれ!」

 私もポシェットの中から木苺をだして、火食い鳥カセウェアリーをぐるぐる巻きにする。


「上手いじゃないか! さぁ、脚の爪を切るよ! こいつ等の爪は鋭いから、蹴られたら怪我をしちゃうんだ」

 卵を欲しいなんて言わなければ良かったと、この時ほど後悔した事はないよ。

 脚の爪は10センチ近くあり、とても鋭かったからね。

 

 暴れる火食い鳥カセウェアリーを師匠は、体重を掛けて押さえつけ、爪をナイフで切っていく。

 私が、小柄な1羽を、何とか爪をナイフで切った時には、他の4羽の爪を切り終えていた。


「ミクが押さえつけているのは、雄だな。身体が小さいし、より鮮やかな色をしている」

 動物界では、時々、雌の方が身体が大きいのは、知っていたけど、私が捕まえた雄の方が小さくて可愛い。

「言っておくが、名前なんか付けてはいけないよ。特に、雄は時々、他の雄と交代させるのだからね」

 それは分かっている。ペットではないのだ。

「雌も卵を産まなくなったら、潰して食べるのだからね」

 

 暴れている火食い鳥カセウェアリー達の世話をできるかな? 火を吐かれたら困るよ。

「私に世話ができるでしょうか?」

 オリビィエ師匠は笑う。

「こいつらは、怒らせなければ火を吐く事はない。常に餌と水を与えておけば、機嫌良く暮らすさ」

 絶対に、餌と水を切らさないようにしようと決意した。


「餌は何でしょう?」

 ヨッと脚を蔦で括りなおして、師匠は肩から掛けたバッグの中に火食い鳥カセウェアリー達を入れる。

「えっ、生き物も入れられるのですか?」

 私が読んだラノベでは、マジックバッグの中に生き物は入れられない設定だった。

「何故、そんな変な事を言うんだい? 木の家アビエスビラに住んでいるのに?」

 ああ、そうだよね!


「でも、さっきアリエル師匠は、ハチミツはマジック壺にいれたけど、キラービーの巣は浮かべたまま運んでいました」

 それは、キラービーが生きているからだと勝手に思っていた。

「アリエルのマジックバッグは、容量が小さいし、キラービーの巣を入れた後の手入れが嫌だったのだろう。ひっくり返して、巣のゴミを取り出さないといけないのだが、少し厄介だからね」

 マジックバッグって、手入れがいるんだね。

 

「まぁ、でも、あまり長い時間、マジックバッグの中に生き物を入れておくのは、お勧めしない。糞とかされたら嫌だからな」

 それは嫌だよ!

「急いで帰りましょう!」

 師匠の後ろを私は必死で追いかけた。

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