第13話 筋肉のシチュー
行商人へ薬や石鹸を売ったので、空き箱を持って
台所には、サリーが買って来てくれた竜の筋肉が置いてあった。
「シチューにしよう!」
玉ねぎとにんじんを畑に採りに行く。
「うん? 何か立て札がある」
菜園の入り口に木の立て札があった。
近づいて読んでみる。
「6月地区移動。放牧地予定」
うん? この菜園が放牧地になるの?
何かで読んだことがある気がする。昔のヨーロッパで、秋植、春植、休耕地に分けて、休耕地に家畜を放牧するやり方じゃなかったかな?
「えっ、と言うことは6月になったら、この菜園は使えないの?」
それまでに収穫しないといけないのなら、急がなきゃ!
今は、5月! あれこれ栽培する物を考えなきゃ。
「オリビィエ師匠、6月から菜園は使えないのですか?」
そんな大事なことは、もっと早く教えて欲しかったよ。
「ああ、多分放牧地になるんじゃ無いかな? 夏には小麦畑だと思う」
あれ? では家畜は?
「家畜は、夏は山の牧場暮らしだな。それも畜産が人気がない一つの原因だ。山まで連れて行って、一日中見張って、連れて帰るのは退屈だからな」
なんだか、前世で見たアニメの世界だよ。
「魔物は大丈夫なのですか?」
オリビィエ師匠は笑う。
「彼奴らは元は魔物だからな。まぁ、竜が食べに来たら、ヴェルディが討伐するさ」
山羊飼いも竜を討伐できないと駄目なんだ。
「薬師も竜を討伐できないと、おちおち薬草採取などできないぞ。それに竜の肝も集めたい」
ふぅ、薬師の修行も大変そうだよ。
「まぁ、ミクは当分は私と一緒に薬草採取だな! 木には登れるだろ?」
うっ、ここでも木に登って逃げるしかなさそう。
「はい、それはできます」
ぽふぽふと頭を撫でてくれる。
「そのうち、竜の倒し方も教えてあげるよ!」
「できるかな?」
不安そうな私にオリビィエ師匠は笑いかける。
「大丈夫! 竜と言っても、ここら辺に出てくるのは、若くてお馬鹿さんばかりだから」
えっ、年取った賢い竜もいるってことなの?
「
これがフラグじゃありませんようにと祈っておくよ。
竜の筋肉のシチュー、師匠の葡萄酒を少し入れて煮込んだら、とても美味しかった。
アルカディアに来た時は、ただの枯木に見えたのは葡萄畑で、ワインを作っているみたい。
酒作りは人気だそうだ。大人は好きだからね。
「行商人からも酒を買う者もいるよ。私達は、ちょこっと飲むだけだから、買いまではしないけどね」
確かに、私とサリーが来てから、たまに夜に飲んでいるだけだ。
行商人がついた日は、大人達が売る物を持って集まっていたけど、2日目は少なくなっていた。
「サリー、お昼を食べたら、何か見に行こう!」
朝から、そんな話をしていたら、師匠に笑われた。
「飴を食べすぎないようにしろよ!」
飴を買いたがっていたのは、エレグレースだよ。
学舎と昼食を終えてから、やっと買い物だ。
「何か新しい種があると良いな!」
サリーとパンを売ったお金をポケットに入れて集会場まで走る。
やはり2日目なので、大人は少ない。
行商人の荷馬車の前の台の上には色々な商品が並べてあるけど、見ているのは子どもと若者だ。
「おや、もしかしてミクじゃないか?」
カーマインさんが覚えていた。
「はい」と返事をしたら、嬉しそうに笑う。
「顔を覚えるのも商人の仕事だけど、
なのに私の顔は覚えていたんだね。あまり顔が変わっていないのかな? 大きくはなっているよ!
「ミクは、アルカディアでオリビィエ師匠の元で薬師の修行をしているのだね。料理もしているのかい?」
ああ、声を掛けられた理由が分かったよ。
「ええ……でも」
断ろうとしたけど、頼み込まれた。
「竜の筋肉が売れ残っているのだ。私達が焼いただけでは固くて食べられない。でも、竜の肉なんて滅多に食べられる物じゃないのだ!」
ああ、それは理解できるよ。竜の肉なんて、狩人の村でも食べた事がなかったもの。
「幾ら支払ってくれるのですか? ワインを入れたらとても美味しくなりますよ。ミクの柔らかなパンで、残ったシチューをさらって食べたら、ほっぺたが落ちそうだったわ」
サリーのセールストークにカーマインさんと周りの人達がゴクンと唾を飲み込んだ。
「ワインもつける! 銅貨100枚でどうだろう!」
まぁ、それなら良いかな? なんて呑気に思っていたら、周りで聞いていた
「シチューを1杯、売ってくれ!」
サリーが交渉して、話をまとめてくれた。
行商人にワインを貰ってシチューを作るのは同じだけど、銅貨200枚貰う。
それとパンも付けるけど、小麦と銅貨50枚貰う。
そして、それを全てカーマインさんに渡して、欲しい
「だって、
サリー、私よりやはり交渉力がある。
早速、ワインと小麦と筋肉の余っていたの全部を
「おや、おや、何事だい?」
オリビィエ師匠に説明したら、爆笑されたよ。
「サリーの交渉力を見習わないといけないかもなぁ」
確かに! 人間の町で金貨5枚で売られているのを知っているのに、金貨1枚でカーマインさんに売っていたもの。
でも、師匠は、金貨3枚で売って欲しかったのだと思う。
金貨3枚でも、私には買えないかもしれないけど、5枚よりはマシに思えるから。
ここら辺は、よく考えなきゃいけない問題なのかも?
サリーに菜園からにんじんと玉ねぎを引っこ抜いて来てもらう。
私は大鍋2つ分の筋肉を切って、塩をまぶしたり、下処理をしなきゃいけないからね。
それと、明日のパンにするつもりのパン種を使うから、新しく作り直したりしていた。
「ミク、このくらいで良い?」
これから成長するにんじんや玉ねぎだから、必要な分だけ採って来て貰ったのだ。
「うん、ありがとう! サリーは芋の皮を剥いてね」
2人で分けるから、サリーにも手伝って貰う。
「芋はいっぱいあるから、何個でも剥いてね」
もう芋は1回目の収穫をしたからね。
シチューにいっぱい入れるつもり。
筋肉にも少し小麦粉をまぶしてから炒める。こうしておくと、シチューにとろみが出るんだよ。
玉ねぎ、にんじんは、ザクザクと乱切りにして、炒める。
ここまでは1つの大鍋でしたけど、ここで半分はもう1つの大鍋に移す。
初めの大鍋に、水とワインを入れて煮込む。
もう1つの大鍋は、少し炒めてから、水とワインを入れて煮込む。
「後は煮込むだけだわ。芋を剥くのを手伝うわね」
台所の木の椅子に座って、芋をいっぱい皮を剥いた。
「これはシチューに入れないの?」
サリーに説明する。
「筋肉が柔らかくなってから、芋を入れるのよ。そうしないと芋は溶けてしまうから。水につけておけば良いわ」
シチューは、煮込むだけだから、その間にパンを焼こう。
「まだ発酵が進んで無いけど、シチューの横に置いておけば大丈夫かもね」
温かいと発酵が進むのが速いのだ。
「発酵器が欲しいわ」
これから夏は良いけど、冬は発酵が進まないかも? 家では、暖炉の横に木の箱を発酵器代わりに置いて使っていたのだ。
「あの木の箱? 冬にミクの家の暖炉の横に置いてあった物よね?」
「うん、夏場は良いけど、冬になったら必要かも?」
まだ春なのにとサリーに笑われた。
大鍋を2つも煮込んでいるから、台所もかなり暑い。
窓を開けて、風を入れる。
「もう発酵しているから、ガスを抜いて、二次発酵させよう」
サリーも慣れているから手伝う。
「後は、ベンチタイムね!」
二次発酵が終わったら、整形して板の上で少し休ませる。
「今日は小さ目のパンにするわ。焼く時間が短くて済むもの」
いつもは、頭ぐらいの大きさのパンだけど、今日は両手に入るぐらいの大きさにする。
「狩人達は、小麦はあまり要らないんじゃないかな? もっと欲しいのよ。トマトができたら、美味しい物を焼きたいの」
狩人達は、きっと小麦でお粥を作っているのだろう。
でも、私はピザを焼きたいのだ。
「へぇ、美味しい物! 楽しみだわ」
ただ、チーズも買わないといけないから、そんなには作れないかもね。
「なら、小麦を買う?」
ううん、悩むところだよね。サリーが交渉してくれたから、銅貨250枚の半分、銅貨125枚の臨時収入があったからね。
「おい、おい、行商人から高い小麦を買うぐらいなら、狩人の余りを買った方が安いぞ。子どもが小さい家は売らないけど、大きくなった家は余っているだろう」
オリビィエ師匠が隣の居間で聞いていたのか、台所に顔をだして笑う。
「そうなのですね! 私がパンを焼くから、小麦粉が残り少ないのです」
他所のパンは小麦粉と焼き賃を貰うけど、
「今度からは、ミクとサリーの分も増やして貰おう。特に、ミクは小麦の栽培には尽くしているんだからな」
ふうん、分配も色々と考慮されるのかも?
「今度、貰って来てやるよ」
これはオリビィエ師匠に任せよう。私は、学舎に来る子しか知らない。つまり子どもだから、お粥を食べているのだろう。
パンが焼けた頃には、後から入れた芋も柔らかくなっていた。
「どうやって運ぼうかしら?」
「行商人は荷車を持っているだろう? 取りに来て貰えば良いさ」
サリーが言いに行ってくれたので、私はパンを籠に入れたり、大鍋を2つ入り口の階段まで出しておく。
「ああ、美味しそうな匂いがしている!」
カーマインさんが、護衛の1人に荷車を押させてやって来た。
パンの籠とシチューの大鍋2つを渡す。
でも、サリーと後ろをついて行くんだけどね。買い物が済んで無いんだもん。
結局、その日は買い物はできなかった。
筋肉のシチューを買いに来た
「しまった! 安くしすぎたわ」
1杯20銅貨で売っていたのだ。どう見ても、20杯以上売っている。
ワイン代もあるけど、銅貨400枚以上儲けている!
「商人には勝てないわよ」
次の日、美味しい筋肉シチューと臨時収入でほくほくのカーマインさんから、私は新しい種、サリーは棒飴を買った。
「飴の半分、あげるわ」
サリーは、やはり優しいね。
「だって、ミクのパンを焼いたお金だもの。私は手伝っているだけ。魔法使いってどうやって暮らして行くのかしら? やはり魔物の討伐なのかな?」
それは、アリエル師匠に訊くしかないね。
オリビィエ師匠が菜園の移転に呑気だったのは、移動日になってわかった。
私は、ちゃんと収穫を終えていたけど、まだ終えていない菜園もあり、1週間ぐらいして、変わったのだ。アバウトすぎるよ!
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