第1話 転生したら、子どもに厳しい世界でした

 ああ、私は死んだ筈なのに……赤ちゃんとして第二の人生を貰えたの?

 前世の私の記憶が残っているから、病気で死んだのも知っている。

 生まれた時から心臓に欠陥を持っていた私を、パパとママは1日でも長く生かそうと全力で護り、愛してくれた。

 手術と病院の日々、そして少し改善したら家に帰れる嬉しい短い期間。

 でも、身体が成長するにつれて、私のポンコツ心臓は血を全身に送るのができなくなった。

 小学校には少ししか通えなかった。ママが車椅子を押して、付き添ってくれたんだ。

 文字や計算は家でパパとママに習ったよ。それに病院の教室でもね。


 でも、もう無理なのは私もわかっていた。

「ごめんね、未来ちゃん! 元気な身体に産んであげられなくて!」

 ママ、パパ、愛してくれてありがとう……今度、生まれ変わるなら丈夫に生まれたいな……。

 パパも仕事と私の看護で疲れ切っていた。二人で旅行にでも行ってね!


 ほんの12歳までしか生きられなかったけど、私はそれに満足していた。

 つもりだったけど、やはり心の中では「思いっきり走りたい!」「ママと料理をしたい!」「美味しい物を食べたい!」「大人になって働いて、パパとママにプレゼントしたい!」「旅行に行きたい!」「お友達が欲しい!」色々と不満を溜めいていたみたい。

 だから、記憶があるまま転生したのかな?


 それにしても目がはっきり見える。赤ちゃんってぼんやりした視力しかないんじゃないかな?

 今回のママとパパは、外国人みたい。それに、あまり裕福では無さそう。

『もしかして、異世界なのかも?』

 そう思ったのは、パパの髪の毛がグリーンだから。パンクで染めているとは思えないんだもん。

 服は荒い毛織物で、家の壁には弓矢や剣や斧などが掛けてある。

 ママは、金髪の美人で16歳ぐらいにしか見えない美少女だ。パパもどう見ても10代だよ! 2人ともグリーンの綺麗な目をしている。

 ヤンママも良いけど、前の落ち着いた優しいママを思い出して泣いちゃった。

「お腹が空いたのね!」

 立派なおっぱい、いただきます!

 お腹いっぱい母乳を貰ったら、眠たくなった。


 起きたら、次の日だった。夜泣きをしない赤ちゃんに転生したのかな? 前のママとパパには苦労を掛けたから、手のかからない子になったのは良かったよ。

「もうお粥でも大丈夫かしら?」

 ママ! それは無理だよ!

「まぁ、無理ならおっぱいをやれば良い」

 ちょっとパパ、無茶言わないで!

 ああ、私は2日で死にそう! 短い人生だったよ。

「ほら、潰してあるから食べられるでしょう」

 小さな木の匙にドロドロのお粥。無理じゃん!

 もぐもぐ……美味しい! 無理じゃない? 何故?


「うん、ちゃんと食べられるな。なら、そろそろ歩く練習をさせなきゃ!」

 パパ、無茶だよ!

 ベビーベッドから抱き上げられて、脇の下を持って床に足をつかされる。

「ほら、歩くんだよ」

 ママは、心配そうに見ている。

「歩けないと、魔物から逃げられないわ」

 えええ、魔物がいる世界なの? その時はママが抱いて逃げて欲しい。

「そうだなぁ、俺とお前が狩りをしている間、木の上に登れないと、一瞬で食べられてしまう。さぁ、ミク、歩くんだよ!」

 真剣に両親に言われ、ママに交互に足を持って出される。


 ああ、これはテレビで見たサバンナの草食動物と同じだ。生まれてすぐに歩かないと、肉食動物に食べられてしまうのだ。

 私は、自分の前世の常識を手放さないと、この厳しい世界では生きていけない。

 よちよち、よちよち、頑張って歩く。

「おお、これなら明日からワンナ婆さんに見てもらえるな! 狩りに行くぞ!」

 えええ、保育所ですか? 二人はいそいそと狩りの支度をする。

 オムツは2日目で卒業した。部屋の隅のオマルでするのだ。夜は、ベッドを濡らしたら困ると、オムツをされたけどね。


 転生して3日目、初めての外だ。家は一部屋しか無いし、そこにベッドとテーブルと椅子と食器棚と暖炉があるだけだ。

 窓にはガラスは無く、今は寒い季節なので、木の蓋がしてある。

 蝋燭はあるけど、基本的に暖炉の火が灯りだね。

「寒いから、これでくるんでいきましょう」

 ママが毛皮で私を包んでくれた。ふかふか、なかなか気持ち良い。

 外は、眩しかった! 雪で真っ白! 

「あちらがワンナ婆さんの家だ」

 パパが私に教える。えっ、もしかして自分で行くの? 

「今日は連れて行くけど、明日からはミクは自分で行くのよ。村の中だから魔物は来ないわ」

 ママもスパルタだよ。なら、真剣に覚えなきゃ! 雪の中で迷うなんて嫌だからね。


 ワンナ婆さんの家も小さな小屋だった。

「おお、ワンナ婆さん、この子はミクだ! 宜しく頼むな!」

 白髪混じりの青い髪を三つ編みにしているワンナ婆さんは、私をママから受け取った。

「ああ、しっかり稼いで来な! 預かり賃は後払いで良いよ。この数日は狩りに行けなかっただろうから」

「それは助かる!」とパパは喜んでいる。

 二人は、バタンと扉を閉めて去っちゃった。


「お前さんはミクか。良い名前だね。私はワンナ。歳を取って狩りにはいけなくなったから、赤ちゃんのお守りをしているのさ。あそこにいるのは、マック、ヨナ、サリー、ジミーだ。仲良くしな!」

 マックは、かなり大きな金髪の男の子だった。ここのボスだね。

「ミク、こっちに来い!」

 前世では、小学校もほんの数日しか通っていなかったのに、生まれて3日目でいじめっ子と遭遇か! 厳しいな。

「ほら、新入りは挨拶をしなきゃな!」

 えっ、そこから?

「ミクでちゅ」

 げっ、赤ちゃん言葉になったよ。というか、生後3日で話せるんだね! びっくり!

「私はヨナよ! マックと私は、もうすぐ狩りに連れて行って貰えるの」

 ヨナはグリーンの髪の可愛い子だ。どう見ても幼児だけど、何歳なのかな? 私もよちよちの赤ちゃんだけど、普通なら寝ているだけな筈?

「私は、サリー! ミクが来てくれて嬉しいわ。ヨナがいなくなったらジミーだけですもの」

 サリーは赤い髪の可愛い幼児だけど、喋りのスキル高いよ。

「ジミーだ」

 青い髪のジミーは少し無愛想。サリーが二人っきりになるのを心配した筈だよ。

 今のところ、全員が緑の目だ。この村の特徴なのかな? 私の目は? 鏡がないから、分からないけど、ママもパパも緑だから、同じかもね。


 基本的にワンダ婆さんは、暖炉の前で編み物をしているだけだ。

 昼にお粥を出してくれた。

 私は、ヨナとサリーのお人形さんだよ。お粥もスプーンで食べさせてくれた。

「ミクは、生まれて3日目なのね。まだ赤ちゃんだわ」

 それは確かにその通りだけど、どう見てもヨナとサリーも幼児だよ。

「ヨナは幾つなの?」

 これ、重要!

「ふふん、もうすぐ1歳になるのよ! 1歳になったら狩りに連れて行って貰えるの」

 ガァーン! 1歳! 7歳ぐらいだと思っていた。

 ということは、8歳ぐらいに見えるマックも1歳になっていないのだ。


 口が重たいジミーは、まだ生後10日だそうだ。私との付き合いは1年続きそう。

 サリーは2ヶ月! 3歳ぐらいに見える。

 つまり、ここの子供の成長はとても早い。もしかして寿命も短いのかも?

「ワンダ婆さんは何歳?」

 ふふふと笑って「78歳だよ」と教えてくれた。まぁ、年相応だよね。ホッとした。

「ママとパパは何歳なの?」

 これ、重要! 適齢期が3歳とか困るからね。

「キンダーは20歳だったかねぇ。ルミは18歳だよ。あの子は、私が初めて預かった子だから覚えているよ」

 少し、ホッとした。前世よりは結婚が早いみたいだけど、寿命は同じぐらいだと分かったからね。

 要するに、赤ちゃんから幼児の間の成長が早いのだ。つまり、厳しい世界だって事みたい。

 それと、ママとパパの名前もわかった。ルミとキンダー!

 これ大事だよ。なのに、パパもママも名乗るのを忘れていた。

 まぁ、赤ちゃんに名乗らないのが普通なのかもしれないけど、ここは普通じゃない世界だもんね。

 せっかく、第二の人生を貰ったのだから、今回は長生きしたい!

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