第145話 嵌められた

 皆がハイタッチをしている理由が分からなかった。


 ヤーマ以外はアイリーンに対する接し方はハーニャの時そのままだ。 

 だからアイリーンにタニスなんかは両手でのハイタッチをしている。


 仲が良いのは良いことだ!と言いたいが、突然の皆からの妻宣言に俺は困惑する。


 そうだ!これは俺の妄想が生んだ夢だ!うん。きっとそうだ!

 などと思うも夢ではないと理解している。


「セルカッツ殿、私も娶っていただき感謝しているでござる」


 ヨルミクルが顔を真赤にしながら確かに娶ってと言ったが、娶った覚えはない。


「同じ日本出身者として、添い遂げる事になり嬉しいわ」


 やはりアルテイシアも娶ったことになっている。


「お、夫になら素顔を晒すのは問題無いの・・・」


 自ら素顔を晒すのはイザベル。


「すまん。俺は君達を今娶ったのか?」


 皆が頷く。


「一度取り消せないか?個別に臭い言葉でプロポーズをしたかったんだが」


 とりあえず言ってみる。


「セル様、皆、今娶って貰うのが幸せなの。臭い言葉より今は抱きしめて下さい!これで本当の家族になれるのね」


 メイヤの言葉にハッとなる。

 彼女は孤児院を転々としていたようなことをぼそっと言っていた。


 タニスは黙って手を握るだけだ。

 リリアナ様とネイリスは2人して、宿の部屋にある小さなテーブルでお茶をしてこの珍道騒ぎをニコニコしながら眺めていた。


「ソロソロ話が終わりましたか?これからの事を話し合ったほうが良いかと思いますわ」


 リリアナさんが真面目な顔で言う。


「駄目です。セル様が今の状況を理解していないのでは話がおかしくなります」



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 真言で誓ったのは、アイリーンが「私達」

 そういった形で複数形を使った。


 一言一句思い出すと・・・

 言っていた・・・確かに誓った。

 この世界で真言や類似のスキルによる宣言や誓いは絶対だ。


 この世界の貴族は数人の妻や妾を囲うのが当たり前で、女性も貴族の庇護下に入るのが一種のステータスだ。

 だから別におかしな話ではない。

 しかもアイリーンはご丁寧に、第一夫人となるアイリーンが俺の結婚相手を決め、離縁するのも彼女の許可がいるようにしてきた。


 半ばパニックになっているドサクサにそのような内容で告げ、俺はまんまと嵌められた・・・


 結局国王が手配する護衛とは別に、リリアナさんも国境まで付き合うとなり、着替えた後全員城に赴く事になった。


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 夕方、迎えが来たので護衛されながら城に向かう。

 宿の方に悪いことをしたなと思いつつ馬車に揺られ城に向かう。


 俺は直ぐに国王に呼ばれた。


 何事かと思ったらどこで知ったのか鏡のことだった。


 人払いをすると、国王は俺に頭を下げてきた。


「セルカッツ殿、貴殿は大型の鏡を所有というか作れると聞く。そのことについてお願いがあるのだ・・・」


 今後のことの他、切実な話として手持ちで1番大きな鏡を売って欲しいといった内容で、ドナルドの件で王妃の機嫌が悪いそうだ。


 仕方がないので、25cm四方ほどの卓上の鏡を渡すと本当に泣いていた。


 王妃様にゾッコンで、機嫌取りに必死だった・・・

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