第77話 騎士の忠誠
仕方がないので、ダイダルスに合図し、兜を投げてもらった。
恐る恐るイザベルに渡そうとするも、顔を隠していてどうにもならない。
少し罪悪感が・・・
「えっと、かぶせればよい?」
「おねぎゃいじまず」
泣きながら返事をしたが、何とか聞こえた。
観客の視線が痛い。
何故か試合は終わらず、俺の勝利宣言が出ない。
どう見ても戦闘不能になっているのだが・・・何故?
ほすっとかぶせると、ムクッと立ち上がり、観客達に礼をした。
「失礼致しました。さあ再開しましょう!」
「皆様!仮面騎士K選手に少しトラブルが発生したようですが、解決したようですので、再開します!」
えっ?マジで意味分かんないんだけど?
戦闘不能になった段階で俺が勝ったよね?
でも、女性を泣かせたと白い目で見られたから、ここでそれを言うと俺の株が下がる。
ここは寛大に行こう!
「えっと、色々あるけど、後で教えてね・・・もう大丈夫なんだよね?」
「はい。御主人様にこの勝負が終わり次第話しをします。ですがここからは問答無用に行かせてもらいます!」
もうね、やる気だだ下がりなんですよ。
精細に欠き防戦一方ですわ。
でも最後は可哀想だけど、大内刈りで転がし、寝技で落としたよ。
硬いから抑えるのがきつかったけど、何とか首に手を持っていき落としたんだ。
よくも悪くも女の涙に弱いと知れ渡ったんだ。
あの後はイザベルもスキルを使わなかったな。
真っ向勝負ではどうなったか分からないけど、まあ、女をぶん投げたと揶揄されたけど、兜をかぶせた後は最後に転がすまで5分ほどガチガチに真っ向勝負をしたよ。
なので会場も盛り上がった・・・はず?でも、仮面騎士Kは頑張った!
俺と互角に戦った凄い女騎士!と称えられたが、どうにも兜を外された後のあの仕草には絶句した。
かっこいい女騎士!すげぇ!惚れたぞ!と思った俺の気持ちを返して欲しくなったよ。
取り敢えず落ち着こう。
今は落ちたイザベルに活を入れていた。
「はっ!勝負は?」
俺は前に回り、その手を取った。
俺ではなく、絶対王者たる俺に対して善戦したイザベルに向けられ拍手が起こっていた。
立ち上がると、頑張ったなとか、女だてらにやるなあ!とか色々聞こえてくるのと、俺のパーティーメンバーが駆け寄って来ていたので悟ったようだ。
「私は・・・負けたのだな」
イザベルは試合が終わったのと、自分が負けた事を理解すると、俺の傍らに落ちていた剣を拾い上げた。
一礼をした後、一瞬なにか考えているかのように意味深な表情で深呼吸をすると、騎士のする忠誠の儀式を始めた。
彼女はその場に立ったまま目を閉じ、心の中で何かを唱えるような仕草を見せる。
その時、闘技場の観客席は静まり返り、興奮した雰囲気が一瞬にして緊張感に変わったのが分かる。
「あの人何してんの?」
子供が親に質問している声が妙に響いた。
アルテイシアもナンス驚いたように俺を見つめ、ダイダルスとタニスも黙ってその光景を見守っていた。
メイヤとハーニャは満足そうに頷く。
イザベルの儀式は騎士の誇りと忠誠心を示すものだった。
彼女がこの瞬間、俺に誓うのは戦士としての約束であり、仲間としての信頼の証でもあった。
俺は呆気にとられその様を見ていたが、いや、その所作に見惚れていた?俺に捧げられた剣を見てはっとなり、受け取った剣をその肩に当てると返した。
儀式が終わると、イザベルはゆっくりと剣を鞘に戻す動作の後、俺に渡してきた。
まあ、返さないといけない木剣だからね。
そして再び俺に向かって一礼をしたが、その目には、新たな信頼と共感が宿っていた。
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