第56話 団体戦予選開始

 時間がないので、俺は食堂にあったパンを適当に手に取ると、それをかじりながら闘技場へ急ぎ向かった。


 ・

 ・

 ・


「セル様!」


 メイヤが駆け寄る。


「悪い。待たせたね」


「うわっ!酒臭いわ!」


「警戒していたのにまた俺の所に酒が来たんだよ」


「遅いから心配したっす!その、昨夜ウル姉と何かあったっすか?」


「ああ・・・うん。ちょっとね。時間が無いから手続きをしようか?」


「もう済んだ」


「ごめんなさい。対戦の順番は私が決めて出しました」


「そっか。俺が指示するって言っておきながら遅刻してしまったからね。ありがとうな」


 メイヤが泣きそうな顔をしており、心が少し痛む。


 受付をし、闘技場に入ると既に観客席は満員で、闘技場には参加チームが所定の位置に並んでいた。


 俺達は注目を浴びていた。

 勿論優勝候補だからだ。

 トップツーは武器別で4人の優勝者を各々出しているから、決勝はこの2チームとなるものと見られているからだ。


 アルテイシアさんと目があった。

 しかしぷいっとそっぽを向く。

 少し子供っぽいところがあるなって14歳だもんな。


 そんな中、俺の身なりをメイヤが直していく。


 なにかブツブツ言っているが、気の所為か?


「相変わらずセル様はだらしないですね」


「俺が人前に出られるのはメイヤのお陰だね!」


「その、えっと・・・なんでも無いです」


 俺は最後に並んだ。

 ハーニャ、ネイリス、タニス、メイヤ、俺の順番で並んでいる。

 メイヤの様子が少し変だ。


「メイヤ、大丈夫か?いつもと様子が違うが」


「あっ、その、なんでもないです」


「ひょっとして女の子の日か?」


「ち、違います!違いますから放っておいて下さい!ほら始まりますよ」


 メイヤに怒られた。

 確かにまだ3人は初潮を迎えていない。

 逃避行の時に聞いている。

 体調面で大切な事だから、もし初潮を迎えたら速やかに報告するように言っていたが、あくまで国を出るまでの事だ。


 司会が団体戦の開始を告げ、各ブロック毎にリングに移る。

 武器別の時と同じで8つに別れる。


 ブロック分けは運営が独断と偏見で行っている。


 全部で40チームが出ており、ハンデとして優勝候補の8チームが逆シードだった。

 さもありなん。


 ただ、この競技のいやらしいところは、途中から順番を変えられないと言うところだ。


 なので俺が順番を決めるならメイヤが初戦、2番手はタニス、俺が3番目、ハーニャ、ネイリスの順だ。


 ルールや形式はこうだ。

 試合は1対1の総当たり戦で、先に3勝したチームの勝ち。

 魔法攻撃は反則負け。

 相手を死に至らしめた場合、その者は負けとなり、チームが勝っても以降の試合には出られなくなる。

 試合時間は1人に付き3分で、決着しなかったら引き分け。

 5人戦い勝敗数が同じなら代表による1戦。

 これで決まらなければ代表が矢を放ち、中心に近いチームの勝ち。

 武器は武器別競技とは違っても良いし、試合毎に違っても良いが、登録した順番だけは変えられない。


 それにより敢えて途中ギブアップして試合数をコントロールする事もありだ。

 但しそれでも1敗は1敗だから、良く考えなくてはならない。


 ただ、各ブロックは、武器別で好成績を収めた者が複数いるチームがバラけるように分けられている。

 実際問題として強者とされる者が1人いてもどうしようもなく、各ブロックは想定されるチームが順調に勝ち上がっていた。


 俺は暇だった。

 暇なので他のブロックのと言うか、アルテイシアの黒き薔薇を見に行っていた。

 俺に気が付いたのかアルテイシアは不機嫌そうだった。


 しかし、大将のアルテイシアが戦う所は見れなかった。


 かくいう我ら氷艶の魔眼も先鋒、次鋒、中堅の3人が戦うのみだった。

 心配だったハーニャだけど、格闘術を披露する事になったが危なげなく戦った。


 タニスはショートソードの2本持ちだ。

 また、ネイリスも2本のナイフと言うか、小振りなコンバットナイフを2本持ち器用に戦った。


 3人は予選ごときで俺の手を煩わせてなるものか!と頑張っていた。

 なので合間合間にマッサージをしたりしたが、それをするのは試合をした者だけなので、メイヤはしまったといった顔をしており、3人に「1度負けて!」と本気で頼んですらいた。


 勿論却下だったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る