第53話 決勝戦・剣編

 仕切り直しとなり、司会が俺とヨミクルの紹介をした。


「・・・いよいよ武器別競技も最後の剣を残すのみぃ!セルカッツ選手率いる氷艶の魔眼からは、なんと3人の優勝者を出しているぅ!もしセルカッツ選手が優勝したらぁ、あの黒き薔薇と同じ4人ですよぉ!こうなると2つのパーティーで優勝者を分かつという、とんでもない事にぃ!さてさて、もう一方のヨミクル選手は、なんと盲目の剣士!ええ、目が見えなくてもこの大会で攻撃を1度も浴びてないっていうんですから、目が見えない事がハンデになっていると言えるでしょうか〜!まるでヒーローいやヒロインの登場じゃないですかね〜?事前のオッズを見ると、ちょっとした波風が・・・ヨミクル選手がややリード中って感じです!でもね、どっちもがっつりと注目のカード。さてどちらが勝つんでしょうね〜!そうそう、賞金の使い道も気になるトコロですう!ヨミクル選手は古傷の治療費、一方のセルカッツ選手はなんとパーティー員の中にいる奴隷を解放!まさに大会屈指のイケメン選手の粋な計らいでしょう!どっちもみんな応援したくなるけど、勝者は1人だけ!果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかしら〜?さあ、いよいよ始まる最高の戦いに興奮だよぅ!〜!お楽しみに〜!」



 試合が始まると、セルカッツは対戦相手であるヨルミクルに向かって歩き出した。

 ヨルミクルもまた、優雅な動作でセルカッツに接近して行く。

 観客席からは興奮と緊張が漂っていた。


 セルカッツは木剣を手に取り、ヨルミクルに対して警戒しながら慎重な動きを見せた。

 ヨルミクルは和風の装いを身に纏い、太刀を構えてセルカッツに対峙した。


 お互い1礼し剣先を1度合わせ、さっと後ろに飛び距離を取る。


 最初の攻撃はセルカッツからだった。

 彼は素早く一歩前進し、木刀を振り下ろした。

 ヨルミクルは上手く躱し、反撃のチャンスを窺った。

 しかし、セルカッツは素早く距離を取りながら防御の姿勢を取った。


 試合は徐々に激しさを増していく。セルカッツとヨルミクルは剣技を駆使して攻防を繰り広げた。

 セルカッツは的確な動きでヨルミクルの攻撃を躱し、ヨルミクルは巧みな足捌きでセルカッツの攻撃を躱していった。


 観客達は熱心に試合を見つめ、どちらが勝利するのか興奮しながら予想していた。


 セルカッツの仲間たちも熱心に応援し、声援が闘技場全体に響き渡ったる。


 セルカッツは戦いの中で、ヨルミクルの動きを徐々に読切っていった。

 彼は補助魔法を使い、自分の能力を引き出す助けとして活用していた。


 一方のヨルミクルも、セルカッツの戦術に対抗する為に、自身の特技を駆使していた。

 抜刀術を使ったのだ。

 しかし、それらは日本人が知っている技で、初見殺的な技だった。

 だが、知っていれば対処するのは造作ない。

 セルカッツはこの盲目の剣士が盲目とは思わないようにしていた。

 

 流れを変える為に土魔法で足場を作り、上段より撃ち込むとヨルミクルは一瞬セルカッツを見失い、これまでにない程距離を取るべく大きく後ろに飛んだ。


 激しい攻防が続く中、セルカッツとヨルミクルは次第に疲労していく。

 しかし、両者とも決して譲らず、最後の一撃を狙いながら闘い続けた。


 試しにとそこから何度か足場を作り攻撃をすると、反応が少し遅い。

 これは?と思い、セルカッツは風魔法で闘技場全体に風を発生させ、魔力で満たした。


 どうやってこちらの動きを察知しているのか分からないが、魔力の動きか、空気の流れ、はたまた音で動きを感じているのか?


 レーダーが働かないようにすれば手も足も出まい。

 そこからはセルカッツが攻撃し、ヨルミクルが受け時折カウンターを仕掛ける流れになってきた。

 彼女の髪がふわっと舞い、その髪がセルカッツの鼻腔をくすぐりくしゃみをしそうになり距離を取った。

 そろそろかな?セルカッツはそう感じた。

 まだ奥の手は残したままだった。


 そして、ついに決着がつく瞬間がやってきた。

 セルカッツはヨルミクルの攻撃を躱し、彼女の隙間を見つけて一気に木刀を振り下ろした。


 ヨルミクルは辛うじて回避しようとしたが、セルカッツが使った足場に気が付かずに足を取られて蹌踉めいた。


 そんな隙を見逃さず、セルカッツが繰り出した下からの斬り上げが彼女の服を斬り裂き、返す剣で彼女の刀を打ち落とし、首元に剣を突きつけセルカッツの勝利にて幕を閉じた。


 正面にほぼ密接しているが、破れた服が開け、その見事な胸が露出した為、セルカッツは慌てて抱きしめた。


「キャッ!?不埒者!離せ!」


「離しても良いけど、服が破れたから俺が離れると胸がご開帳となり、観衆の元に晒してしまうよ!」


「えっ!?だ、駄目です!胸を晒すのは絶対に駄目なんです!」


 アリーナ内は大歓声に包まれ、セルカッツは疲労と共に満足感を感じ、大の字になって地面に転がりたかった。

だが、むやみに女性の胸を晒すわけにも行かず、ヨルミクルの背中を擦るしかない。

 彼女の心臓が早鐘を奏で見るまでもなく顔が真っ赤になっている。


 審判を呼び、コートを掛けて貰うまで抱き合うしかなかった。


 観客は憶測する。

 ひょっとして恋が芽生え、抱き合っているのか?

 しかし奴隷開放と奴隷落ちを賭けた勝負で負けたらヨルミクルはこの男の奴隷になったと。


 その後司会が服が破れ、胸が晒されるのを防ぐのに抱きしめていたと説明すると、セルカッツは紳士だと拍手喝采が沸き起こった。

 そんなヨルミクルも笑顔で頭を下げ、試合を讃えられた。


 審判の勝ち名乗りの後に、セルカッツの仲間達は闘技場に入り、彼を囲んで祝福した。


 これによって、闘技大会武器別部門の試合は全て幕を閉じ、多くの人々にとって忘れられない瞬間となった。


 ただ、自分が奴隷になった事に対し複雑な思いを浮かべるヨルミクルには今後の事に対して不安しかなかった。

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