第2章

第33話 武闘大会予選

「やあああ!」


 開始早々メイヤが木の槍で足下を払うと、ソバカス混じりで小太りの男の子はあっさりと転がされた。

 そしてメイヤは相手の首筋に矛先を突き付け、あっさり終わった。


「勝者、氷艶の魔眼所属メイヤ!」


 俺達にとっての初戦はメイヤだったが、サクッと倒していた。

 俺の方を見たので手を振っておく。


 今日は闘技大会の初日。

 個人戦の獲物別だ。

 俺の出る剣術部門は1番最後なので、メイヤの試合を見ていた。


 一般観覧者とは別に、闘技場の直ぐ近くに来れる。


 いわゆるコロシアムで、予選は各獲物別に人数の多い所から1回戦が行われ、8つに区切られたエリアの中で戦う。

 ボクシングのリングより少し広く、概ね10m四方だろうか。

 四隅に台座付きの支柱を置き、そこに何本かロープでボクシングのリングのように囲っている。


 人数の少ない種目は2回戦や3回戦目から予選がスタートし、その種目の1回戦が終わると別の種目の予選X回戦に代わる。

 ただ、リングを使わない弓だけは別だ。


 リングから外に出ると失格で、5分以内に決着を付けるようにと、3よ分経過するとロープが外される。

 時間は概ねだが、砂時計で測っていた。


 勝つ気の無い者もいたりし、服装やリングに入る時のパフォーマンスで観客の笑いを取る者もいる。

 メイヤは恐らくダークホースだろう。

 見た目は儚くか弱き女の子だから、初見でまさかこの顔で強いとは思うまい。


 試合は木剣等の模造武器を使って行われる。

 いくつかルールがあるのが、リングの外に出ると負けだ。

 ただ、最初はロープがあるから簡単にはリングアウトにはならない。

 また、気絶したりこの様に刃先を首元に突き付けられたら勝ちだ。

 気絶判定はテンカウントだ。


 負の条件だが、反則負けもある。

 ここは武闘大会の為、攻撃魔法が禁止されている。

 防御に使うのは良いが、攻撃魔法と判定され兼ねないので身体能力向上のみを使う事が主流だ。

 武器を落としたり、フェイントとして投げ付ける事もあるが、リングの外に武器が出ても負けだ。

 だから投げ付ける場合、最悪受け取られて外に投げられたら終わるので、滅多にいないらしいけどね。


 でも、開始早々に眉間に当たり気絶とか実際にあるんだよ!俺もしようかな!


 また、相手を死に至らしめた場合もだ。

 詰には問われないが、即失格だ。


 で、いよいよ俺の番だ。

 この世界は槍と剣が主流だ。

 戦で正規兵、特に騎馬は槍を使う事が多いので、武闘大会には槍使いの方が多かったりする。

 これが冒険者に限定すると剣の方が多い。


 俺の初戦は貴族のボンボンのようだ。

 構えが綺麗過ぎる。


「リラン男爵家次男のナイリマスだ!貴族と戦える事を誉れに思うのだな」


「これはご丁寧に。バリラン国ダイランド・フォン・セルカッツ。ダイランド侯爵家子息だ」


「何!貴様のような奴が上級貴族だと!有り得ん!」


「始め!」


 審判が発した開始の号令と共に奴が駆け出したが、俺はスキルを使うまでもないと判断し、これまでの訓練で身に着けた技術のみで相手にする。

 この後万が一強者がいた場合に備えたいので、雑魚相手に手の内は晒さない。


 でもね、鼻をほじれるくらい鈍いんだよ!

 これはあれだな、参加した事に意味のあるエンジョイ勢というやつだな。

 少し余分に避けてから脚を引っ掛け、後頭部を剣の柄で殴った。

 ギャグ漫画のような情けない倒れ方をし、うつ伏せでピクピクとし立ち上がらない。


「勝者、氷艶の魔眼所属セルカッツ・フォン・ダイランド!」


 テンカウントの後俺の勝利宣言だ。

 そして開始位置に戻り、一礼をするも奴は起きなかった。

 慌てて執事服を着た初老の男と、顔を青くした騎士の1人がリングから引きずり降ろしていた。


 武器を使った試合だが、足による攻撃は認められている。

 また、武器を握っていない方の手での攻撃もだ。

 武器を手放した時の肉弾戦までは知らんが。

 やるつもりがないからね。

 因みにイキって勝手に転け、単に自爆した馬鹿と思われたようだ。


 次はハーニャだ。

 弓は特殊で、対戦する2人が並んで的に対し3本の矢を放ち、中心にある丸の中に当ったかで勝敗が決まる。

 どちらも当った場合4射目以降、どちらかが外すまで続く。

 10射目で終わらなかった場合、11射目は的の中心部に近い方が勝ちになる。


 ハーニャの初戦は1射目で中心を射抜き、相手は2射目まで的に当たらず、3射目に的の中心から少し外れた所に当たり、膝をついてこんな馬鹿な事があああ!と唸っていた。


 その次はタニスだ。

 魔法使いだが、身長に関しては一般的な男性と同じか高い方なので、その体躯を活かしての攻撃になる。


 相手は俺やハーニャより握りこぶし1つ高い屈強なインファイターだ。

 体格は完全に向こうが上で、筋肉をひけらかすかのように上半身裸だ。


 これは服を掴まれて投げられるのを警戒してだろうか?


「ようねえちゃん!こりゃあ寝技に持ち込まないとな!」


 タニスは無視した。


「開始!」


 男が踏み込んだ。


「寝技でオッパイを晒してやるぜ!!ほら行くぞぉ!」


 バキッ!


 タニスがいきなり大技の回し蹴りを表情を変える事なく決め、顎を打ちと言うか、蹴り抜いた。

 ヨダレを垂らしながらフラフラと3歩進み、そのまま前に倒れて行き、ロープに倒れ込むとくるっと1回転して外に出た。


「勝者、氷艶の魔眼所属タニス!」


 最後がネイリスだ。


 始めの号令の後・・・いきなりネイリスがナイフを投げると相手の脳天に当たり、そのまま後ろに倒れ、ガニ股でアニメの三下よろしくピクピクとなり結着した。

 武器を投げて勝つ奴がいたよ!しかも身内に。


 審判がカウントを取る。


「勝者、氷艶の魔眼所属ネイリス!」


 俺とメイヤ達には本来不要だが、一応ウルナさん達から1人ずつ付き人ととして来て貰っている。

 くじ引きの結果、ウルナさんはネイリスのお付きだ。

 俺の方にはニキビのある銀髪の可愛らしい12歳になったばかりの少女で名をケイリーという。

 勿論お金を払い、付き人をお願いしている。

 タオルと飲み物を持っているんだ。

 14歳以上のメンバーの中で2人子供達の面倒と取りまとめをする者が必須で、その役目もくじ引きだった。個人的には歳上のおねぇさんが良かったが、くじ引きにしたのは誰が俺の付き人をするかで揉めたからだ。


 付き人は2人まで認められており、先程執事と騎士が連れ出したように、万が一の時は、そんな事もしなくてはならない。

 何はともあれ初戦に関して皆、問題なく勝ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る