第4話 神託の儀

 いつの頃からだろうか?いつの間にか俺は普段からメイヤの事を異性として考え、時にその後姿を目で追っていた。

 メイヤの事を好いている!その気持ちに最近気が付いたのだ。

 今日まで怖くてメイヤの気持ちを聞けなかった。

 クソ貴族のドラ息子、優しくしてはいても、いずれ自分を凌辱するであろうクソ野郎等と思われているのではないか?と本心を確かめるのが怖かった。

 好きと言っても恋愛感情と言うよりも、彼女については妹のような感じで、家族に対する愛情に近い。

 感情移入し過ぎたんだ。


 最初はクソゲーの悲劇のヒロインに同情したりクソゲー設定に対する反感から、この娘をすくってシナリオライターにザマーするつもりでゲームをいどんだが、どう足掻いても無理だった。


 しかし、リアルは違う。

 多分俺が放逐される未来は違わなく、ゲームと違うのはゲーム開始はクソギフトを得てから追放されるところからだが、何年も前から既にリアルではゲームの舞台は動いている。


 ログインしてキャラメイキングの後に石像の前に手をかざす所からゲームのプロローグが始まる

 ギフトを得るとシーンが変わり、屋敷を追放される所になり、屋敷を出るとまたシーンが変わる。

 そして町を出たところからゲームがスタートするのだが、リアルはというと俺が5歳の時から既にスタートしている。


 つまり、追放された時に備える時間がかなりあった。


 現在ギフトを得る為に神殿へ向かう馬車に乗っており、この馬車には俺を含め4人が乗っている。


 俺とその隣にメイヤ。

 メイヤは同じ歳なので一緒にギフトを得る。

 しかし、ゲームでは開始早々に引き離され、何のギフトを得るのか知らない。

 俺とメイヤは後ろ向きに座り、前には父とその侍女のメイヤと共に買われてきた奴隷の少女が座る。


 名をハーニャと言い、父はこの薄幸美人の奴隷少女にぞっこんでずっと手を握っており気持ち悪い。

 俺もメイヤの手を握っているが、こちとら同い年だ。

 中身は違うが・・・

 それでも異性を見る感性は肉体年齢に準じていた。


 今朝告白して急ぎ荷造りをさせた。

 いつの日か生きて奴隷から解放してやると誓い、愛していると告げると彼女も愛していると言ってくれた。


 その場でキスをしてお互いの気持ちを確かめあった。

 彼女にこれから得たギフトの所為で放逐されるだろうと告げ、なぜ知っているかは後で話すとした。

 信じてついてきてくれと言うと、何も聞かずに信じて従うと言ってくれた。


 実は彼女の為の荷物は準備してあり、身1つで大丈夫だが先ずは第1関門をクリアしないとだ。

 ゲームでは何度やり直しても俺が屋敷を追い出される時に1度捕らえられ、メイヤと引き離される。

 何故かいる奴隷商がその場でメイヤの主人を弟に変えるんだよな・・・


 そうして神殿に着いたが、この1年の間に14歳となった子供達が既に集まっており、俺達は最後に中へ入る。


 最前列の両方の通路側を俺と弟がそれぞれ座り、メイヤと弟の奴隷たるタニスが横に座る。

 ハーニャはメイヤの隣だ。

 

 子供達の後方には親が座っているが、例外なく同行できるのは1人のみが許されている。


 父は神父の横に行きふんぞり返り、父が座ったのを皮切りにギフトを得る信託が開始される。


「・・・今日の良き日に皆の資質に見合ったギフトと、それに付随するスキルが得られるでしょう。これにて成人とし、1人の大人としてその力を十全に活かし、より良い生活、家族、想い人、町、そして国の発展に貢献せん事を祈ります。それでは領主様、迷える子らにお言葉を」


「儂が領主の・・・」


 長い挨拶が嫌いで昨晩短い挨拶を考えろと俺に言い、紙を広げて棒読みをしていた。

 挨拶は短かった。

 最低限領主の役目をしなくてはならないので、面倒くさいからか俺はその原稿を作らされたのだ。

 ハーニャが何を得るか知らないが、ハーニャが得たギフトを祝いたくてウズウズしているようだ。

 例年は参列しないが、実子がギフトを得る以上参列しない訳にはいかない。


 短い挨拶の後、後方に座る者から1人ずつ呼ばれ、神託を得る石像に触れる。

 すると皆の方に見える掲示板に何のギフトとスキルを得たのかが表示される。


 今年はこの神殿で神託を受けるのは45人だ。

 ギフト 【剣使い】 スキル 【剣術】

 ギフト 【水使い】 スキル 【水魔法】

 ギフト 【作成者】 スキル 【鍛冶】

と言った感じだ。


 弟が最後から2番目、俺が最後だ。

 メイヤの前はハーニャとタニスだ。


 メイヤの番が来た。

 緊張しているようだったので、大丈夫だよと背中を軽く叩いて送り出した。


 ギフト 【槍姫】 スキル 【身体能力向上】


 どよめきが起こる。

 通常貴族の子女にしか発現しないのと、今回これまでにギフトを授かった中で1番のレアだ。

 俺はサムズアップして頷いた。

 その次がハーニャで、無難?な非戦闘系のギフトだった。


 ハーニャ ギフト 【交渉者】 スキル【真言】


 タニスは珍しい鑑定持ちだが、ギフトの草って何だ??


 タニス ギフト 【草】 スキル【鑑定】 

 そして弟のキルカッツだ。

 父親の睨め付ける視線にビクビクしながら石像に触れる・・・

 次の瞬間大歓声が沸き起こり、流石は領主様のご子息だと感嘆の声が聞こえた。

 ゲームと同じならこいつは【剣聖】だ。

 スキルも回復の上級と剣術の神級だ。

 そして俺も見たがゲームと同じだ。


 そして俺の番だ。

 ざわめきが消え、メイヤに頷いてから堂々と石像に触れる・・・

 すると頭の中を何かが通り過ぎ、ギフトが頭に入ってきた事が分かる。


 問題はスキルだ。

 ゲームだとキャラメイキングをやり直す度に違うスキルになる。

 10個ほどのスキルの中の1つが選ばれていた。


 ギフト 【光】 スキル 【ライト】


 それが表示された瞬間ざわめきが大きくなり、父からバカなと聞こえた。


 しかし俺は違う。

 よしっ!と心の中でほくそ笑むが、顔には出さない。


 そして転生者特典でもう1つスキルが与えられているが、それは俺の頭の中でのみアナウンスが発生し、【レベルアップ】を得たが掲示板には【ライト】のみしか表示されなかった。


 【レベルアップ】を得たが実はこの世界にレベルなんて無い。

 いや、正確にはあるのだが見る術が知られていない為、レベルの概念がない。


 また、時折ギフトの光を取得する者がいるが、実際問題糞中の糞ギフトだ。

 レベルアップしないと話にならないが、【光】を得た時しか【レベルアップ】を得られなかった。

 また、例外なくプレイヤーは【女神の祝福】のギフトを生まれ持って持っている。

 

 但し、発現するのは信託の儀の時だ。

 本当に得られているのか正直ドキドキだったが、【レベルアップ】は【女神の祝福】の付随スキルだ。


「まさか領主様の後継ぎが部屋を照らすだけのライトとは・・・」


 等と落胆の声が聞こえた。


「流石は我が嫡男、剣聖とは!さあ今宵は祝言だ!」


 父がキルカッツに声を掛けたのが分かる。

 そしてキルカッツは俺にドヤ顔で詰ってきた。


「おいクズ、帰ったら兄様のギフトを祝えよ!」


 キルカッツがそんな事を言うが無視だ。

 今はそれどころではない。

 皆が混乱している間にやらねばならぬ事をやらないとだからだ。


 周りから見た俺は愕然としており、茫然自失となって立ち竦んでいるかのように見えるのだろうが、これからの事を考えてやらねばならぬ事をするのだった。

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