第2話 セルカッツの消失

 俺は生まれて間もない時から時折前世の事を思い出していた。

 

 数日前も夢と言う形で見た。

 初めて見たのは3歳の時だろうか?

 そして完全に井野口 孝志がこの世界に転生したと認識してこの体を支配したのは5歳の時だ。

 だが、5歳の段階では前世の記憶は完全ではない。


 事故が起こる前はバリラン王国の地方領主であるダイランド侯爵の嫡男であるセルカッツ=フォン=ダイランドの中にいた。

 外をぼんやり見ているだけで、寝ている時だけ少し体を動かす事ができるにとどまっていた

 俺の魂がセルカッツの体に同居していたのだと理解した。


 父親はテルカッツ。

 母親は先日亡くなった。

 地方から王都へ家族帯同で王族の結婚式に参列する為に出掛けており、その帰り道に俺達の乗った馬車が街道を進んでいる時に落石事故が起こった。


 俺はメイドでもある母親が同乗していたのと、他の使用人が一緒に乗っており、先を進む馬車には第1、2、3夫人とその子である兄達姉妹が一緒だった。


 だが、落石が2台の馬車を直撃し、馬がパニックになり暴走して崖へ向かってしまい落下。


 父親は他のメイドに入れ込み、俺と同い年の弟は父親と一緒の馬車だった為に難を逃れた。


 落下した馬車では俺だけ奇跡的に助かった。


 救助されるも事故から数日間昏睡状態だったそうだ。

 奇跡的に目覚めたものの、怪我の影響から数日間に渡り自力で立つ事が出来なかった。

 これまでと違い、何時間、翌日になっても体の支配権は俺にある。

 己の体をサーチしてみたが、セルカッツの魂は感じ取れなかった。

 多分だが、本来ならばセルカッツはあの事故で死んでいたのだろう。


 なんとなく前世でしていたゲームを思い出していたが、デジャブだ。


 ゲームの中では確か主人公は14歳で得たギフトがクソ判定され、屋敷を追い出されたと記憶している。

 しかも僅かな初級装備と小銭だけを持っているのみだった。

 因みに各プレイヤーは別の者が主人公となっているが、全て同じ時系列でのラージリオンオンラインの世界だ。


 何度かやり直す羽目になったクソゲーだった。

 ただ、グラフィックが流麗で、シナリオがクソゲーなだけで中々面白かったし、ムキになった。


 まだはっきりと思い出せないが、ゲームでの主人公の名前とこの体の本来の名前が一致する。

 幼少の頃に兄達や母親を事故で亡くしている設定も同じだ。

 ゲームと同じならセルカッツはかなりのイケメンだ。

 父親も顔だけは無駄に良い。


 確か前世の俺は事故で死に、自称女神に選択を迫られて転生を選んだ。

 色々と思う所はあるが、早々にデスエンドにはならないだろう。

しかし、悲しいイベントや辛い生活が待っていたはずだ。


 これから9年先、14歳でギフトを得られた時にクソギフトを得たと、父の怒りから廃嫡されて放逐される。

 後釜は1月違いの弟で、愚か者であるキルカッツだった。


 多分得られるギフトと、それに伴うスキルはもう決まっているからどうにもならない。

 放逐に備え、お金や必須アイテムを確保して隠したりしないとだ。


 そしてクソゲーと唸った最大の理由だけど、これから出会う従者になる同い年の女の子の事で主人公が放逐された直後に次男が寝取ったと言うか、犯されてその日の夜首を吊って自殺する事だ。

 強くなり迎えに来てその事実を知り怒りから、1度アンインストールしてやり直した位だ。


 また、基本的に14歳になりギフトとスキルを得るとそのギフトに応じた得意属性が判明する。

 その場で魔導具に手をかざして各属性のバランスを調べる。


 すると必ず1つはある得意属性がバランスを崩して飛び出しているので、その飛び出し具合から飛び出している項目の高さから属性の種類と魔力の強さが分かる。


 14歳でギフトを得るまで殆どの者は魔力を持たない。

 勿論例外はあるが、現れるのは10年に1度とからしい。


 で、主人公は得意属性がなく魔導具が動かなかったと記憶している。


 しかし、実際は全属性に適正があり、苦手がなく強度もどの属性も同じだったから特定の項目が飛び出さなかっただけのはずだ。


 今も魔力を感じ取れており、寝ていても出来る事があり気が付かれないように試している。


 弱い風を発生させて壁に放ったり、少量の水を発生させて床を濡らし、その上に小さな炎を飛ばしたりしていた。


 土は試す事ができなかったが、明かりを発生させ、黒い靄を発生させたりと簡単な魔法をサクッと出せる事が分かった。

 土は外に出た時だと思ったが、観葉植物の鉢が見えたので、その土に穴を開けて他を隆起させたりした。


 バレると色々厄介なので魔法を使うのはなるべく避け、人に知られないようにする事にした。

 幼少の頃に魔法が使えると分かった者は、危険分子として国に報告されたりして処刑され兼ねない。


 その昔神童と呼ばれた者がそうで、その者が10歳の頃に暴走して町を1つ吹き飛ばした記録があり、その時は討伐したそうだ。

 それからは同じ轍を踏まぬように国が管理しているのだ。


 だから1人の時にこっそりと訓練する必要がある。

 また、普段出来る事は魔力操作だ。

 体内に魔力を纏わせたり流して行く。

 身体能力が向上したりとメリットは多い。


 俺は動く事が可能になった後、嫡男として厳しく教育されて剣術や帝王学を仕込まれた。

 事故の後は俺が長男、5男だった1月違いの弟が次男だ。

 次男も一緒に教育を受けたが、全ての項目で俺に劣っていた・・・



 俺は時折小遣いを貰い町中に買い物や買い食いをしに言っていた。

 これは領主の息子として、市井の者の生活を知ったり金銭感覚を身に付ける為だと言われ、護衛を撒いては露店で買った食べ物にお金を使った振りをし、お金を少しずつ確保していった。


 買い物もランクを落として安い物を買ったりしてその差額を貯め、時折ランニングと称して町外れに行くと、誰も見ていない事を確認していつもの場所にお金などを埋めて行く。


 体のコントロールを得てからはそうやって追放される日に備えていった。


 セルカッツの記憶はあるが、事故の後は俺の性格が出てい来ている。

 それは事故により親しい者を亡くした悲しみから性格が変わったとされた。


 死んだ者には悪いが、小説で読んだ登場人物位の認識しかない。

 俺は数年の間、そうやって無難に過ごしていった。

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