異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されましたが本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

鍵弓

序章

第1話 プロローグ

 

 俺は現在、不思議な空間を漂っている。

 何だかよく分からないが、ふわふわとした感触があり、実際に見えている視界も上下しているようだ。


 俺の目の前には何かがいた。


 どうやら服装から俺の目の前に座っていたのは女性のようで、俺の位置からだと手に持っていた本か手帳のような物の為に顔が隠れていた。


 しかし、俺がその女性に気付いた途端に本がふっと消え、女性の顔が明らかになった



 そこにいたのは白いワンピースを着た生意気そうな美少女だ。

 その美しさはあり得ないほどだが、その存在自体がまるで非現実的なもののようだ。


 ほんのりしたピンク色の髪は神秘的なオーラのような何かを感じた。

 俺の存在に気が付いたのか、話し掛けてきた。


「私は女神テトラス。混乱していないで貴方の身に何が起ったのかを・・・思い出しなさい・・・」


 数秒間の沈黙の後、自分が死んだのだと思いだした・・・。


「貴方は死にました」


 俺は30歳のシステムエンジニアだ。


 井野口 孝志(いのぐち たかし)


 数年前から自社のサーバーの老朽化と、リプレイスの必要性について再三に渡り警告をして来たが、情報部門を軽視した経営陣が聞き入れる事はなかった。

 数年待たなければ予算は組めないから既存の物をなんとか工夫して延命しろと。

 しかし、破綻寸前のハードを無理やりソフト的に逃がす事で何とか稼働させて来たが、これ以上出来なくなっていた。

 

 ハードを一新するよう数年前から警告していたが、遂に危惧していたというか、警告していた原因でのシステムダウンが起こった。 

 社内ネットワークが繋がりにくくなり、丸1日以上業務が停止した。


 グループ会社を含め約3万人の業務が書類を使い、FAXも紙を流す前世代のやり方で急場を凌ぐ事になったはずだ。


 冗長性を持たせていたハードだが、よりによってこの数日の間に同じモジュールが3度も故障した。

 メーカーにもハードの在庫がなく、本来会社にあるはずの予備機はまだ修理から帰ってきていなかった。


 不具合を抱えたハードを使わざるを得ない為ログを追い、不具合箇所の特定と、ロジックを調べ上げて不具合箇所を切り離したり回避したりと急遽サーバーを稼働させる為のプログラムを無理矢理作りあげた。

 

 そして応急処置の為のプログラムが完成し、検証とテストを終えてシステムが全面復旧したのはサーバーがダウンしてから26時間程経過していた頃だった。

 社畜の俺は無茶な要請に逆らえず、不眠不休でやっていた。


 【超絶ブラックだ!

 もう辞めてやる!もう嫌だ!

 数年前から警告していたのに、ダウンが俺達システム屋の責任にさせられそうになったんだ!】


 ・・・酷いよな!?


 フラフラな状態で帰宅しようと帰路に就いていたが、交差点で信号待ちをしている所に・・・居眠り運転のトラックに突っ込まれ即死した。

 トラックに気が付いたがふらふらなのもあり、足がもつれて避けられなかった。


 思い出したのと、スプラッターになり自分が死んだ時の映像を見せられたりしたのもあり、俺は死んだんだなあ・・・と理解した。


「貴方には2つの選択肢があります。1つは何もせず通常死した者として輪廻転生の渦に飲まれ、魂が漂白されて別の魂として転生するか、私の求めに応じてこちらの指定する先に転生するかです。その場合は記憶を持ったまま転生する事が可能です。説明を聞きますか?」


「記憶をって、興味があります。もう少し詳しく聞きたいです」


 俺は異常事態だというのにこの女の言う事が真実なのだと信じ、応じる前提で話を聞いた。


 話はこうだ。

 俺がプレイしていたゲームは、死期の近い者でかつこれから行く世界で力を発揮できるポテンシャルを秘めた者が主に食いつくようになっており、これから行く世界の世界観をゲームにして歴史などを遊びながら学んだ。


 14歳前後で覚醒するが、それまでは前世の記憶が曖昧だとか。

 その世界の住人として生まれ変わる。

 魂が定着するのに通常は10〜14年掛かり、定着すると前世の記憶が蘇る。


 ゲーム通りで剣と魔法のファンタジー世界に行く。

 魔王が勢力を拡大し、魔王を討ち滅ぼす事がこの自称女神の願いで、何百人かを送り込みたいと言う。


 行き先はゲームの舞台となるラージリオン。

 タイトルもまんまラージリオンオンライン。

 仮想現実を舞台にしたいわゆるVRMMORPG。

 そこ、つまりラージリオンの世界では1年に1度、14歳になった者にギフトが与えられる。

 転生者には本来のラージリオンの住人では得られない特別なギフト等の特典を与える予定だという。


 「そうねぇ。特典のない者が魔王を討ち滅ぼす事は無理だから、何かしらの特典を与えちゃうね!うふふ!チートを期待しても良いわよ!それにねぇ、魔王が死んだら皆もう自由にしちゃうわよ!俺THUEEEしてハーレムを作り、ウハウハな異世界ライフを堪能しても良いのよ!そうそう、一夫多妻だからって身の丈に合わない女の子を囲うと痛い目に遭うけど、強い男はモテるわよ!女の子には優しくね!」


 よく分からないが、話していた事は受託しなければ完全な死が待っており、女の求めに応じて受託すれば別の世界に転生し、魔王なる者を討伐する。

 それと急に口調が生意気な女のそれに変わった。


 その後はチート能力を使い、ハーレムを築く事も可能だとか、まるで媚びるかのような内容で、男にとって都合のよい事を並べ立てていたな。

 

 とは言え、現実問題として、胡散臭かろうが、死んでしまった俺に最早選択の余地なんか有りはしない。

 女性との性的な事については風俗でしか経験がなく、素人童貞の俺にハーレムなんて言われてもなあ・・・


 年齢=彼女いない歴な俺にそんな話をしてどうすんだよ!


 まあ新たな世界でやり直しが出来るのは悪くはない。


「よく分からないが分かった。転生を受入れてやるよ。だが、ちゃんとチート能力と恋人になる運命の女性と出会えるようにしといてくれよ。そうだなぁ、まあ1人で良いからさ。出来れば金持ちの家が良いな。行ってやるから有り難く思えよ!」


 俺は強気に出る事にした。

 こんな手の込んだ事をするのだから困っているのだろう。


「あら行ってくれるのねぇ。勿論チートはあげるけどぉ、お前は私に向かって生意気よねぇ。お前以外にも同じ状況の人がいるのよぉ。だからお前は苦労すると良いわ。精々私の為に頑張って死なないように足掻きなさいね!じゃあ行ってらっさ〜い。プププ!」


 何がプププだよ!舐めやがって!しかも行ってらっさいだと!そんな事を心の中で毒づいた次の瞬間、俺の意識はブラックアウトした。




後書き失礼します。

新作の【忘却の艦隊】もよろしくお願いします!

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