The third〜三人目の最強〜

キウイ

第1話

『なあチビ、神っていると思うか?』


 手錠で身動きの取れない僕に、彼はそう問うた。血溜まりの中で。

 どう答えたらいいだろうのだろうか。


 一般的にこの世界では、エルフとドラゴンが神だと言われている。しかし、僕達人間にとって彼らは敵でしかなかった。

 だから居ないのかとも思ったが、ならば僕たちは何に対して祈るのだろうか。


 そう考えると、自ずと答えは見えてくる。


 ただそんな事よりも、僕は目の前にいる白髪の彼が気になった。僕をチビ呼ばわりする彼こそ、まだまだガキに見えるのだが……。


 ただ、彼の強さは本物だ。

 僕じゃ手も出せない獣人相手に、一発KOをカマシやがった。


 ここは、要らないことは聞かず、問いに答えることにしよう。

「そうだね、神はいると思うよ」


 彼は、僕の声を聞いてびっくりしたようだ。

『お前、女じゃなかったのか』


 いや待て、こちらはお前の身長が低くて歳上には見えないっていう地雷を回避してやったんだぞ?

 お前はバッチリ踏み抜いてくるじゃないか!


「ぐ……まあね」

 何とか抑えて相槌を打つと、白髪の彼はニヤリと笑った。

『そう、神はいるんだぜ』


 嬉しそうに微笑むなり、彼は語り出しそうな雰囲気を醸し出す。


「臭うな」


 僕がつい口に出すと、彼はくんくんと嗅ぎ始める。

 いや違う。そうじゃないんだ。


『なにか臭うか、鼻はいい方なんだが』

「すまない、忘れてくれ」


 なんて会話をしていると、階段の上から獣人たちが現れた。そう、言い忘れていたがここは奴隷を閉じこめる地下室なのだ。

 目の前にいる彼は、どこからともなく現れて門番を殺害した大罪人だ。


 大罪人でなくとも、人間に居場所はないのだが。


 つまり、こうなることは予想出来ていた訳で……。僕は声を大にして言いたい。

(いいからここから出せよ!)


 白髪の彼は、さも嬉しそうに獣人を狩る。少なくとも僕の目には見えない早業だ。

 恐らく手に持つナイフで切りつけているのだろうが、そんな威力じゃないんだよな……。


 四肢と胴体がバラバラじゃないか。


 獣人を全員切りつけ、また一つ大きな血の池を作って満足気な彼だが当初の目的を思い出したようだ。


『そういえば俺、パンケーキ買いに行くんだった』

 そう言って彼は階段を上がって行く。

「いやちょっと待てよ!」


 普通は僕を助けるところだろ!

 なんなんだコイツは調子狂う。


『あ、そっかそっか。すまねえ折角の生き残りだもんな』


 そう言って彼は鉄の牢を開ける。


『それにしても良く生きてるよな。お前心臓貫かれてんじゃん……』

 ああ、言い忘れていた。僕は呪いがかけられていて簡単には死ねないんだった。


「そうだね、でも君が来てなかったら死んでいたよ」

 ニヤリと笑って僕は立ち上がる。なんだ、やっぱりコイツ身長僕より低いじゃないか。


『見下ろしてんじゃねえ、早く行こうぜ』

 彼に手を出せば僕でも殺されかねない。ドードーと彼の怒りを鎮めながら、僕の腕を握り潰そうとする彼の手を、僕はもう片っぽの手で制した。


「こりゃ先が思いやられるな」

 牢の中も牢の外も、結局地獄だと言うことが分かった瞬間だった。



ーーーー



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