第2話

 この国は、南にあるエルフの国と、北にあるドラゴンの国に挟まれた中央国家アラドビアである。


 数千年前のこと。


 この地は戦火の中にあった。最強同士の争いに、木々は燃え、家々は軒並み倒れていった。

 そして遂には決着がつかず、現在は休戦状態となっているのだ。


 そして、アラドビアの中心には平和の象徴として、塔が建てられた。

 塔のてっぺんには平和の鐘を添えて。


「平和の鐘なんてバカバカしいとは思わないか?」


 どこを見渡しても奴隷、奴隷、奴隷。

 人間にはそれなりの生活も、人権も用意されていないのだ。


 多種多様な種族があつまる中央国家であるのに、だ。

 獣人も、エルフも、ドラゴンも、ドワーフも、ゴブリン達ですらこの国では争うことがない。


「なぜ人間だけ、支配されるんだ!」

「もちょもちょもちょ……弱いからだ」


 パンケーキを口いっぱいに頬張る彼は、ご満悦な表情で残酷な回答をする。


「お前は何もしないくせに偉そうに語るのな」

「なに、お前も同じ人間だろ? おかしいと思わないか?」

「俺はその辺の人間とは違う」


 そういう彼は立ち上がるなり、上着を着て店を出ていった。

(おい、ちょっと待て。支払いは!?)


 ニコリと笑う店員と目が合うが、ご生憎脱獄したばかりの僕にはお金なんてある訳ない。

 猛ダッシュに尽きた。後ろから大声で追いかけてくるコック帽。


(その長いコック帽が仇となったな!)


 僕からは居場所は分かるが、反対に向こうからは見えない。

 しかし、それは僕も同じことだった。居なくなった彼は、小さく見つけづらい。


「すまんすまん、折角拾ったのに置いていくところだった」

 背後からかけられる声にビクッとなり、振り返るとそこには彼がいた。


「お前、俺を殺す気か!?」

「だからすまんって。そういえば、お前名前なんて言うんだ?」


 唐突にそう聞かれるが、僕には名前なんてなかった。


「名前なんてない」

「そうか、じゃあ今日からお前はKだ」


 そう言うと、彼はふらりと歩き始めた。

「ちょっと待ってよ、君はなんて呼ぶんだ」


 うーんと悩んだ末に彼は「死神」と応えた。

 死神……どこかで聞いた事のある名だ。


 そこでペラリと一枚、羊皮紙が飛んできた。それは指名手配であった。

 指名手配されていたのは、「死神」という名の人間だった。


「って指名手配犯かよ!」


 はあ、とため息をつきながら僕は死神を追う。

 ここから、僕と死神のストーリーは始まるのであった。


ーーーー


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The third〜三人目の最強〜 キウイ @hajikerukiui

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