概略

魔法の概論と分類方法

 魔法とは魔力を用いて何らかの事象を発生させる現象あるいは方法を指す。

 ヴァーチャリア世界において魔法は古くからその存在を知られてはいるが、そのメカニズムや詳細について特につまびらかになってはいない。


 元々魔法は各地域で土着の神として信仰を集めているような一部の強大な精霊エレメンタル魔物モンスターなどが引き起こす超常的な現象、あるいは降臨者がメルクリウスによって与えられた精霊の加護によって行使する神通力として知られていた。

 降臨者たちはメルクリウスによる降臨術によって《レアル》からこの世界ヴァーチャリアに召喚される。召喚に応じ、大概は滅亡の危機に瀕した国、あるいは民族のもとへ降臨した降臨者は、メルクリウスより《レアル》の文明の力によって当該滅亡の危機にある国(または民族)を救うように依頼され、それと同時に強大な魔力と火、水、風、地、いずれかの属性の精霊を守護精霊として授けられる。それというのも《レアル》の優れた文明といえどもこの世界でそのまま使えるとは限らず、降臨者自身が、あるいは降臨者が持ち込む叡智えいちがこの世界に適応できるようにするためには、多少の精霊の加護なしには困難を極めるからであった。


 降臨者は《レアル》の叡智をもたらすとともに、守護精霊と共にその強大な魔法によって降臨した国や民族を大いにたすけ、その発展に大きく貢献したわけであるが、その魔力は降臨者に身を捧げた聖人・聖女らやその子孫たちにも受け継がれることとなった。

 話は少し脱線するが、特に聖人・聖女として結ばれなくとも、行動を共に活躍した者たちの中にも、その魔力を分け与えられた者もあったという。これはおそらく、野生の動物たちが魔物たちの魔力に当てられて魔獣化モンスタライズするのと同じ現象が人間(亜人や獣人を含む)に起きたものであろうと現在では考えられている。

 ともあれ、降臨者がこの世界に降臨し、活躍したことで、降臨者本人および、降臨者と近しく接した者たちの子孫の間にその強大な魔力が引き継がれ、魔法を行使できる人間が大いに増えることとなった。そして彼らはそうした魔力ゆえに、それぞれの国で貴族的な地位を獲得するに至っている。現在では彼らを総称して聖貴族コンセクラトゥムなどと呼ばれている。

 聖貴族は代を重ねるにつれて血が薄くなり、魔力も減じている。魔力が弱くなりすぎた事に加え政争に敗れるなどして没落し、平民に身をやつす者も少なくないが、そういった子孫の血を引くと思われている者たちの中に、時折隔世遺伝かくせいいでん的に魔力に優れた人物が誕生することもある。ただし、血が薄くなって魔力が減じた聖貴族、あるいは隔世遺伝的に誕生した魔力に優れた人物は、大抵の場合魔力が少なすぎて魔法を行使できないことが多く、精霊の存在を感じたり稀に意思の疎通が出来たりするのがせいぜいで、多くの場合は神官となって最寄りの神殿等に入り、神として信仰を集める土着の精霊に奉仕する生活を送ることになる。


 ある時期までの魔法と言えば精霊魔法(属性魔法ともいう)であった。守護精霊に対して魔力を献じ、それによって精霊が超常の現象を引き起こすというものである。守護精霊は降臨者本人にしか憑いてはいなかったが、降臨者から魔力を引き継いだ聖人・聖女や子孫たちは守護精霊と同じ属性の精霊に対して高い親和性を示し、降臨者が用いたのと同じ属性の魔法を得意としていた。

 多くの聖貴族は魔力の強い他の聖貴族との間で政略結婚を重ね、一族の魔力を保持するようになったが、それは魔力の保持そのものには繋がっても、先祖が持っていた特定の属性の精霊に対する親和性を減じてしまうことも少なくなかった。魔法の効果は魔力の強さとともに精霊との親和性が強く影響する。精霊との親和性が高ければ少ない魔力でも高い効果を発揮できるが、精霊との親和性が無いとどれだけ魔力を献じても効果は期待できない。それどころか魔法が発動しないことも珍しくはない。

 このため、聖貴族の中には強い魔力を保持しながら、魔法が苦手という者も少なくはなく、そういった人物は時代が下るにつれて増える傾向にある。


 そうした状況に大きな変化を齎したのがゲイマーガメルの降臨であった。ゲイマーはそれまでの降臨者たちと異なり、メルクリウスから魔力を貰う前から既に高い魔力と身体能力を持ち、守護精霊の属性とは関係なしに魔法を行使できたのである。さらにそれまで火・水・風・地の四属性しかなかった魔法に氷属性、雷属性、光属性、闇属性、聖属性、死属性などといった新たな属性の魔法を加え、更にどの属性にも含まれない無属性魔法や、魔力に頼らず超常的現象を引き起こす「スキル」と呼ばれるものもヴァーチャリア世界に齎した。

 これら新属性魔法は極めて画期的であった。それまで魔法と言えば火、水、風、地のいずれかの精霊に魔力を献じて行使するものであったのに、その枠組みに当てはまらないものであったからである。


 もっとも、従来の属性魔法であっても一つの魔法が必ずどれか特定の精霊でなければ行使できないとは限らない事例もあった。たとえば「砂嵐サンド・ストーム」という魔法は文字通り砂嵐を引き起こす魔法だが、《風の精霊ウインド・エレメンタル》でも《地の精霊アース・エレメンタル》でも全く同じ現象を引き起こすことが出来た。《風の精霊》は風の力によって砂を飛ばし砂嵐を引き起こすが、《地の精霊》は砂粒を飛ばして風を巻き起こし砂嵐を発生させるといった具合である。もちろん、《地の精霊》と《風の精霊》の両方と親和性を持つ魔法使いが魔法を行使した場合、《地の精霊》と《風の精霊》の両方の力を同時に借りることでより強力な「砂嵐」を引き起こすというような事例もある。

 ただ、このように特定の属性の精霊でなくとも引き起こせる魔法や、複数の異なる属性の精霊の強力によって発動する魔法などは存在していたが、いずれにせよ精霊の力を借りねばならないという点では変わりなかった。しかし、新魔法は必ずしも精霊の力を借りているとは限らなかったのである。


 たとえば光魔法などだが、光属性の精霊などというものは存在が確認されていない。降臨者の中には《光の精霊ライト・エレメンタル》の存在を示唆する発言をした者もいたが、少なくともヴァーチャリア人の中に《光の精霊》の存在を知覚でいたという記録は残されていない。氷も雷も闇も聖も死も同様で、その属性をつかさどる精霊というものが存在しない(少なくとも観測されていない)のである。これは精霊に頼らなくても超常の現象を引き起こすことが可能であることを証明していた。事実、「無属性魔法」などと言うものは如何いかなる精霊の力も借りていない。

 ただ、氷属性魔法は《風の精霊》や《水の精霊ウォーター・エレメンタル》でも同じ現象を引き起こせたし、雷属性魔法も《風の精霊》が再現可能であった。このため、現在では魔法分類学上、氷属性魔法は水属性に、雷属性魔法は風属性に統合されている。更に光属性と聖属性、闇属性と死属性がそれぞれ性質が近いことから統合されて分類整理されるようになっている。


 現状、ムセイオンを中心とするヴァーチャリアの研究者たちの間では魔法は従来の火属性、水属性、地属性、風属性、そして新属性である光/聖属性、闇/死属性と、無属性に大きく分類されるのが基本となっている。

 従来の火・水・地・風の四つの属性は四大属性とまとめて称されることもあるが、これらの魔法はヴァーチャリア世界において古くから定着しており、研究もかなり進んでいる。ヴァーチャリア世界で複製に成功した魔導具マジック・アイテムも多くがこれら四大属性の魔法に属するものがほとんどであり、魔力の弱い聖貴族や神官であっても魔法修得を可能とする魔法の巻物マジック・スクロールはそのすべてが精霊魔法だ。

 これに対し新属性および無属性魔法はゲーマーの血を引く聖貴族の中でも一部しか行使できないものである。その一部のゲーマーの血を引く聖貴族の中に遺伝的に修得しており、ある程度成長したところで発現し行使できるようになる者も存在することは存在するがごく少数であり、大部分は親ののこした魔導具を使うことで行使できる程度だ。つまり魔法を分析し研究しようにも、まず観測の機会が限られてしまう。さらにこれらの魔法は精霊の協力を必要としないため、観測や分析の際にも精霊魔法の時と違って精霊たちの協力を得られないという問題が生じる。

 よって、新属性魔法や無属性魔法は存在は確認されてはいるが観測や分析の機会も手段も限られており、研究がほとんど進んでいないのが実情である。当然だが、新属性魔法や無属性魔法の魔導具の複製に成功した例は確認されていない。


 また、同様に「スキル」も全く研究が進んでいない分野だ。ゲーマーの中には「スキル」と呼称される能力を行使することで超常的な現象を引き起こすことが出来た。

 よく知られる例ではゲーマーが薬草からヒール・ポーションを創り出すスキルである。この時、道具を必要とするゲーマーも居たが道具を必要としないゲーマーもいた。また、出来上がったヒール・ポーションはガラス瓶に納められた形で完成することが多かったが、ガラス瓶はゲーマーが持っていたわけでもないし、かといって素材の中にガラス瓶の原材料となり得る物は存在しない。つまり無から有を創り出したことになる。だが不思議なことにゲーマーがガラス瓶だけを創り出せるかというと出来ないことの方が多かったようだ。

 また、別の事例では肉を一瞬でコンフィという料理に仕立て上げる例も確認されている。コンフィとは肉を低温の油や獣脂で長時間じっくりと煮ることに特徴がある料理だ。低温の油で煮られた肉は、油から出して空気に触れさせなければそのまま一週間以上保存することが出来、実際に食べる時は油から出してフライパンでソテーする。出来上がった料理の見た目は普通のソテーと変わらないが、時間をかけて油で煮た時点で既に火は入っているので焼き色がつくまで普通に焼くだけで柔らかく仕上がる。この料理の最大の肝は油で低温でじっくりと煮込むことだ。そのために八十℃くらいの温度を二時間程度は保ち続けねばならず、大変な手間がかかる。が、スキルで作るとそれが一瞬で出来上がってしまう。しかもスキルでコンフィを作る際、必要な素材は肉のみであったり、肉と油だけであったり、あるいは肉と香草ハーブだけが必要であったりするが、味付けに必要なはずの調味料の類は用いられない。おまけにヒール・ポーションと同様、皿に盛りつけられた状態で完成するが素材の中に皿も皿を作るための原材料も存在していない。

 スキル……特に創造系のスキルは足らない素材を補う形で無から有を創り出すことができるらしい。さらに、本来必要な手間や時間を省略してしまうことが出来る。それは極めて魔法的な不可思議さ、あるいは理不尽さを内包しているが、そのスキルを行使するために魔力は必要ないという。これらのことから「スキル」は魔法とは全く別系統の存在であると考えられており、研究者たちの興味は尽きることを知らないが、しかしその実態は全くの謎に包まれており研究は新属性魔法や無属性魔法の研究ほどすら進んでいないのが実情だ。


 以上、未解明の部分の多い魔法およびスキルであるが、ヴァーチャリア世界における最高学府たるムセイオンにおいて把握されている魔法およびスキルについて、本書は以下のごとく簡易的にまとめ紹介するものである。

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