1.破壊神 零歳
この世界に人として生まれて三日。我はただただ、ミルクという食べ物を飲み、尿や便というものを排泄し、ベットという寝床で眠るのみ。
はじめて排泄したときは、その行為を制御できぬ怒りと、なぜか始末してもらっているときに恥辱を感じた。
神であったときには、湧いたこともない感情。人となったからだろうか。まわりにいる人々を見るとなんと感情豊かなのだろう。
これが、感情をつかさどる神々の創りしものか。
その後もたいして変わらぬ日々。退屈なので家のものたちの会話に耳をすませる。
どうやら、この家は王国と呼ばれる国に所属する貴族の家らしい。男爵という階級で、辺境に近い小さな領土のようだ。
我の父にあたる男爵は、我が産まれてすぐに、辺境近くの土地に現われた魔獣を退治しに行った。
我は、男爵家の四男。上に三人の兄がいる。たまに、我の様子を見にきていた。
聞こえてくるのは他愛もないことばかり。結局は、天界にいたときと同じ、たいくつな日々ではないか。
ちがうことは、ミルクはおいしいし、寝ると気持ちいい。母が訪ねてきたら嬉しいし、メイドが世話をしてくれるのも嬉しい。と、いったことだ。
いや、よく考えると天界の日々とはぜんぜんちがうな。
こんなにも他者とは関わらなかった。
最近では、あの愛の神ラヴが話しかけてきたが、それ以外で話したものなど誰かいたか。
「なになに?破壊神ちゃんてば、さびしくなってワタシのこと思い出しちゃってたの。うれしいわね」
急に目の前に、羽のはえた幼児があらわれた。顔はラヴの面影があるだろうか。元の姿と違い過ぎるがまちがいなく、愛の神ラヴである。
「どーお?この天使ちゃんボディ。なかなか、かわいいでしょ」
(それを聞いてどうする。どんな答えが望みなのだ)
「どう思われているか気になるものなのよ」
心で思ったことが伝わっている。さすが、心の神の一柱ということか。
我はまだ話すことができぬので助かる。
(我をこの人の身から開放せよ!)
「だーめ。まだ生まれたばかりじゃない。まだまだワタシたちの世界を楽しんでもらわないと」
(いつ楽しくなる?どう行動するのが正解なのだ)
「それは、アナタし、だ、い。選択することも楽しいものよ。じゃ、またくるわね。バイバーイ」
天使の姿はサッと消えた。
のこされた我は先程のラヴについて考えた。
(わざわざ、天使の身になって我のもとにきた。なにかおこるのか。意味があるはず)
しかし、その後もとくに変わることのない日々が続いたのであった。
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