プロローグ
破壊神ディスは、今日もヒマそうに天界から地上を見下ろしていた。
天界。神々の住まう場所。雲の上にあるように見みえるが、そうではない別次元の場所。
神々は、ここから創造神が造りあげた世界に手を加え、発展させる。
例えば、火の神が創った、火から生みだされた火の精霊。火の玉のような精霊は、世界を暖め、燃やす。
水の神が創った、水から生みだされた水の精霊。水の玉のような精霊は、世界を潤し、沈める。
土の神が創った、地面から生みだされた土の精霊。石のような精霊は、大地を耕し、崩す。
風の神が創った、風から生みだされた風の精霊。空気のかたまりのような精霊は、空気を動かし、吹き飛ばす。
生き物の神々が創った、様々な動物は世界に満ちた。
そして、様々な神が力をあわせて創った、可能性の獣、人。
人は、世界の中心となり、世界に文明を築く。
地上を見下ろしていた破壊神はちまちまと動くそれらを不思議そうに眺めていた。
(結局、どんなに苦労して作っても最後には我が壊して終わるだけ。なんの意味があるのだろうか)
つまらなそうな目で、国と呼ばれている場所を見て考える。
(終焉の時は近い。どう壊そうか)
自分のすべきこと、世界の破壊について考えをめぐらせていると、後ろから声をかけられた。
「あっら〜。ディスちゃんは世界に興味深々?」
軽薄な喋り方をするこの者は、愛の神ラヴ。
対応しているのが、心という箇所なので普段から何をしているのかよくわからない神だ。
大柄な体に薄い布を少しだけ巻き付けたような奇抜な姿をしている。
「もちろんだ。我が主命、今少しなのだから」
ラヴは、我の答えを聞くと薄く笑い。挑発してきた。
「そうねえ。アナタは皆が世界を創っているなか、とても退屈そうにしていたものね。アナタって本当に神なのかしら?」
最近は、ずっとこの調子である。終末の日が迫るようになると我に話しかけ、あざ笑う。
「怒った?ならその名のとおり、ワタシを破壊してみたら?できないのよね、名ばかりの破壊神さん。あなたが力をふるえるのは終末の日、その瞬間だけ」
ラヴは、大声で笑った。
「なんてかわいそうなのかしら」
ひとしきり笑ったあと、真剣な顔になりこちらを向く。
「でね、ワタシ考えたのよ。アナタには世界を壊す前に、ワタシたちが創った世界を楽しんでもらおうって。ね!ミンナ〜!!」
ラヴが声をかけると、様々な神があらわれた。
「そうだ」、「楽しんでくれ」、「私が創ったものは楽しいぞ」、「私のほうがすばらしい」、「あれは良いものだ」
神々は、自分の創ったものをアピールしている。
(どうせ、もう少しであとかたもなく壊れるものではないか。なにをどう楽しむというのか)
「じゃあ、ミンナ!やるわよ〜。いっせーの、せ!!」
神々たちは我を囲んで力を浴びせる。
その強大な力にあらがえず、意識を失った。
「おぎゃー、おぎゃー」
(これは、泣声か。でているのは、いやだしているのは我だと!)
気が付いたとき、我は妙齢の女に抱きかかえられていた。
「奥様、お疲れ様でした。旦那様、元気な男の子ですよ」
女はそばにいた男に我をみせるようにする。
「そうだな。おや、泣きやんだぞ。これは、強い子に育つかもしれない」
男は楽しそうに笑い、それに続き部屋にいた者たち、みんなが笑う。
我は、ちいさな手を動かして、自分の体の感覚を確かめる。
何の力もない、弱い存在だ。
神々は、我を人に転生させたのだ。この弱き存在でなにをどう楽しめば良いのか。
我ははじめて絶望という感情を知った。
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