ここれさん
青生ケイコ
かためが好きなの
ここれさんは月曜日にはとても大事な予定があります。
その前の日曜日には「よし、明日は」とはりきって眠りますが、いつも予定の時間は未定です。
「ここれさん、ランチへ行きませんか。」
「ごめんなさい、今から予定があって。
少し待っていただけるなら、大丈夫ですけど。」
「どのくらいかかりますか。」
「ううん、じゅうごふん。」
ここれさんはお気に入りのマフラーをつけて、マンションの階段をおります。
出かけるときにエレベーターは使いません。
少し歩いて、大きな横断歩道を一つ渡った先の小さなお店へ入ります。
「八百屋です」とクセのない綺麗な文字で書かれた看板が目印の、宇宙船ほどの広さしかないお店です。
ここれさんは一番奥にある手作りプリンを一つ手にとってレジへ持っていきます。
月曜日に近所の八百屋さんで200円のかためプリンを買う。
これがここれさんの毎週の大事な予定です。
ここれさんはいつもプリンをすぐには食べず、お守りのように大事に冷蔵庫に置いておくようにしています。
すると、心が萎みそうになっても「わたしの冷蔵庫にはあのプリンがある」ということがここれさんにパワーをくれるのです。
だけどプリンを冷蔵庫に何日か大事にしまっていると、たまに不安になります。
このプリンに賞味期限はあるのかしら。
そうして次の月曜日に八百屋さんへ行ったとき、ここれさんはレジのお姉さんに聞いてしまいそうになるのを、ぐっと堪えます。
自分に高揚感を与えてくれる、このプリンの幻想的な魅力に水を差すようなことはしてはいけないのだと。
賞味期限というこの世で一番夢のない数字を聞いちゃった日には、このプリンのかたさがみるみるうちに消えてしまうのだ。
そして、ゆるゆる、とろとろ、スプーンから溢れて、自分共々崩れていくに違いない。
ここれさんは賞味期限を気にしてプリンを食べる生活を、一応、想像してみました。
なんと息苦しいことか。
幸せがためのかためプリン。
プリンに地に足をつけさせる必要はないのだと、ここれさんは大きくうなずきます。
だって賞味期限が過ぎてしまったところで、ここれさんのお腹がちょっと痛くなるだけですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます