第112話 おじさん、鈍すぎて美少女にキレられる。

 ♪テ~レレ~~テ~レレ~~テ~レ~~テ~レ~テ~~~~♪

『まもなく……なくなく…………カーバンクルランドは……ドはドは…………閉園いたします……ます……ます…………』


 午後5時半、どことなく間延びしたような『遠き山に日は落ちて』が響く中、ハウリング効きまくりの丙田ひのえだの声がこだまする。

 カーバンクルは、すでに30分ほどまえに獣舎へと帰っていき、ダンジョンの閉園も午後5時。殆どの客はすでにカーバンクルランドを後にして、残るはおみやげコーナーにいる客だけだ。


 はあ、つかれた。めちゃくちゃ疲れた。ぶっちゃけダンジョンでの模擬戦より疲れた気がする。若い女性には悲鳴をあげられるは、子供にはギャン泣きされるはでさんざんだった。俺はつくづく接客には向いてない。


 閉園まではあと30分ほどあるが、6時にここを出れば、ちょうど成田空港への便に間に合う。俺は、ロカとヒサメに声をかける。


「ロカ、ヒサメ、俺たちはひと足お先に上がらせてもらおう。そろそろ準備をしないと飛行機に遅れるぞ」

「はぁい!」

「ブヒブヒ♪」

「やん、はっちゃんくすぐったいって!」


 客が少なくなり、ヒマを持て余してケルベロスのハッちゃんたちとじゃれ合っているロカが返事をするも、ヒサメからの返事がない。


「ヒサメどうした? お前も帰るんだろう?」

「えっと……私は……朝の便で帰るから……」

「泊まるってことか? 宿は予約してるのか? 今日は休日だ。いきなりで予約を取れるのか?」

「え……ええっと……私はカーバンクルランドに泊まるから?」


 俺が質問をすると、ヒサメはなんとも歯切れが悪い返事をする。


「おいおい、いくらなんでもいきなり来て泊まらせてくれは失礼だろう。なぁ、かぞえくん」


 何故かヒサメのすぐとなりに寄り添っているかぞえくんに同意をもとめるが、


「え? べ、べつに、俺はかまいませんよ??」


 と、かぞえくんもなんだか歯切れの悪い返事をする。

 ん? どういうことだ??


 俺が首をかしげていると、ハッちゃんたちとじゃれあっていたロカが、俺の着ているオーバーオールのすそを引っ張て、ヒサメとかぞえくんから距離をとる。

 その表情は、あきれ顔というか、こまり顔というか……とにかく、なんとも微妙な表情で声をひそめて話し始めた。


「あのさ、おじさん(ヒソヒソ)。ひょっとして、まだわかんないの?(ヒソヒソ)」

「?? なにがだ??(ヒソヒソ)」


 俺はロカに合わせて声をひそめて返答をすると、ロカは「はぁーーー」と大きなため息をついて手のひらで手をおおう。

 ん? どういうことだ??


「ヒサメさんと、数人かずと……かぞえさんのことだよ!(ヒソヒソ)」

「??? ヒサメさんと、かぞえくんがどうしたんだ??(ヒソヒソ)」


 ???? 全く意味がわからない。

 ロカは、俺をにらみつけながら、でも極力、声をひそめてまくしたてる。


「あのふたり、付き合ってんだよ! 今日一日、ヒサメさんの行動をみて、気がつかなかった??(ヒソヒソ)」

「え!? そうなの……むぐぐぐ」


 思わぬ事実の発覚に大声をもらすが、すばやくロカが俺の口をふさぎにかかる。


「とにかく、そーゆーわけだから!!(ヒソヒソ) ヒサメさんはきょうは、カーバンクルランドのかぞえさんのお部屋にお泊り!!(ヒソヒソ) アタシたちだけで帰るの!!(ヒソヒソ)」

「そうかそうか!!(ヒソヒソ) それはよかった!!(ヒソヒソ) ヒサメのやつ、色恋の話とは全く縁がなかったからな。正直、心配をしてたんだよ(ヒソヒソ) いや~本当によかった、よーーかったーー(ヒソヒソ)」


 俺は、義理の妹にようやく訪れた春に感慨にふけっていると、ロカはとたんに険しい表情をする。


「あっきれた!!(ヒソヒソ) おじさんって、ほんんっと鈍いんだから!!!(ヒソヒソ)」


 ん? どういうことだ??

 サッパリ意味がわからない。


「ホラホラおじさん。帰る準備をするよ! モタモタしてたら飛行機に乗り遅れちゃう!!」

「?? お、おい! ロカ!! まってくれよ!!」


 俺はプリプリと怒りながら、早足で宿舎に向かうロカを追いかけると、手早く着替えて、ロカといっしょにカーバンクルランドを後にした。

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