第105話 おじさん探索メンバーのスカウトを始める。

*ここからふたたびおじさん目線のお話です。


「以上で、裏鬼門うらきもんのダンジョン特別警戒発令、緊急会見を終了いたします」


 ざわざわ……ざわざわ……。


 司会が終了の声をあげると、会場は途端にざわめきにつつまれる。 


 電話をかける新聞記者と思われる人物、ものすごい勢いでキーボードを叩きまくっているテレビの記者と思われる人物、大急ぎで撤収作業にとりかかるカメラマン。

 とにかくだ。このスクープのおかげで、大急ぎで紙面や番組の変更を余儀なくされた報道陣は大慌てだ。


 俺は、故泉こいずみ大臣と鶴峯つるみねにならって席を立つと、一礼をしてから会場をあとにする。

 会場から出てから開口一番、故泉こいずみ大臣が口をひらいた。


「さて、私はこれから派閥の裏金問題の集会に参加します。

 つまり、国民に対して裏金問題をどうごまかすかを考える集会です」

「先生、お忙しいなかありがとうございました」


 故泉こいずみ大臣の言葉にすかさず鶴峯つるみねが感謝を口にしつつ、流れるようにエレベーターの「▼」ボタンを押していた。


「では、これで、私は失礼します。つまり、あとは、全て局長に一任します」

「お任せください、先生にお手をかける事態には決していたしませんので」


 チーン


 エレベーターが到着すると、俺は、鶴峯つるみねの見様見真似で故泉こいずみ大臣にお礼をする。

 故泉こいずみ大臣は、慌ただしく駆け寄った秘書と話しながらエレベーターの中に入ると、


「では、よろしくお願いします」


 と言い残して、エレベーターの中に吸い込まれていった。


 エレベーターが閉じると、鶴峯つるみねは、ワイシャツにくくりつけたネクタイを窮屈そうに緩めながら、俺に話しかけてくる。


「さて。故泉こいずみ大臣から許可をもらったことだし、さっそくメンバーの人選にとりかかってくれ。勧誘と諸々の交渉はこちらでやるから、田戸蔵たどくらは欲しい人材を教えてくれるだけでいい。

 お前のことだ、既にメンバーは決まっているのだろう?」


 鶴峯つるみねの言葉に、俺はうなづくも渋い顔をする。


「確かに、ほぼほぼ決まっているんだが、ひとり、お前では絶対に説得ができないメンバーがいてな」


 俺の言葉に、鶴峯つるみねは心当たりがあったのだろう。すぐに苦笑いをした。


「なるほど、カーバンクルランドの跳ねっ返りか。確かにボクではお手上げだな」

「相手がケルベロスとなれば、盾役は最低でも3人は必要だ。丙田ひのえだは絶対に外せない。とはいえ、あいつの説得は俺でも骨が折れそうだ。直接合って交渉をしてくるよ」


 ・

 ・

 ・


 翌日、俺は朝早く起きて、W県S市行きのジェット機に乗った。


「久々にハッちゃんたちに会えるの楽しみー♪」

「ずいぶん大きくなったわよ、体重なんて50キロ超えちゃったんだから。私より重いんだもん」

「ええ!? ヒサメさん、体重50キロないの!? すごーい! シンデララ体型!!」


 ふたりがけの席の後ろから、かしましい声が聞こえてくる。なぜか丙田ひのえだの説得についてきた、ロカとヒサメだ。

 俺は、振り向いてシートの間からふたりをにらみつける。


「ロカ、お前、受験生だろう。学校はどうしたんだ?? ヒサメも仕事が忙しいんじゃないのか??」

「ヘイキヘイキ、アタシはもう大学決まってるから! 幼稚園からのエスカレート!」

「私は仕事よ。カーバンクルランドで稼働しているお手伝いロボット『クマメン』の、商品化に向けての定例会議があるから」

「本当か?」


 俺はいぶかしげにふたりを見る。


「どうせ、理由をつけて、ケルベロスの子供に会いたいだけじゃないのか?」

「「そうでーす♪」」

「だろうと思ったよ」


 もっとも、ケルベロスの子供目当てなのはロカとヒサメだけじゃない。俺だってそうだ。


 うしとらのダンジョンの主が産んだ双子のケルベロスのうち1匹が、カーバンクルランドの職員に飼育されているという。

 事前にそのケルベロスを視察することで、裏鬼門うらきもんの主になったであろう、ケルベロスの対策を練ることができるかもしれない。


 脳裏に、ササメと3人の赤ん坊の顔がよぎる。


 この任務を無事に遂行するため、出来ることは、できるだけ準備をしておきたい。無事、家族のもとに帰るために。


 やれやれ、15年前にくらべて、随分と慎重な性格になったものだな。

 俺は自嘲めいた笑みを浮かべながら機内サービスのオレンジジュースをひと飲みすると、眼下の富士山をながめた。

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