第94話 幕間劇。あるカップルの惨劇。*残酷描写あり

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作者注:この回に限り『残酷描写あり』となります。

苦手な人は読み飛ばしてください!!

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 赤茶けた崖がいくつも切り立った荒野に、ふたりの男女がいた。

 カップルだろうか。おそろいのジャージとシェールカーボン製のショートソードを腰にぶら下げている。

 これから、ダンジョン配信を行うのだろう。ふたりの2メートルほど眼前には、浮遊型のAIカメラが置かれてある。


「たっくん、緊張するね❤︎」

「大丈夫だよマリたん! 俺がばっちしリードするから❤︎」

「うん、たっくん頼りになるぅ❤︎」


 ふたりは、ひととおりいちゃつくと、たっくんと呼ばれた青年は、浮遊型AIカメラのリモコンのスイッチを押した。

 カメラは、音もなく浮遊すると、「10ビョウマエ! 9……8……7……」と機械的なカウントダウンをはじめる。

 ふたりの男女は、手をにつないだまま大きく深呼吸をすると「0」の機械的な音声と共に、やたらとテンションの高い口調でしゃべり始めた。


「たかしとぉ……」

「マリの!!」

「「たかマリィィィィチャンネルー!!」

「さあ、記念すべき第1回! 俺たちは今、うしとらのダンジョンの第7層に来ています!!」

「ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!」

「観てください、この広大な大自然! グランドキャニオンも真っ青です」

「たっくん、わたし、ここがダンジョンの中だとは信じられないよぉ!!」

「それじゃあ、早速を探索をはじめましょう!!」

 

 ふたりの男女は、いちゃつきながら、ダンジョンの探索を始める。

 が、いけどもいけどもモンスターの影も形も見えない状態だ。


「うーん、やっぱりウワサはホントーですねぇ!!」

「まったくモンスターがでてきましぇーん!!」

「近場なのでうしとらのダンジョンにしましたが、完全に当てが外れちゃいました! 次は遠征をしていぬいのダンジョンを……」

「ねえ! たっくん、あれ見て!!」


 女性の指さした方向に、一匹の犬らしき獣がいる。体長は1メートルくらいで、筋肉質でえらくガタイがいい。へちゃむくれの顔と、ピンとたった大きな耳、黒毛に胸元が白い毛で覆われており、パッと見は大きなブルドッグ、いや立ち耳だから巨大なフレンチブルドッグだろうか。

 いずれにしても、その犬らしき獣は、大きなあくびをして腰をおろし、荒野でまどろんでいた。


「お♪ エモノはけーん!! これから殺っちゃいたいと思いまーす♪♪」


 男は、意気揚々と腰に村下げたショートソードを外し、獣に向かって走り出す。


「ちょっとちょっと……たっくん大丈夫? あんなモンスター、うしとらのダンジョン攻略サイトに載っていないけど??」


 女は、男の背中に不安そうに声もかけるも、


「へーきへーき、こんなトロそうなヤツに負けるわけねーっての!

 それに新種のモンスターとなればスクープじゃないか!!

 チャンネル登録者アップの大チャンスさ!!」


 男は意気揚々と、フレンチブルドッグ型の獣にショートソードを振り下ろす。獣は、警戒感をみじんとみせず、ボケーとした顔でその様子をながめている。


 ぼぎゃん!!


 鈍い音がして、男と獣が衝突する。


「ん? アイツ、どこいった。いきなり素早い動き見せやがって!

 ん?? マリたん、どうしたのそんな驚いた顔して?

 ん??? てか、マリたんなんで逆さまになってんの??」

「はぁはぁはぁ……ひ……ひぃ……ぃぃ」


 女は、地べたにへたりこむ。腰が抜けたのだ。そして足元の乾燥した地面が、ジワジワと湿っていく。恐怖による失禁だった。


 無理もない。


 男の身体が、獣に土手っ腹を背骨もろとも食いちぎられ180度回転をして、ブランブランとぶらさがっているのだから。


 ぶちぃ。


 鈍い音がして、男の上半身が地面に転がる。


「ん? 誰だこいつ?? 俺の前に立ちふさがりやがって……ゴホッゴホッ……」


 咳き込んだ男は口をぬぐう。その手はどす黒く染まる。血だ。


「……ゴホッゴホッ……テメエ! 俺に何しやがった? ん?

 この足、ひょっとして俺の!?

 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 


 バリバリ! ゴリ! ボリボリィ!


 獣は、身体が両断された男を鋭い牙で噛みちぎり貪り食っていく。その食い意地はまるで頭が分身しているよう……いや、現実に3つに増えていた。


 ケルベロスだ。


「……ひ……ひぃ……ぃぃ……お、おエエエ!!」


 女はその惨状に、顔を青ざめ汚物をぶちまける。

 早く逃げないと! だが足はすくみ動かない。絶望のなか、ただただケルベロスの胃に収まるのを待っていた。

 


 ・

 ・

 ・


「うはw こりゃ酷いww」


 数百メートルほど離れた崖の上で、双眼鏡を持ち、にちゃりと下品な笑みをこぼす男がいた。

 男の名前は逆村さかむら、ケルベロスの飼い主だ。


「うはw きったねぇww あの女、小便たらしてゲロはいてやがるwww

 ざまぁww せいぜいわめけ、だれもこないけどwwww」


 逆村さかむらは、女がケルベロスに喰われ始めると大声をあげて興奮する。


「うはw ライブ最強!! この興奮を味わったら、映像なんかにゃ戻れねえ!! うはw うははww うはははwww うははははwww」


 逆村さかむらの狂った高笑いは、女が絶命するまでつづいた。

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