第92話 おじさん、無理難題に活路を見出す。

「よかったー。ワタシ、赤と青のシェールストーンを使うと、びっくりしちゃって目をつむっちゃうクセあるんですー」


 俺は、能天気に話す未蕾みつぼみミライの潜在能力に度肝を抜いていた。

 慌てて、未蕾みつぼみミライの隣にいる田中くんに「こっちこい」と手招きをする。

 小走りに走ってくる田中くんに、開口一番、思ったことを口にした。


「田中くん! 最初に言っといてくれよ! 危うく燃えカスになるところだったじゃないか!」

「いやー、すみません」


 俺の魂の叫びに、田中くんは頭をかきながら謝罪をする。めっちゃ軽いな、おい!


 とにかく、鶴峯つるみねがなんで俺に、未蕾みつぼみミライのコーチを依頼してきたかようやく理解ができた。確かに、あのとんでもない破壊力を自在に操ることができるようになれば、下層モンスターはおろか、ダンジョンの主にさえ通用する超一級の戦力だ。


 そして、身をもって彼女の超火力の秘密も理解できた気がする。俺は確認のため田中くんに質問をする。


「さっきの未蕾みつぼみさんの試射だけど、録画とかしてあるかい?」


 質問を受けた田中くんが、擦り傷だらけの顔をニヤリとさせて親指を立てる。


「バッチリです。局長から、録画するように指示をうけていましたから! いま、再生しますね」


 鶴峯つるみねが? あいつイヤに根回しがいいな……俺は、スマートウオッチを操作している田中くんをながめる。

 田中くんは、スマートウオッチをスイスイとあやつると、未蕾みつぼみミライの大火球で焦土となった赤壁に、先程の試射を投影する。


 俺はその映像を観て、仮説を確信へとかえる。


「なるほど、なるほど。やっぱりそうか!」

「ちょっとちょっと、田戸蔵たどくらさん。ひとりで納得していないで、俺にもわかるように説明してくださいよ!」

「ああ。さっきの映像だが、スロー再生をしてくれないか? 未蕾みつぼみさんが矢を放った瞬間を」

「わかりました!!」


 田中くんが、俺の依頼に難なく答えて巧みにスマートウオッチを操作していると、


「どうしたんですかー?」

「ちょ、ふたりで盛り上がってずるいッスよ!!」


 俺たちの会話の様子を遠くで見ていた未蕾みつぼみミライと、鈴木くんも近づいてきて会話に参加してくる。


「これを見てくれ、未蕾みつぼみさんの試射の様子をスロー再生してもらった」


 焦土となった赤壁には、未蕾みつぼみミライが、目をつむりながら赤のシェールストーンを射抜いた瞬間がコマ送りで再生される。


「ん? へんッスね。割れた瞬間に炎が発生してないっすよ??」


 鈴木くんの疑問に、俺は大きくあいづちをうつ。


「そう! それがこの規格外の大火球の原因だ。未蕾みつぼみさんは、弓を射ったあとにシェールストーンを発動させてるんだ」

「と、言うと?」

「さっぱり意味がわかんないッス!」

「ねー♪」


 3人あわせて首をひねるなか、俺は興奮気味に話をつづける。


「本来であれば、シェールストーンの威力は、発動する人物から近いほど威力が増す。だが未蕾みつぼみさんは、距離にして5メートルほど離れたところから、赤のシェールストーンの効果を発動させているんだ」

「と、言うと?」

「ジブン、さっぱり意味がわかんないっす!」

「ねー♪」


 3人がひねった首を、今度は逆方向にひねるなか、俺は説明をつづける。


「つまり、未蕾みつぼみさんは『自我の星』の他にも『遠隔の星』を宿しているってことさ」

「『遠隔の星』って、シェールストーンを遠くからでも操る能力ですよね?」

「ジブン、さっぱり意味がわかんないッス!」

「ねー♪」


 田中くんの質問に、俺は返答する。


「ああ。多分だけど未蕾みつぼみさんは、自身の暴走ともいえる巨大な力を、無意識下のもと、距離を開けて使用している。

 だいいち、あんな巨大な威力の火の玉を眼の前で発動させたら、自身がまきこまれてしまうからな」

「なるほど……」

「ジブン、さっぱり意味がわかんないッス!」

「ねー♪」


 うーむ……田中くん以外はピンときていないようだが、話をつづけよう。


「そこでだ。未蕾みつぼみさんの『遠隔の星』の強度を測りたい。悪いがもう一度さっきと同じ場所から、赤のシェールストーンを撃ってくれないか?

 でも、今度は打つ瞬間には目をつぶらないで。矢が崖にぶつかる瞬間に、目をつむってくれないかい?」

「ええー! それ、めっちゃ怖いんですけどー!?」

「大丈夫だ。俺と鈴木で、ミライの目を無理やりこじ開けておくから」

「任せるッス!」

「ええーーーーーー!!」


 田中くんと鈴木くんは、いやがる未蕾みつぼみミライの背中をぐいぐいと押していって、崖から30メートルほど離れると鈴木くんが声をはりあげる。


「準備オッケーッス!!」


 俺は、再び1メートルの円を描き、その中心に「✕印」をつけると、3人の方を振り向く。

 傷だらけの男性ふたりが女の子の両目をこじ開けた姿はいかんともシュールすぎるが、これも立派な調査の一環だ。


「さっきと同じ要領で矢を射ってくれ! ただし、目をつむるのは矢が崖にぶつかる瞬間だ。いいな!!」

「は、はいーー!!」


 未蕾みつぼみミライの不安がる返事が聞こえてくる。そして、


「さーん、にー、いーち……えーーーーーーい!!」


 矢は風切り音を震わせながら、的の中心付近に刺さろうとする。その刹那、


 ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 矢がすさまじい勢いで爆ぜ、たちまち大きな火急へと変化する。

 予想通り。未蕾みつぼみミライは『自我の星』と同等近い『遠隔の星』の持ち主だ。

 そしてこれなら、最低限の弓矢の精度と破格の破壊力を両立できる。

 能力が『遠隔の星』に特化したヒサメのように百発百中とはいかないだろうが、充分過ぎる能力だ。


「うおおお! ぱねえッス!!」

「ミライ、お前すごいじゃないか!!」

「え? え?? ええー??」


 抱き合って喜ぶ3人を遠目でみながら、俺はスマホを取り出すと、メッセージアプリを起動して、家で待つササメ宛にスマートにフリック入力をした。


『これからカエルります』






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