第85話 おじさん、弟子の弟子ふたりとバトルする。
「ルールは、オートバリア無し、シェールストーンによる直接攻撃なしのー、ストロングスタイルだよーそれじゃあー、レディー、ファイト~!!」
ふたりは、小さな吸入器型の容器に黄色いシェールストーンをセットすると、頭頂部のボタンを押して、よく振ってから思い切り吸い込んだ。
それを見て、俺もポケットから黄色いシェールストーンを取り出すと、右手でパキリと割って、溢れ出る黄色い霧を吸い込む。
ダンジョン探索者のライセンスの色は、戦闘能力というか、シェールストーンへの適応能力によって変化する。
初心者のグリーンライセンス。
黄色を除く、4色のシェールストーンを使いこなせるようになり、基本的な戦闘スタイルを覚えた中級者のレッドライセンス。
黄色いシェールストーンを体内に摂り入れて超人的なパワーを使いこなせる能力と、その反動を抑えることができる上級者のイエローライセンス。
そして、自分だけのカスタムモデルの武器を持つことができる特級者のシルバーライセンス。
最後に例外の、表向きには知らされていない、ダンジョンの最下層への任務を帯びたネイビーライセンスだ。
ネイビーライセンスの所持者は、イエローライセンス以上の探索者から選ばれるから、実質イエローライセンスが、最高位のライセンスと言っていい。
むしろ、シルバーライセンスに偽造したネイビーライセンス者がほとんどで、つまりカスタマイズモデルを使う探索者は、ごくごく稀なひとりぎりの存在だ。
その証拠に、ネイビーライセンス持ちの田中くんと鈴木くんも、武器は市販モデルを使用している。
前衛にシェールストーン製の大盾とショートソードを持った田中くん。
中衛に身の丈2メートルの長槍を持った鈴木くん。
そして本来ならば、後衛に短弓をもった、フィニッシャーの
が、どうやら今日は違うフォーメーションで戦うらしい。
模擬戦がはじまった途端に、鈴木くんが俺から距離をとり、大回りで田中くんと対角線上の位置についた。
なるほど、つまりこれが本来のふたりのバトルスタイル。
挟撃によるコンビプレイだ。
(フォーメーション13)
ん? なにか聞こえる。
(了解ッス)
ごくごく小さな声がささやきかけてくる。その瞬間、田中くんが盾を構えて猛突進をしてきた。
「グゥッ!」
俺が左手の義手をかまえて、田中くんの突進を受け止めると同時に、
ビュオン!!
背後から鈴木くんの高速突きが襲いかかってきた。
俺は大きく飛び退いてその攻撃をかわすと、再びささやき声が聞こえてくる。
(フォーメーション8)
(了解ッス)
すると、田中くんがショートソードを抜いて下段斬りを放ち、同時に鈴木くんの横薙ぎが飛んできた。
「ガギィイイン!!」
俺は、下段斬りをバックステップでかわすと同時に、左手の義手で、横薙ぎの槍をガードする。
なるほど。そういう事か。
おそらく、あの独特なサングラスにマイクかなにかが仕掛けられているのだろう。
田中くんの指示を受け、鈴木くんがタイミングを合わせて同時攻撃を行う。
見事なコンビプレイだ。
だが……。
(フォーメーション10)
(了解ッス)
あいにく俺は耳が良い。
俺は田中くんのショートソードによる袈裟斬りをバク宙でかわすと、ドンピシャのタイミングで、眼下に鈴木くんが放った渾身の高速突きが通過する。
(まさか!?)
(そんな避け方アリっすか!?)
田中くんのフェイク攻撃を避けたところに、鈴木くんが避けづらいタイミングで、高速の槍を放つ。
見事なコンビプレイだ。
だが、ふたりは息が合いすぎている。
攻撃のタイミングがバレてしまえば、鈴木くんのピンポイントすぎる攻撃が、かえって仇となる。
おどろくふたりをよそに、俺は鈴木くんの槍を右手でギリリとつかむと、そのままバク転の遠心力を利用して、槍を思い切りねじりあげた。
「ギャ!!」
ドシャ
勢いよく槍を突いていた鈴木くんが、体制をくずして倒れる声が聞こえる。
まずはひとり。
俺は着地と同時に、槍をつかんだまま尻もちをつく、鈴木くんのトドメを刺しに向かった。
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