第83話 おじさん、年齢不詳の可憐な少女と再開する。

 魔法陣を抜けると、そこは一面の赤い大地だった。

 周囲には切り立った崖のような山がそびえ立ち、まるで干上がった川底にいるような錯覚をしてしまう。


「あ! 田戸蔵たどくらさんだー! ご無沙汰してますー!」


 そう言ってちょこちょこと駆けて来たのは、未蕾みつぼみミライ。『ミライのゆるダンチャンネル』の配信者で、田中くんと鈴木くんの雇い主にあたる。


 本職はフードコーディネーターだが、10年ほど前、趣味で始めたソロキャンプで食べる料理のクオリティと、150センチに満たない小さな身体でのとんでもない大食いっぷりが話題になり一躍人気配信者となった人物だ。

 今は、活動の場をダンジョンに変え、ダンジョンの絶景の中でご飯を食べる動画で100万人近いチャンネル登録者を持つエンジョイ系の人気探索者だ。


「今日はー、よろしくおねがいしますー! あくしゅあくしゅー!!」


 俺は、ニコニコと笑う未蕾みつぼみミライと握手をする。

 小柄で華奢で、パッと見はロカと同じ女子高生、いや、中学生と言っても全く気づけなそうだ。(本当の年齢は何歳なんだろう……)


「おはようございます!」

「どもッス!」


 未蕾みつぼみミライの後ろをついてきた、田中くんと鈴木くんもあいさつをしてくる。配信のときと同じ、スタイリッシュなスーツ姿だ。いかついサングラスは外しているけれども。


「おはよう。今日は俺との模擬戦を希望しているんだって?」


 俺の質問に田中くんと鈴木くんがうなづく。


「はい。よろしくおねがいします」

田戸蔵たどくらさん、めっちゃ人気なんスよ。俺たちも1ヶ月の予約まちで、ようやく順番がまわってきたんスから」

「は? 順番待ち?? なんのことだ???」


 俺は、額に手をやり、まったく見に覚えのない事柄に首をひねる。


「お、そのポーズ!!」

「このサイトの『挑戦状』とまったく同じッス」

「は? 挑戦状?」


 ますます意味が解らない。俺が困惑の表情をうかべると、鈴木くんが、スーツの内ポケットからスマホを取り出す。


「な、なんだこれ!?」


 スマホの中に、頭に手をやって、不敵な笑みをしているおっさんが写っている。

 そして、その上にはトゲトゲとした吹き出しで、


『俺様を倒したら賞金1000万!

 こわっぱ共、まとめてかかってくるがいい!!』


 と、書かれてある。


 なんだこれ? 控えめに言ってもダサすぎる。


「いやー、感動しましたよ。ネイビーライセンスを取得する際に、局長と会談して、後進の育成のために、田戸蔵たどくらさん自ら指導に当たられる事になるなんて!」

「そうそう! 探索庁のページにある、伝説の探索者ふたりの対談、最高にしびれたっス!」

「は? 対談?? 何だそれ???」


 俺は、鈴木くんからスマホを受け取ると、画面をスクロールする。そこには、鶴峯つるみねと俺の対談風景をまとめた記事が載っている。

 内容は、俺が昨今の探索者のレベルの低さになげいているという内容だ。


 なんだなんだ?? こんなコト、俺、一言も話した覚えがないぞ!

 そもそも鶴峯つるみねと対談なんかした記憶なんてないぞ!!

 鶴峯つるみねのやつ! 記事を勝手に捏造しやがったな!!!


「そんな訳でー、きょうはスペシャル企画ー。ミライの謎の探索者ミステリーハンターが、最強の探索者とガチバトルやってみた! でーす!! パチパチパチーーーー!!」


 気がつくと、未蕾みつぼみミライがいつの間にか生配信をやっているなか、田中くんと鈴木くんは、配信で見覚えがある近未来的なサングラスをかける。


「そういう訳で、対戦よろしくお願いします」

「俺たち全力でいきますんで!! 手加減なんてしないでくださいよ?」

「は? ちょ、ちょっとまってくれ!」


 俺があわてふためくなか、未蕾みつぼみミライが視聴者の書き込みを見て大声を出す。


「そうなのー。最強の探索者の正体はー。ロカちゃんのADのおじさんなのでーす! でしょ? でしょ? すごいよねー」

「お、おい、田中くん、鈴木くん、悪いがこの配信、中止してくれないか? 頼む!!」

「……………………」

「……………………」


 ダメだ、返事がない。

 無言で未蕾みつぼみミライのサポートをする謎の探索者ミステリーハンターになりきっている!!


「ルールは、オートバリア無し、シェールストーンによる直接攻撃なしのー、ストロングスタイルだよーそれじゃあー、レディー、ファイト~!!」

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