第64話 美少女、最下層の光景におどろく。

 池の中に隠された魔法陣をぬけると、そこは全面むらさき色をした禍々しい景色だった。

 鋭角に尖った岩が地面からザクザクと突き出していて、近くを流れる川や池は血のように真っ赤に染まっていて、ぶくぶくと怪しいあぶくをだしている。そしてその池から、噴き出したカスミが視界を悪くしている。


 魔界? 地獄? とにかく、なんかゲームのラスボスがいそうな……そんな感じ。


 そんな気色が悪いところにいて。気分は最悪かって?

 ううん、それがまったく。

 それどころか、全身からパワーが漲ってくる感じ!


「すごい! リュックの重さを全く感じない!!」


 アタシは楽しくなってその場をピョンピョンとはねていると、おじさんがいきなり注意してきた。それも、大真面目な顔をして。


「最下層は、異常にマナの濃度が高いんだ。あんまりはしゃいでると、すぐにバテてしまうぞ」

「え? この漂っているカスミが、全部マナなの?」

「ああ。見てみろ。ちょうどモンスターが生まれる瞬間だ」


 アタシはおじさんが指差した方向を見た。

 カスミ状のマナがつむじ風のように上昇している。その上空には魔法陣がある。第13層でサイクロプス型を吸い込んでいった魔法陣とおんなじ紋様だ。


 マナのつむじ風は、上空にいくにしたがってどんどん細くなっていき、密度が濃くなっていく。そして、


「あ! シェールストーンになった!!」


 マナのつむじ風は、魔法陣のすぐ手前でいくつかのシェールストーンに変化すると、そのまま魔法陣の中へと吸い込まれていった。


「あれが、モンスターの正体よ。ダンジョンにいるほとんど全ての生物は、シェールストーンによって生み出されたかりそめの生命体。

 ダンジョンの最下層は、さしずめモンスターの生産工場といったところね」


 ヒサメさんの説明を聞いたアタシはダンジョンの天井を見回す。

 なるほど、50メートルくらいの高さにある天井には、大小無数の魔法陣が浮かんでいて、マナのつむじ風ができている。


「そっかー。だからモンスターって倒しても倒してもあとからあとから湧いて出てくるんだね」

「そう。そして大量のマナを生み出す幻獣を封印しているのが、あの鉄柱だ」


 アタシはようく目を凝らして見る。

 マナのカスミの中に、うっすらと白い柱が見える。柱は、すり鉢状の最深部に向かってまっすぐと突き刺さっていた。


「幻獣を封印したのって、ひょっとしておじさん?」

「まさか! 俺にはあんな化け物手に負えないよ。

 この鉄柱は300年前、当時の徳川幕府お抱えの3人の陰陽師が3年がかりで作った結界、庚申こうしん塚だ。

 この庚申こうしん塚は、うしとらのダンジョンに全部でみっつある。

 西、西南西、西北西に建てた3つの封印を合わせた、金行方合きんぎょうほうごうの術で、幻獣を封印したんだ」

「ふ、ふーん、そうなんだ」


 なんだか話が大きすぎて、さっぱり意味がわかんない。でもとにかく、江戸時代のすごい陰陽師が3年がかりで封印するなんて、きっととんでもない化け物なんだろう。


「姉さんは、15年にわたって、このうしとらのダンジョンに封印された幻獣を監視している任についているの。

 そして、義兄にいさんは、その幻獣を封印している庚申こうしん塔を監視する任についているの」

「もっとも、今は休職中だがな」

「休職中? ひょっとして、おじさんがダンジョン整備士の仕事をしてたのって……」

「ああ。10年前、庚申こうしん塔がある第6層の所有権を、逆村さかむらさんの一族が主張して、ダンジョンアトラクションの拡張工事を始めてな。

 俺は整備士として雇ってもらって、庚申こうしん塔を監視していたんだ。

 第6層のダンジョンアトラクションがオープンしたら、再び監視の任務に就く予定だ」

「そうだったんだ……」

「さあ、そろそろ長話はおわりだ。最深部に急ぐぞ」

「あ、待ってよう!!」


 アタシは、スタスタと歩いていくおじさんを追いかけて、おじさんの奥さんのササメさんがいる、最深部へとつづく坂道をくだっていった。 




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