第7話 おじさん、美少女と待ち合わせる。

 ロカの配信ADとなった一週間後、俺は、うしとらのダンジョンの入り口前で待ち合わせをしていた。

 高校生のロカがダンジョン探索ができるのは、学校が休みの時だけだ。


 今日は土曜日、時刻は9時50分。ダンジョン解放の10分前だ。

 今日もダンジョンの入り口には、一般客が長い列をつくっている。


 ブルブル……ブルブル……


 胸ポケットが小刻みに震える。俺は、胸ポケットに入れたガラケーをパカリと開くと、液晶画面には『露花つゆはなロカ』と書かれてあった。


「もしもし」

『あ、おじさん? 今、どこにいるの?』

「ダンジョンの入り口だ」

『りょーかい! すぐにそっち向かうから、そのまま電話切らずに待ってて』

「ああ」


『あ、いたいた、おーい、おじさん♪』

 数十秒後、笑顔で手を振りながらこちらに向かってくるロカを確認すると、俺はガラケーの電話を切り、胸ポケットにしまった。


 こちらに向かってくるロカは、ひざ上丈のフレアカートにへそ出しファッション。相変わらずダンジョン探索に赴くとは思えないようないでたちだ。

 腰に携えたショートソードがなんともミスマッチだ。


「おまたせ! おじさん! うわ! 今日も手ぶらなんだ!」

「ああ、ダンジョン探索は身軽なのが一番だ。最近の武器は、扱いがややこしくてこまる」

「おじさん、本当っっっっにメカ音痴なんだね。わたし、ガラケーなんて初めて見たもん。てか、電話使うのも久々だよ。待ち合わせだったらふつーはチャット使うじゃん。いーかげん、スマホにしたら?」

「問題ない。携帯電話は電話がかけれれば事足りるだろう?」

「うわー。しんじらんない! アタシはスマホがないと死んじゃうよぉ」


 俺たちは一般客の行列を突っ切って、探索者用入り口へと向かっていく。すると一般客が、俺たちふたりのことを見ながらひそひそと話す声が聞こえてきた。


「なんだ? あのふたりぐみ、探索者用の入り口にむかっていくぞ?」

「あの女の子、どう見ても女子高生だよな?」

「おっさんと、露出度高めの女子高生?」

「あの女の子、大丈夫か? あのおっさんに騙されてるんじゃないのか?」

「犯罪臭がぷんぷんするw」


 ……エライ言われようだな。のも困りものだ。


「ん? どうかしたの??」


 周囲の陰口が聞こえていないロカが首をかしげる。


「……いや、なんでもない」


 俺は話題をかえる。


「それより、今日は第何層に行くんだ?」

「第7層! てか私の『グリーンライセンス』だと、それ以上地下には潜れないよ」


 ロカはふくれっつらをしながら、緑色のライセンスが入ったパスケースを首にかける。


「そういえば、おじさんのライセンスの色、なんで黒色なの? そんな色のライセンスあったっけ?」

「え? ああ、俺がライセンスを入手したのは相当昔だったからな。その時はこの色しかなかったんだよ」

「ふーん、そーなんだ」


 俺はとっさにウソをついてごまかした。

 俺が持つのは一般には流通していない『ブラックライセンス』。ダンジョンの最下層を探索できる、特別なライセンスだったからだ。

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