1ー2
さあ、起きて! 君はこれから、みんなの期待を背負った少年ヒーローだ!
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確かに僕は、布団の中で眠りについていたはずだ。謎の奇妙な声が聞こえ、目を覚ますと、僕はどことも知らない学校の屋上で倒れていた。
「んん……」
僕はそんな声をあげて、体を起き上がらせる。
周りを見渡すと、街中が寝静まったように暗く、その上空にはその景色を見守るような星空が広がっている。夜の風が、僕の頬を優しく撫でる。
僕の目の前には、白色の腕まくりのパーカー、ベージュの短パン、黒タイツ、スニーカーといった装いの、男の子の後ろ姿がある。左耳にイヤホンマイクをかけたその男の子は、ライフルらしきものを片手に持っている。僕と同い年くらいだろうか。
……ライフル?
そう疑問に思うと同時に、僕はまた、ありえないものを目に映す。
「えっ……?」
ライフルを持った男の子の前にいるのは、屋上の柵から顔を出す、無数の巨大なハエトリグサだった。そいつらはうねうねとゆっくり成長しながら、ピンク色の大きな口の中を見せて咆哮を上げていた。
その咆哮に合わせて、男の子の服や髪、フードが乱暴に靡く。それでも男の子は余裕そうに地に足を付けている。
「え、ええっ⁉」
あまりの急展開に頭がついて行かず、驚愕の声を上げると、前に立っている男の子が僕の方を振り向いた。
「おお、起きたか。俺の名前はクワ。よろしく。早速だけどさ、君の力でこいつの根っこを切ってほしいんだ」
クワと名乗る男の子は、まるで僕を相棒か何かに向けるような、きりっとした視線で僕を迎えた。歓迎は、されている?
……って⁉
「僕の力⁉」
「そうだ、お前は光剣を扱えるんだろ? 俺はライフルで援護する! だからお前はこいつの根っこのところまで降りるんだ!」
「はっ⁉ いきなりそんなこと言われても!」
僕が声を上げると、目の前の巨大なハエトリグサ達の一匹がクワという男の子を避けるように、僕の方に回り込んで茎を大きく伸ばした。弱い方を先に始末しようとしているのか?
「えっ⁉」
瞬時にクワはライフルを構え、クワを避けるようにカーブした茎に向かって引き金を引いた。
瞬時に閃光が走り、その光は茎を貫いた。前に進む力を失ったハエトリグサは悔しそうに咆哮を上げ、涎を垂らしながらぐったりと屋上に倒れ、灰になっていった。
「すまない! きちんと説明している暇はないんだ! 頼む! 俺だけじゃこいつは倒せないんだ! ほら、鞘に光剣が納まっているだろう?」
クワは僕の体を見下ろす。
僕も自分の体を、あちこちと見る。僕の両手にはフィンガーレスグローブがはめられている。クワも同じものをつけている。
パジャマ姿だった僕は、いつの間にか黒に蛍光色のラインが入った短いジャケットとシューズ、白いシャツ、黒に白のラインが入った短パンという姿になっている。左耳には、クワと同じイヤホンマイクがかかっている。
「え、ナニコレ? いつの間に?」
鞘に光剣が納まっているだろう? というクワの言葉を思い出し、僕はベルトを確認する。左の方に鞘がついており、中には黒い筒状のものが入っている。
「え、これが光剣?」
「ああ、そうだ!」
クワはそう答えながら、また僕の所に茎を伸ばそうとするハエトリグサを打ち抜く。
僕はその黒い筒状のものを取り出す。バロメーターのような、うねうねとカラフルな光の混ざったラインの横に黒いスイッチがあり、僕はそれを軽く押した。
すると、空気を貫くかのように黒い柄から閃光が走り、どんな強敵でも斬れそうなほどのオーラのかかった光剣が出来上がる。赤、ピンク、黄色、青、黄緑、様々な色が混ざり合う光彩を放ち、僕はその震えを直に感じる。
「えええええちょと待って待って‼」
僕は動揺してスイッチを切り、光剣をただの黒い柄に戻す。
「ん? どうした?」
クワが訊く。どうしたも何も……。
僕はゆっくりと後退しながら立ち上がる。
「いやいやいやいや、無理だってぇーっ‼」
僕は黒い柄を握りながら、屋上の出口の階段へと走り出した。
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